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調達部門からイノベーションを起こすことはできるのか? - ハイアールの事例

先日、面白い記事を見つけた。

ハイアール「コスモプラネット」の先進性
サプライチェーン・プラットフォームから機敏にイノベーションを生み出す

調達部門は、単なる会社の買い物係なのか?
多くの場合、答えはYesだ。
要求部門から言われたとおりに外からモノを買ってくる、おつかい係。

じゃあどうすれば調達部門がおつかい係を脱し、イノベーションや付加価値を生み出すことができるのか。
中国の家電ブランドであるハイアールは、この問いに答えを与えてくれている。

優れた技術・人材を持つ外部企業と有機的に組むハブとして
調達部門を機能させる

こうすることで、調達部門を中心にイノベーションを生み出すことに成功したのだ。

ハイアールの挑戦

ハイアールは2012年、調達業務向けのデジタルプラットフォームを開発した。発注や生産計画の調整、在庫管理、支払い、といった基本的な定型業務の遂行が目的だったそうだ。

しかし、当時のCEOはこのプラットフォームをただの調達システムとして終わらせる気はなく、内外の重要な情報を結集できるプラットフォームにしたいと考えた。
例えば、供給の混乱、予期せぬ需要の変化、品質問題といった情報をすべてこのプラットフォーム上で管理し、サプライチェーンのレジリエンス(敏捷性)を高めることを望んだ。

そうして2016年に生まれたのが、ハイアールのサプライチェーン管理プラットフォーム「コスモプラネット」である。(Cloud of Smart Manufacturing Operation Platformの略)

ハイアール「コスモプラネット」の機能

ハイアールはコスモプラネットを世界20か国に展開した。
これにより、

  • 発注から納品までの時間短縮

  • 生産効率の向上

  • 欠品率の削減

  • 迅速な支払金の受け取り

  • 製品のカスタマイズ性の向上

という点で大きなメリットを受けられたそうだ。

同社のグループ会社でレジャー用車両を生産するコンバックス社は、

  • 生産サイクルが35日から20日に短縮

  • 調達コストが7.3%削減

  • 顧客の注文は62%上昇

という大きな成果を得た。
他のグループ企業も、製品開発、調達コスト、生産サイクル所要時間、売上高、純利益などのパフォーマンスが向上したそうだ。

ハイアールの調達プラットフォームは何がすごいのか?

では、ハイアールのプラットフォームは何がすごいのだろうか。
それは、サプライチェーンの上流から下流までの複数の企業のコラボレーションを促進する点だ。

多くの企業はサプライチェーン管理のみに特化したプラットフォームを提供していた。
一方のコスモプラネットは、サプライチェーン管理だけでなく、イノベーションエンジンでもあった。
多くの企業は、自社と取引のあるサプライヤーのみをプラットフォームに登録し、バイヤー企業側がサプライヤにタスクを指示する。
一方のハイアールは、プラットフォーム上にハイアールが直面する課題を提示し、サプライヤが解決策を提示したり、コラボレーションに参加することを認めているのだ。

このイノベーティブなプラットフォームから、ハイアールの新たな製品が生まれている。

  • スマート冷蔵庫

    • オンラインコミュニティでサイズ感や使用感の意見を収集し、数週間でデザイン決定

  • 移動式隔離ユニット(コロナ禍)

    • 病院へ寄贈する移動式のワクチン接種ステーションや検査ステーションを開発。単独では持っていないケイパビリティを融合させ、わずか2週間で実用レベルの試作品を納入。

ハイアールはコスモプラネットのおかげで、必要なケイパビリティを持つ適格なサプライやを複数の層で集められるようになった。

どうすれば同様のプラットフォームを構築できる?

HBRには3つのポイントが示されている。

  1. サプライヤネットワークを迅速に拡大する:多くの企業は、現行のサプライチェーンの効率性や敏捷性を向上させることを重視する。しかし、気候変動やパンデミックにより、企業は既存のサプライチェーンを迅速に組み替えていく必要性に迫られる可能性が高まっている。気候変動による災害はこの50年間で5倍になっているとのデータもある。コスモプラネットのようなオープンなプラットフォームは、新たなパートナーサプライチェーンへの参画を促すことができる。

  2. 調達の先に目を向ける:サプライチェーンをデジタル化する第一に目的はたいてい原料や物資の流れ、支払いなどをサプライチェーンに関わるメンバー間で共有・管理することにある。しかし、全く新しい製品やサービスの開発が求められるようなシーンに直面した場合、新たな顔ぶれをそろえる必要が出てくる。デジタルプラットフォームで、優れた技術を持つ企業と簡単に協力しあえるようにすることで、イノベーションを生むことができる。

  3. プラットフォームの提供にとどまらないサポートを行う:これは結構重要。課題解決・イノベーションの取り組みへの参加を外部企業に促すには、デジタルプラットフォームを提供するだけでは足りない。コラボレーションが自社の利益になることを外部企業が確信できることが必要だ。そのためには、実際に参画した場合のルールや利益について、明確に規定しておく必要がある。

どんな機能があるのか?

ハイアールのサプライチェーンプラットフォームは3つのモジュールで構成されている。

  1. 協調的イノベーションと設計:両社の設計チームが技術的な問題解決策を思いついたときの情報交換のプロトコルを提供。プロジェクト管理のテンプレート、目標期日の監視、知的財産の使用許諾管理などが含まれる。試作品の製作から量産までの移行を支援する。エンドユーザを対象にした調査を行い、デザインに対する意見の収集を行うこともできる。

  2. 生産リソースの統合:サプライチェーンを構成する基本機能。さまざまな層のサプライヤが、ケイパビリティの調査や生産能力の調整を行う。一般的なサプライチェーン管理プラットフォームは、多層的なサプライヤの取り込みやネットワークを動的に変更する機能を持っていない。

  3. 流通とサービス:新製品に必要な流通、ロジ、アフターサービスの調整を行う。

これらのモジュールは、ハイアールのサプライヤだけでなくどの企業でも申し込むことができる。ハイアールからの正式な招待は不要である。
質問票への回答、自社の資質のケイパビリティのエビデンスとなる書類を提出するだけで良い。
企業の登録後、ハイアール側でレビューが行われるがその作業は1日程度しかかからない。(実際プロジェクトに参画する際には、現地視察を含む丁寧なデューデリが行われるそうだ。)

参画のハードルを低くすることで、コスモプラネットはケイパビリティの持続的な拡大に成功しているのだ。

今後、エネルギー消費量や温室効果ガスの削減管理、デジタルツインといった新たな機能が追加されるとみられている。

調達からイノベーションを生み出そう

コスモプラネットは、平時にも有事にも利益を生み出すことができるプラットフォームだ。緊急時に備えて、原料や部品の在庫を大量に備蓄したり、生産、ロジに大幅なバッファを持たせる必要もなくなる。

VUCAの時代に、自社内だけで閉じたイノベーションを起こすことは不可能に近い。様々な外部企業と共創が不可欠だ。

外に開かれたサプライチェーンプラットフォームという、新たなイノベーションが起きるコミュニティを調達部門が中心となって運営していくことで、調達部門もイノベーションを起こすことができるようになっている。
様々なサプライヤや外部パートナーとの接点であるという立場を多いに利用して、どんどん付加価値を生み出していってほしい。

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