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【創作】「愛してる」は「君を忘れない」という意味だそうです。

好きだと思った。
単純な思いだ。
好きか嫌いか。

…それなら好きだよ。

その程度の軽さ。
その程度の…軽さに、留めおいていたはずなのに。
重くなりすぎないようにと、自身の秤で調節していた思い。
好きが愛してるに変わった瞬間が確かに存在して、でも見て見ぬふりをして。
思いが重くなったら、それだけ好きに埋もれてしまったら…抜け出すのは本当に、辛いから。
辛いから、踏み込むのは嫌だったのに。

肌寒くなってきた秋から冬の変わり目。
僕と君の間を冷たくひえた風が横切った。
それと同じくらい、君の目には温度が無かった。
出会った時の、あの暖かく、時折熱が籠った瞳は…もう、僕の目には映らない。
ただ、冬の雨のような、冷たく、少し湿り気と肌寒さと、寂しさと、綯い交ぜになった、そんな視線。

「私達、さ、もう…」

それを知りつつも、僕は告げられる言葉を覆すことを諦められずにいた。 自分の中で日々募る思いを好きという言葉で発散して。
もうとっくに好きなんて通り越している感情を、ひた隠して。自分のエゴのために。
ただ、相手の負担になるまいと必死に必死に抑え込んで。作り笑顔を浮かべて。

「そうだね。別れよう───」

性別の壁よりも、相手が異性でも、ただ返ってくる好きという言葉に、重みが感じられなくなったのはいつからだろう。いつから重さが逆転してしまったんだろう。いつから測り間違えたんだろう。いつから、いつから…。
気付いたらそうだった。一方通行な気がした。
今回も。
信じて手を取った。
信じて熱を重ねた。
信じて…思って……愛して。

またね、と去るその人の背に、小さく、本当に小さく、やっと、あいしてる、と口にした。
また、はもうない。
僕はもう、貴女を忘れるよ。

一方通行だった気持ち。僕だけが重くて。いつしか意味を取り違えていて。
幸いなのは、相手にその重さが伝わっていなかった、それだけ。 僕の苦しみは知らなくていい。 葛藤も、苦しさも。踏み込む怖さも。伸ばされた手を取る時に少し躊躇したことも。知らなくていい。
ただ、忘れられない人になるだろう。君は。
きっと、もうそれは知るはずもないだろうけれど。
秋風に吹かれながら、髪を揺らして遠くなる背中に、僕も背を向けた。

ありがとう。

君を困らせないように、気持ちを悟られないように。 会うのはこれが最後。
スマホの履歴から、君の名前を探して、消去を押した。

悲しくなんてない。
愛してる、のは、事実なんだと。
そう認めなくちゃいけない。
今、認めなくちゃいけないんだ。
この気持ちに、ピリオドを打つには。

固く握りしめた拳と、何故か頬を伝う涙と。

ごちゃ混ぜの心のまま、前を向いて歩き出す。
パーカーのフードを被り、マスクも目深にして、まるで影のように。都会の闇に溶け込むように、早足で歩く。

「寒いなあ、」


時折、流れ落ちる涙を拭い、鼻をすすりながら地下鉄へと続く地下道を走る。
冷えきった風が雪崩込むように、階段を降りる僕を包んでは消えていった。
帰ったら…そうだな。
まずはコンビニでお酒を買おう。
これまでを一つ一つ噛み締めながら、1人部屋で鼻をすすりながら、みっともなく泣きながら、思い出を消していこう。
泣きながら酒を飲んで、馬鹿みたいにぐしゃぐしゃに顔を歪めて、涙とともに思い出を流していこう。
この傷口を、時が解決してくれるまで。
情けなく涙を流そう。

さようなら。あいしてる。


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