ロシア国内で声をあげるということ

前回の投稿では、思った以上に賛成派が多く、その層が増えていく可能性にも言及した。

https://note.com/preview/nf6b2906910cd?prev_access_key=c74e87d05a14222cf24498dd912697fb

​一方で反対する人々も決して少なくない。しかしその動きを外から認識するのは、難しい状況にある。

大きな理由のひとつは、いわゆる「フェイクニュース」を拡散したことに対する刑事罰の厳罰化だ。
この1ヶ月で、ロシア軍や大使館などの機関に関するフェイクニュースを拡散した場合には最大禁錮15年が課せられるようになった。
この15年というのは最大値だが、職務上の行動であることは加重の条件のようで、特にマスメディアにとってリスクの高い状況となっており、独立系メディアの活動が制限されるひとつの要因になっている。

また抗議活動による拘束・逮捕・行政罰のリスクもここ数年上がっていることは皆理解しており、その行動と自分の生活を天秤にかける状況がつくられている。その中で政治に対する無力感、無関心も増幅されてきた。

ひとつ、象徴的な動画を紹介したい。

これはロシアの人気スタンダップコメディアン、ダニラ・ポペレーチュヌィが投稿した動画である。

砂漠の中で、ただ風が吹いているだけの動画。

元々ここには、一時的に国外へ退避した彼が、できる限り言葉を選びながら自分の思いを語る姿があった。

その修正に関して、自らのテレグラムチャンネルで経緯を語っている。

それによると3月26日、当局からYoutube事務局経由でロシアの法律に違反するコンテンツだという警告を受け、修正を余儀なくされたとのこと。
ダニラ曰く、ロシアへ帰国予定の自分にとって、動画を閉じるか、自らを閉じるか(=逮捕・投獄)という二択だったようだ。

修正前の動画の中で、印象に残っていた部分がある。

ロシア国内で反対派に向けての言葉として、「あなたは(ドンバスの人々が苦しんでいた)8年間どこで何をしていたんだ」というものがある。

これに対しダニラは、「自分は声をあげていた」と言う。彼は反政府集会などにも出ていたので事実だろうし、また政府風刺もずっとしてきたコメディアンでもある。

その彼でも、今の国内の状況(無関心と制限強化)を考えると、「その瞬間はもてはやされるが、時間が経つにつれ人々は忘れてしまい、自分は投獄され何の活動もできなくなる」ため、法を犯してまでの発言はしないと語っていた。

この考えは、非常に今の国内の沈黙層の状況を表していると思う。

その行動で仕事や家族を失う覚悟があるか、その発言で投獄される覚悟があるか。
ロシアで暮らす人々は国籍関係なく、その問いを心の中で繰り返すことになる。

「それは理由にならない」「そのリスクは今起こっていることと比べれば大したことはない」という声はあるかもしれない。
その苦しみは、他の苦しみと比べるべくもないかもしれない。

ただそれでも、声をあげられない人々、声をあげないことで自らの思いを示している人々、できる範囲で声をあげようとする人々がいるであろうことは、心に留めておいてほしい。

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