プーチンの戦いか、ロシア人の戦いか

はじめに

今回の出来事は、どのような形で終わるにしろ将来のロシアという国に大きな影響を残すだろう。

その中でこれは独裁政権の上層部だけが支持し責任を持つのか、(正統性には疑問が残るとしても)その上層部を選んだロシア国民に責任がどの程度あるのか、いわゆる情報統制による洗脳を受けているのか、という議論がある。

今回は最新の世論調査を紹介し、そののちロシア国内の一連の出来事に対する状況を自分なりに考察したい。

世論調査について

まず初めに、ВЦИОМ(全ロシア世論調査センター)が3月23日に発表した「特別軍事作戦モニタリング」調査を見ていきたい。

前提として、ВЦИОМがどれほど独立した調査をしているかという点には疑問がある、というところは指摘しておく。

・特別軍事作戦を支持するか(2月25日→3月17日)
賛成:65%→74%
反対:25%→17%
回答しない:10%→9%

・特別軍事作戦の主な目的は何か(3月3日→3月17日)
自衛、ウクライナの非軍事化、およびウクライナ領内へのNATO基地建設阻止:46%→46%
ウクライナの路線転換とナチス主義者の排除:19%→19%
ドンバス地方(ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国)住民の保護:18%→17%
ウクライナ占領、ロシアへの編入:5%→5%
その他:8%→7%
回答しない:4%→6%

・自分の住む地域で生活レベルの低下、不公正な政権、自分の権利と自由の防衛のために反対運動が起こると思うか(2021年2月→8月→2022年2月→3月17日を抽出)
十分あると思う:31%→24%→21%→18%
ないと思う:61%→68%→72%→75%
回答しない:7%→8%→7%→7%

・反対運動が起こった際に参加するか(2021年2月→8月→2022年2月→3月17日を抽出)
参加する:14%→18%→18%→10%
参加しない:81%→76%→76%→85%
回答しない:5%→6%→6%→5%

この調査によると、特別軍事作戦に対する支持は日毎に上がっており、また反対運動が起こりうるという考えは減り、特にその運動に参加すると答える層はこの1ヶ月で激減している。

また一貫してその主目的はロシアにとっての自衛のための非軍事化(ほぼ半分が支持)、もしくはウクライナの非ナチ化やドンバス保護であるとみており、その層は約8割を占め、ウクライナ占領だと思う人々は5%しかいない。


併せて、ロシア政府が外国エージェントとみなしているレバダセンターの世論調査結果をいくつか紹介したい。以下の調査は2月24日よりも前に行われた可能性が高いが、傾向は観測されるだろう。

まず定点的観測がされているプーチン大統領の支持率だが、2022年2月はコロナ後初めて70%を超える支持(2019年10月以来。71%)を集めた。

https://www.levada.ru/indikatory/odobrenie-organov-vlasti/

次に、諸外国に関する各個人の関係性についてだが、2月にはロシア国民の対諸外国への感情が(一部例外を除いて)悪化している。
対アメリカ(2021年11月→2022年2月)
良い:45%→31%
悪い:42%→55%
回答しない:13%→13%
対EU(2021年11月→2022年2月)
良い:48%→37%
悪い:38%→48%
回答しない:14%→15%
対英国(2008年1月→2018年3月→2022年2月)
良い:61%→25%→37%
悪い:21%→51%→45%
回答しない:18%→24%→18%
対ドイツ(2015年11月→2019年8月→2022年2月)
良い:73%→61%→53%
悪い:17%→25%→30%
回答しない:10%→14%→16%

なお若者層は好意的にこの国々を捉え、年齢が上がるほど悪化していく傾向があることも、この調査では示されている。

https://www.levada.ru/2022/03/14/otnoshenie-k-stranam-8/

最後に、2月24日に発表されたウクライナおよびドンバス地方に関する調査を紹介する。

https://www.levada.ru/2022/02/24/ukraina-i-donbass-2/


対ウクライナの関係性(2021年11月→2022年2月)
良い:45%→35%
悪い:43%→52%
回答しない:12%→13%

ウクライナ情勢を追っているか(2022年2月)
とても注意深く追っている:20%
注意深く追っている:24%
特に気にして追ってはいない:38%
全く追っていない:14%
聞きもしない:4%

ウクライナ・ロシア間の戦争の可能性(2015年3月→2021年4月→2021年12月→
2022年2月)
不可避:4%→3%→3%→5%
十分あり得る:28%→35%→36%→40%
ないと思う:48%→39%→38%→36%
あり得ない:14%→16%→15%→13%
回答しない:6%→7%→8%→6%

ここからは、対ウクライナ感情は悪化していたものの、前面衝突の可能性については意見が二分されていたことがわかる。また情勢を積極的に追っていた層とそうでない層も二分されていた。


ロシア国内世論に関する考察

まず自分の捉え方としてロシアの、特に世論形成に関する統計をそのまま信用することは正しくないと思うが、完全に無視することもできず、発行元を見つつ傾向を見ていくもの、と考えている。

ВЦИОМによると賛成者の割合が上がっているが、この設問に電話で反対と答えられる層は国外に出ている、もしくは新法を知っていてこのような調査への参加自体避けるのではないかと考えるので、これを以てロシア国内で政権を支える動きが増えているとは言い切れないと思う。

ただ、ВЦИОМ・レバダともに絶対値としての現政権への支持は高い値を推移している。実体験として、一連の出来事が始まってから思った以上に賛成派が多いことは感じている。

ここにはもちろん年代的なグラデーションはあるものの、一方で自分と同世代でも積極的支持、もしくは行動に理解を示す人々がいることは、一種の衝撃でもあった。

ここに関しては政権側の情報発信が機能していると思うが、それは情報統制による「洗脳」だけではなく、実際何が起こっているかも加味して、それでも政権を支持している層がいるように思える。

自分自身の意見としては、賛成派と反対派が、少なくとも2月末の段階では半々であったと思う。そしてその割合は、もしかすると、これから増えるかもしれない。

もちろん制裁の影響などに関しても全く文句がない人は少ないだろうが、ではそれが即ち反対運動につながるか、というと、そうではないだろう。

レバダの調査にあった特段状況を追っていなかった層が、軽く情報をとろうとすると国営メディア系にあたってもおかしくなく、政権支持へと動いていく。
この状況はここ数年で、政治に対する無力感、リスクが拡大してきたことも一因にあるだろう。

またここ数年の愛国心を高める政策も、この状況で政権支持を固める助けとなっているだろう。ロシアは欧米諸国とは違うのだということは、いわゆる「伝統的価値観」を重視する文脈の中でも言われてきており、この欧米との分断化で影響を持っていると思う。

そのような積み重ねが、今の状況につながっていると思う。

おわりに

ロシア政府は今のところ折れる気はなく、むしろ欧米との断絶は、ロシア独自性を強めていく機会と捉えているように思う。

今後制裁は政権以上に一般国民を苦しめていくだろうが、それが反対運動に転じていくかというと、そうではないだろう。むしろ苦しくなる中で反欧米、ナショナリズムの機運が高まり、政権基盤が強化される可能性すらある。

希望は、日を追うごとにしぼんでいくようにも感じるが、状況を追いながら、持ち続けていきたいとも思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?