君に友達はいらない 瀧本哲史氏

メガバンクに20年以上勤めた男の独白~

瀧本氏が自身が投資する会社で人を採用する時、必ず次の様な質問をする。「今まであなたがやってきた仕事でもっとも会社を儲けさせたのは何でしょうか?チームでの仕事の場合、あなたがそこで果たした主導的な役割は何ですか?」この質問に答えられない人は基本的に採用しない。逆にきちんと仕事で結果を出してきた人はこの質問に即答できるはずだ。

とにかく結果を出し、自分の会社を成功させる事にフォーカスして見る事だ。言われた事を単純にやるのではなく、本質的に自分の属するチームを成功させる為にはどうすればよいか?真剣に考えて行動する事だ。その結果が自分成長と報酬に直結するのである。

社内に向いた眼を外に向ける

ビジョンやストーリーを語る時には、業界や自社の「保身」「都合」を考えるべきではない。アメリカのシリコンバレーは知っての通り世界中からエンジニアが集まり、様々なベンチャー企業で働いている。彼らの多くが複数社で働いた経験をもち、シリコンバレー内の会社で転職を繰り返しながらスキルを高めている。そのエンジニア全体のスキルの向上がシリコンバレーから次々と世界を変えるようなベンチャーが生まれる土壌を作っている。日本のエンジニア達も本当であれば日本国民の為に仕事をしたいはずなのに、それができないから海外に行っているわけでもっと国内での人材の流動が活発化すれば、日本のエレクトロニクス業界も活性化するはずだ。ロマンやストーリーを語る際、社内事情などをやたら話す人がいるがそもそも的外れで役に立たないものが多い。ロマンはみんなが興味、関心をもつ何かしらの共通項や、公共的な利益に結び付くものでなければならない。

大企業の中で変革を起こすチーム

日本の家電メーカーが生き残る道は基本的に2つしかないと瀧本氏は考える。1つはアップルの様にそれまで誰も見たことがない並外れた製品のコンセプトだけを作り、実際の生産については外部の会社の工場に委託してしまう方法だ。中国の人件費が安いとよく言われているが、そもそもその組立にかかるコストの比率はとても低い。だから中国より人件費の高いアメリカで生産しても採算は成り立つ可能性が高い。だが、アメリカと中国では労働力の「柔軟さ」が決定的に違う。

iPhoneのような進化の早い精密機器は生産が始まってからの需要カーブの高低差が非常に激しい。新しい製品が出た直後の2~3か月は大量生産が必要でも半年後には工場の稼働率は10分の1となる事もよくある。その時工場で働いている数万人の労働者に「来週から来なくていい。」と簡単クビを切れるのは企業経営の柔軟性において非常に得難いメリットなのだ。

もう一つはニッチだが特定の分野では非常に強い部品を提供する会社として生き残っていく方法だ。瀧本氏属する京都大学産官学連携本部で共同研究事業を立ち上げようとしており、経営環境の厳しさから、研究開発投資が減少している日本の民間企業と市場に直接的には向き合っていない大学の研究部門が協力する事でお互いの長所を生かし国の成長戦略にも貢献するイノベーティブなビジネスを生み出す事を狙いにしている。その事業が進んでいく中で企業内に眠っている技術や力を発揮しきれていない人材が活用されていくことになるだろう。実際にパナソニックでは短大を卒業後入社して10年在庫管理の仕事についていたが、ある時店頭販促企画担当へ移動した事がきっかけでデパートのコスメ売り場や高級ブランドの店舗をヒントに得ながら従来の無味乾燥な家電用品の展示とは全く違う、美容に関心のある女性に訴求した商品ディスプレイを展開している。

「なぜあなたと仕事をしたいのか」を明確に説明できるか?

自分のラベリングやストーリーを語る目的はチームの仲間候補に「なぜあなたと仕事をしたいのか?」を理解してもらうためにある。相手にとって「なぜ自分が必要とされるのか」はキャリアを選択する上で極めて重要な判断材料となるからだ。

「なぜ私と一緒に仕事をしたいのか?」が明確な相手とは仕事を通じてコミュニケーションをしてみたいと思えるのだが、「そうでない」相手あれば自分でなくてもいいのではと感じる。

営業マンにも同じ事が言える。多くの人に商品を買ってもらおうとして10%の努力を10人に対して振り分ける。しかし非凡な営業マンはここぞと決めた人に全力で100%の努力を傾ける。仲間づくりにおいて大切なのは自分が本当に結びつきたい特定の人と、どうやったら本当に良い関係を築けるのか?それに注力する事だ。

グーグルの採用方法

企業にとっての採用活動は優秀な人材をいかに継続的に確保できるかどうかが死活的に重要になっており、採用がうまい会社は集まった優秀な人材によってどんどん業績をのばし、下手な会社はたとえ一時的に業績をのばして世間の注目を集めてもみるみるうちに活力を失い市場から消え去っていく。戦国武将の武田信玄も「人は城、人は石垣、人は堀」ではないが企業はまさに人によってできている。

それゆえ優れた企業では必ずリクルーティングに多大なコストをかける。「人材への投資」が何よりも自社の未来を明るくする事を知り抜いているからだ。1998年創業のグーグルも設立して間もない世間に存在が知られていないころから、採用にはものすごく力を入れていた。

超一流大学の教授に連絡をとり「一番優秀な教え子にアメリカにグーグルというこれから世界を変えるすごい社会があるらしい。」と伝えさせ、学生達にはパロアルト行きのファーストクラス飛行機チケットを送付した。「天才」は「天才を知る」超優秀な学生は破格の給料をだして自分たちを雇うグーグルと言うIT企業の可能性を自分たちの周りにいる「天才」レベルの学生に広げ、まったく新しい、検索エンジンの開発に求められる「数学の天才」を世界中から集めていった。

それ以外にも「eの連続した桁で見つかる最初の10桁の素数.com」とだけ書いた看板をシリコンバレーの高速道路に設置した。頭をひねって難しい数式を解き明かしたエンジニアは答えである7427466391.comをパソコンのブラウザに打ち込み指定されたサイトに飛んだ。そこにはさらに難しい数学の問題が書かれそれを解いて分かった数字をログイン画面のパスワードに打ち込むとグーグルの採用ページが現れる仕組みになっている。

波紋が生じた岩波書店の採用条件

同社は2012年の採用活動で「当社にエントリーできるのは、当社出している本の著者、もしくは当社社員からの推薦状を持った人だけに限ります。」と告知した。いわゆる「縁故採用」を事実上告知したのだ。様々な物議を醸しだしたのだが、瀧本氏は「ありだな」と感じた。岩波の様な「左翼的」で「平等と博愛」にこだわるような出版社だからこそ、このような採用条件を軽々とクリアできなければ岩波に入社したところで仕事に困ることになる。ツテを求めて著者にたどり着き推薦状を書いてもらえる様な能力が学生の頃からなければ、編集者として時流に乗っている著者を口説き落とし「売れる原稿」をとってくるのは難しい。

これは、リクルートが作った、「リクナビ」というビジネスモデルに対する企業の対応だと瀧本氏は考える。学生は誰でも企業にエントリー出来る様になり、人気企業の人事担当者は数千人から数万人の応募者をさばかなければならなくなった。岩波のような企業でもおそらく毎年何千もの応募があったと考えると、客観的にみても岩波が求める教養や知識レベルに全く到達していなくても「給料が高いらしい」という理由で応募してくるのである。このミスマッチは企業にとっても、学生にとっても徒労以外の何物でもない。

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