「新型インフルエンザ等緊急事態宣言の対象となる区域に所在する刑事施設における面会の取扱いについて」の撤回を求める

法務省は昨日,「新型インフルエンザ等緊急事態宣言の対象となる区域に所在する刑事施設における面会の取扱いについて」を発出しました。
これに関し,私の友人の津金貴康弁護士が,
「意見書を書いてみたが,折角の機会なので色々な人に見てもらいたいと思う。何か調べながら書いたわけではないから今後訂正するかもしれないが,とりあえずアップしてみてくれ。」と言ってきました。
撤回を求めるという趣旨自体には賛同したので,長文ですが,アップしてみたいと思います。

(以下,彼の文章です)

1 法務省は令和2年4月8日,「新型インフルエンザ等緊急事態宣言の対象となる区域に所在する刑事施設における面会の取扱いについて」(以下「本通知」という。)を発出した。そこでは,東京都,埼玉県,神奈川県,千葉県,大阪府,兵庫県,及び福岡県内の刑務所及び拘置所において,弁護人等以外との面会を実施しない旨記されている。
 しかしながら,弁護人等以外との面会を実施しないことは違憲・違法である。そこで,直ちに本通知の撤回を求める。

2 被告人が弁護人等以外と面会し,交流することは,人格権(憲法13条)として保障されるべきものである。被告人は,法律に基づいて有罪とされるまでは,無罪と推定される権利を有すること(自由権規約14条2項)も踏まえると,被告人と弁護人等以外との面会は,原則として認める必要がある。
 また,被告人と弁護人等以外との面会は,防御上も重要である。例えば,被告人と証人が環境調整について十分な話し合いを行うことは,情状に関する立証活動をするうえで必要不可欠である。また,勾留され続けている被告人が,家族や友人等と面会することで,心の安定を取り戻し,公判に臨むことが可能となる。無闇に弁護人等以外との面会を禁止することは,防御活動の妨害や,被告人の対立当事者としての地位を脅かすものであるから,裁判を受ける権利(憲法37条1項)の侵害となり,また適正手続(憲法31条)の点からも問題となる。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「被収容者施設法」という,)115条は「刑事施設の長は,未決拘禁者(中略)に対し,他の者から面会の申出があったときは,第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き,これを許すものとする。」としている。すなわち,接見等禁止決定が付されている場合,懲罰を受けている場合,そして翻訳費用を支払えない場合のほかは,弁護人等以外との面会を許さねばならないと,法律上規定されている。この趣旨について「未決拘禁者の面会は,相手方の範囲に限定なく,原則として,これを許すものとしている。監獄法では,規定上は,未決拘禁者の接見についてもその許否は所長の裁量によるものとされていたが,この法律では,未決拘禁者には,刑事施設における処遇として面会を保障しているのである。」と考えられている(逐条解説刑事収容施設法第3版590頁以下参照)。よって,法務省が行ったように,弁護人等以外との面会を禁止することは,被収容者施設法115条にも反する。
 以上の次第であるから,本通知は,憲法13条,37条及び31条,並びに被収容者施設法115条に反する。

3 受刑者と弁護人等以外との面会についても,禁止してはならない。
 被拘禁者は,必要な監督のもと,定期的に家族および友人と連絡を取ることを許されねばならない(国連被拘禁者処罰最低基準規則58条第1項)。すべての被拘禁者が,「人間としての生まれながらの尊厳と価値に対する尊重をもって処遇されなければならない」こと(国連被拘禁者処罰最低基準規則1条)からすれば当然である。
 被収容者施設法111条1項は,受刑者に対し,「受刑者の親族」「婚姻関係の調整,訴訟の遂行,事業の維持その他の受刑者の身分上,法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため面会することが必要な者」「受刑者の更生保護に関係のある者,受刑者の釈放後にこれを雇用しようとする者その他の面会により受刑者の改善更生に資すると認められる者」から面会の申出があったときは,懲罰を受けている場合,そして翻訳費用を支払えないときのほかは,面会を許すものとしている。
 よって,受刑者についても,本通知のように弁護人等以外との面会を禁止した場合には,被収容者施設法111条1項に反する。

4 昨今のコロナウイルスの猛威に対応する必要性があること自体は,私も否定しない。しかし,既に刑務所や拘置所では,出入口でのマスクの装着,入口での検温,そしてアルコール消毒の徹底が行われている。これで対策として不十分だというのであれば,換気扇がある部屋での面会や,通気口をふさいだアクリル板越しの面会という特別措置が考えられる。つまり、面会を行うことを前提として、その中で感染を防ぐ措置を執ることこそが、法務省に求められる役割である。
 本通知のように弁護人等以外との面会を一律に禁止することは,法律に違反するだけでなく,コロナウイルスの対策としても過剰なものである。

5 以上の次第であるので,本通知については直ちに撤回するべきである。                              
兵庫県弁護士会所属
弁護士 津金貴康

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