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幻の伝搬

ゲンロンSF創作講座第4期の最終課題を提出した。

一ヶ月後、最終評価が公表されるとき、提出直後に自分が考えていたことを照会できるよう、来月の自分に向けての備忘録として書いておく。

ゲンロンSF創作講座では、毎月課題が出される。受講生は1,200字以内で梗概(あらすじ)を提出し、1週間後の講義で評価される。評価が上位の梗概は、実作評価の権利を得る。それを毎月繰り返す。私は梗概で高評価を得たことが一度もないので実作に進んだことは一度もない。ただし、最終課題だけは全員が実作を書いて提出する。それが、昨日終わった。

アドバイス反映全部乗せ

これまでの講義でいただいたアドバイスのうち、最終課題の実作に役立ちそうなものは盛り込んだつもりだ。

第1回〜第4回の講義では以下のようなアドバイスをもらった。
・情緒は分かる。 by 小浜徹也先生
・おバカな設定は面白いが、物語世界での経済的合理性がなさすぎる。by 新井素子先生
・ただ話が進んでいってて、登場人物に変化がない。by 井手聡司先生
・SF設定とまわりの状況の技術レベルのバランスが不自然。by 藤井太洋先生
・こんな設定は現実世界でゴロゴロあって、まったく珍しくない。by 藤井太洋先生
・(↑を受けて)事実は小説よりも奇なり、ですね。 by 溝口力丸先生
・話が急に飛んでいくので分かりにくい by 法月輪太郎先生

受講生、ダールグレンラジオ、アマサワトキオさんから意見では「分からない」というのがとにかく多かった。なので、ちょっとしつこく説明的にすぎても、明示するように心がけた。

第5回以降の講義では、以下のようなアドバイスがあった。
・SFじゃなくてもよいのでは。お仕事小説的にいけそう by 伊藤靖先生
・SFとしては弱いけど、藤井太洋もそうだしなぁ。ダメな主人公って設定はいいかも。 by 大森望先生
・VR/AR の設定に無理な飛躍がある by 小川哲先生
・VA/AR はありきたりだけど、介護という設定は面白い by 大森望先生
・SNSで考えが伝搬してく設定は面白い by 大森望先生
・SFに葛飾北斎っていうのはいいかもね by 大森望先生
・情けない主人公とか、ニッチなビジネスっていう設定は面白い by 山田正紀先生
・お仕事小説にするなら、読者が勉強になったなっていう要素があるといいよ by 小浜徹也先生
・最後に重要になるキーワードがあるなら、前半に関係なさそうな文脈でちらっと出してみては by 高山羽根子先生
・SF要素を減らしてお仕事小説に振るのはよい。ただし求められるリアリティレベルが高くなる by 大森望先生

伊藤先生の「お仕事小説にしてみては」というコメントを、私はポジティブに捉えた。でも実は「ここはSF創作講座だってつってんだろ、他所へ行け」って意味だったのかも知れない、と今になって思い始めた。やばい。

高山先生のアドバイスを受けて、改稿したものを「爆弾低気圧 vol3」に載せた。献本したいなぁ事務所の住所とかないのかなぁとか、ぐずぐず先延ばしにしてたんだけど、芥川賞作家に私の作品を送りつけるのはどうなのか、と不安になってきて躊躇している。芥川賞作家でなければ失礼ではないのか、っていうと、そういう話でもないんだけど。

梗概練習

第4回と第5回の間で、変化というか、転換があった。このころは何を書いてるのか分からないと、色んな人から言われていた。面白い面白くない以前に、分からないというのは、どうしようもない。だから集中することと、その決意表明をカクヨムにしたためた。

翌日、つぶやき系ソーシャルサービスのダイレクトメッセージ(つまり Twitter の DM)で「なんだか苦しそうだけど、完璧を目指すよりも、まずは数をこなしてみては」と声をかけられた。その人を、ここではN氏と呼んでおこう。

翌日からほぼ毎日、私は梗概練習と称して、梗概を書いて公開した。提出レベルではなく、とにかく書くってことで。佐渡島庸平がずーっと前に漫画家志望の人に、毎日ツイッターに投稿しろって言ってたのを思い出した。サボった日もある。

するとN氏は、なんと毎日の梗概練習にフィードバックをくれた。毎日である。ほぼ毎日。私は投稿時刻を決めてなかったので、ツイッターを見て空振りもあったと思う。

フィードバックと改善点がつながったときには、翌日の梗概練習で梗概を改善した。分かんないなってときは、礼だけ言って別の梗概を書いた。失礼な弟子である。

N氏のフィードバックは一貫性があって、論理的で、再現性があった。「こうしたらいい」ではなくて、「梗概のこの部分が、こういう評価軸・目的達成軸の観点で効果的ではない」という風に言われた。critique っていうやつだと思う。そうやって私の毎日の梗概練習に、毎日欠かさずフィードバックをもらった。タダで。礼はNASAの売店で買った、アイスクリームのフリーズドライである。きっとパサパサだったと思う。

それが二ヶ月続いた。するとダールグレンラジオで言及されるようになったし、○(マル)をもらえるようになった。選出されないまでも、講義中に言及してもらえるようになった。N氏ありがとうございます。圧倒的感謝です。

受講生

最初のころ、他の受講生と話すことがなかった。飲み会では、酒の力を借りてしゃべったけど、私がこれまで創作活動をしていなかったので、話が続かない。

「他でも書いてるんですか?」
「書いてますよ」
「そうですかー。すごいですねー」
「みんなそうだと思いますよ」
「そうですかー。すごいですねー」

自分から聞いておいてそれかい、と心の中でセルフつっこみでした。ひどい会話でした。ごめんなさい。

でも徐々に話す機会が増えていった。くだらない話も、文章の話もするようになった。リモート講義になったとき、あの飲み会を恋しいな、と思った。 zoom 飲み会を開催してくれて、とても嬉しかった。zoom のライセンスあるんで、やりたい人いたら声かけてください。だらっとやりましょう。

色んな人から実作を書いた方がいいよと言われ、書かねば書かねばと思って、第8回でやっと書いた。もし言われてなければ、一度も書かなかったと思う。

それから、今野あきひろさんが書けなくて苦しい思いをしていたなんて、全然想像していなかった。知っていたら、一緒に傷を舐めあえたのだろうか。うーん、そんなことはないか。むしろ自分だけではない、と油断したかも知れない。この距離感が私は心地いい。

ああ、そうそう! 文フリで買ってもらえました。買ってくれたみなさん、ありがとうございました。

おしまい

そんなわけで提出物は全部おしまい。最終実作で、ついに世界が私の才能に気づくのではないか、という期待を持っている。温めていた「地球化するテーマパーク」という出落ちタイトルにしなかったのは、選ばれる可能性を信じているからだ。

一方で、どんな結果になっても「実はあのとき○○してなかったから」と、言い訳をしたくなかった。本気でやりましたが選ばれませんでした、と胸を張って落ち込めるように、全力を尽くした。だから選考は楽しみだし、今日までとても苦しく楽しかった。

Photo by Joanna Kosinska on Unsplash


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