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【初心者向け】脊髄後角における痒み神経回路について

先日、研究始めたてのラボの後輩に向け、脊髄後角における痒み神経回路のレクチャーを行いました。

脊髄後角介在ニューロンに関しての記事はコチラ↓

自分で言うのもアレですが笑、講義録として後世のために残しておこうと思います。

※今回は、レビュー論文を基に話を進めていますが、私個人の主観も入っていますのでご了承ください。


Peripheral and Central Mechanisms of Itch, Neuron, 2019


末梢で発生した痒み情報は、DRGニューロンを介し脊髄後角に入力します。
このDRGニューロンは、近年、シングルセルRNAseq研究によって大きく11のグループに分類されました(Usoskin et al., 2015)。その中でも、特にNP1,2,3の3つが痒み情報を伝達するものとして分類されています。

NP1-3はそれぞれ、反応する末梢の痒みメディエーターが異なります。しかし、それら痒み反応性ニューロンを含む侵害受容ニューロンはVGLUT2を発現する興奮性ニューロンであり、興味深いことに、侵害受容ニューロンにおけるVGLUT2をノックアウトすると疼痛行動は消失し、逆に痒み行動が増加します。つまり、痒み情報を伝達するDRGニューロンはグルタミン酸のみに依存している訳でなく、神経ペプチドを介していることが示唆されます。

その神経ペプチドの代表例としてよく研究されているのが、ガストリン放出ペプチド(GRP)や、ナトリウム利尿ペプチド(NPPB)になります。GRPはその受容体、GRPR陽性ニューロンが脊髄後角において痒み情報を特異的に伝達することが報告されて以来(Sun and Chen, 2007)、GRP-GRPRシステムとして脊髄神経回路研究の中心となっています。その数年後には、第2の痒み特異的神経回路として、NPPB陽性ニューロンが報告されましたが(Mihsura and Hoon, 2013)、GRP-GRPRシステムほど研究は進んでいません。なぜなら、果たしてGRP-GRPRシステムほど特異的なモノなのか、GRPR陽性ニューロンとの位置関係どうなのかが、よくわかっていないからです。

脊髄後角における痒み神経回路研究には大きく2つの課題が残されています。まずは、GRPの出どころ問題です。上記ではサラッとDRGニューロンからGRPが放出されているかのように書いていますが、図を見ると介在ニューロンがGRPを出しています。実は、GRPを放出しているニューロンは未だに議論の最中です。前者を唱える人、後者を唱える人、はたまた両方であると主張している人様々います。ですが、この研究界隈のトップランナーであるChenは前者、DRGニューロンがGRPの放出原だと主張しています。

そしてもう一つの課題は、GRPRニューロンの下流問題です。GRP-GRPRシステムを介して痒み情報が伝達されるのはいいとして、GRPRニューロンは介在ニューロンと考えられているので、それが投射する投射ニューロンはいったい何なのかが分かっていません。最近では、投射ニューロンマーカーとしてPhox2aが注目されています(Toddらの研究)。

また、5年前の図なので記載されていませんが、慢性掻痒時に発現上昇しGRPRニューロンに興奮性シナプス入力を行うNPTX2陽性ニューロンであったり、新たなる下行性促進経路であるドパミンシグナル経路も発見されています。



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