【自分用】Glutamate in primary afferents is required for itch transmission

LIan Cui et al., Neuron, 2021


【Introduction】
痛みおよび痒みを感知する一次求心性線維における小胞性グルタミン酸トランスポーター2(Vglut2)の遺伝的切除は痛みを抑制するが痒みの増加を引き起こす報告があるが、この遺伝子のcKOマウスを作製して生理学的に検証した研究は存在しない。

MRGPRA3+求心性線維における神経伝達物質は未解明な部分が多い。実際、Grp転写産物の発現のほとんどはDRGでは検出できず、Nppbは異なる求心性線維において発現している。

本研究では、MRGPRA3+ニューロンが痒み行動を媒介するためにグルタメートを放出することを明らかにした。さらにニューロメジンB(Nmb)がMRGPRA3+ニューロンに高度に発現し、脊髄ニューロンと単シナプスを形成していることを見出した。
【Results】
MRGPRA3+ニューロンを特異的に活性化させるため、Mrgpra3-CreマウスとChR2(Rosa^ChR2-EYFPf/f, Ai32)マウスを掛けたMrgpra3-ChR2マウスを作製した。
※興奮系の光感受性チャネルChR2を組み込んだfloxマウスをAi32マウスと呼ぶ
※周囲にある別の遺伝子発現に影響を及ぼさない領域として発見されたのがRosa26
そして、脱毛した頬または吻側背部にレーザー刺激をすると痒み行動が観察された
また、RNAスコープを用い、mrgpra3と各mRNAの発現を確認すると、NmbVglut2がそれぞれ99.2%、89.6%と高い共発現性を示した。
続いて、脊髄スライスを用いてパッチクランプによりレーザー刺激に対する応答を記録しました。記録された48%、30%がそれぞれ単シナプス性および多シナプス性EPSCsであった。そこでTTXあるいは4-APを適用した。単シナプス性の場合、EPSCはTTXにより完全に抑制されたが、4-APにより回復した。一方、多シナプス性では4-APによる回復は見られなかった。次にNBQXまたはAP5を投与したところ、単シナプス性のEPSCsは完全に抑制された。
また、単シナプス後ニューロンのサイトゾルを除去しRT-PCRを行うと、これらのニューロンのごく一部がGRP+あるいはNMBR+であったが、GRPR+は無かった。
まとめると、MRGPR3A+一次求心性ニューロンはグルタミン酸を放出し、かゆみにおいてはGRP+、NMBR+ニューロンと単シナプスを形成する。

さらに、このニューロンの機能的役割を決定するために、Mrgpra3-Vglut2 cKOマウスを作製した。
4~6wksで脊髄スライスを作製し、DHニューロンから電気応答を記録すると、驚くべきことに、振幅やPPRは変化を示さなかった。また、入力の応答タイプの割合にも変化はなかった。しかし、そのEPSCはNBQXまたはAP5で完全に抑制された。
この疑問を解決するために、MRGPRA3+ニューロンからのグルタメート放出がまだ小胞依存性であるかを判断するため、バフィロマイシンA1で前処理したスライスを作製しました。
※バフィロマイシンA1は小胞ATPaseを阻害することにより、小胞依存性神経伝達物質の放出に影響を与える。
この処置により、EPSCの振幅は抑制された。
また、このマウスへのクロロカインおよびヒスタミンによる掻き動作、及び疼痛評価では変化はなかった(CQは増加傾向)
よって、この週齢では、このニューロンは小胞依存的にグルタミン酸を放出することが示唆される。

続いて、この疑問に立ち向かうため、侵害受容性Vglut2KOマウスでは痛みは軽減するが痒み感受性が高まる報告があるため、Trpv1-Vglut2 cKOマウスを作製し、シナプス伝達を調べた。
このマウスは生後6週間ほどから自発的な掻き動作が見られるようになった。8wksで脊髄スライスを作製すると、EPSCの振幅は有意に低下し、応答タイプの割合も変化した。

さらに、このグルタミン酸欠如の年齢を特定するために、4および6mnsのMrgpra3-Vglut2 cKOマウスの末梢光遺伝学刺激を行い、それらの応答を見た。レーザーに対する反応性の低下が見られたのは6mnsのみであったが、肉眼解剖学的所見においてはDRG、脊髄、皮膚で変化はなく、各組織における分子マーカーも同等であった。
また、この時のEPSCsをスライスを作製し検討すると、振幅の有意な減少が見られた。実際に、ヒスタミンやクロロカイン誘発の掻き動作も減少した。(なぜヒスタミンも?)SADBEによる接触性皮膚炎モデルによる慢性掻痒も抑制された。また、疼痛評価に対しては変化は見られなかった。
まとめると、このマウスにおいては少なくとも6か月齢になるまでグルタミン酸伝達は失われないこと、一次求心性線維からのグルタミン酸がかゆみ行動に重要であることが分かった。

続いて、かゆみにおけるNMBの役割を調べるため、Nmbr-CreマウスとTdtomatoで標識されているレポーターマウス(Rosa^Tdtf/f, Ai9)を掛け合わせた
Tdt+ニューロンはSDH、特に表層に見られたが、DRGには見られなかった。Tdt+の81%がVglut2+、86%がTac1+、63%がSst+、14%がVgat+、Grp+が19%、Grprが13%、Npr1が13%、Tacr1が5%であった。また、これらニューロンから記録すると、興奮性介在ニューロンの特徴である遅延発火パターンを全て示した。驚くべきことにイオノトロピック受容体アンタゴニスト群により前処理したスライスにNMBを投与すると活動電位が見られた

そこでMRGPRA3ニューロンとNMBRニューロンがシナプスを形成しているかどうか検証した。
Mrgpra3Cre; NmbrCre; RosaTdtf/+ マウスの髄腔内にAAV-PHP.S:CAG-DIO-ChR2-eYFPを注入し、Mrgprae+ニューロンとNmbr+ニューロンがTdtでラベルされたマウスを作製した。
AAV-PHP.S: 末梢ニューロンに指向性が高いベクター、つまり今回はMrgpra3+のみChR2を発現する
このマウスの脊髄スライスを用いて光刺激に対するNMBR+ニューロンの電気応答を記録したところ、いくつかの単シナプス形成を見つけた。また、このニューロンはグルタメート単独の灌流投与でも発火率は増大したが、NMBも同時に投与することでその活動は大幅に増強された。
よって、NMBR+ニューロンは、Mrgpra3+ニューロンから放出されるグルタミン酸およびNMBにより興奮することが示唆される。

最後に、このNMBが実際の痒み行動にどのように影響しているのかを検証するために、MrgprA3 - Nmb CKO(Mrgpra3 Cre ; Nmb f / f)マウスを作製して検証した。
2ヵ月齢におけるこのマウスのDRG、脊髄および皮膚の肉眼解剖学的な差異は観察されなかった。また、クロロカインに対する掻き動作はcKOマウスで減少していた。
また、WTマウスにNMB-サポリンを投与しNMBR+ニューロンを除去しても、クロロカイン誘発の掻き動作は減少した。
【Discussion】
Trpv1-Vglut2 cKOマウス、Mrgpra3-Vglut2 cKOマウスにおけるグルタミン酸減少および行動のズレについてはわからない。また、KOにも関わらずなぜグルタミン酸欠如が年齢依存的であったかもわからない。Vglut1,3の発現も変化していなかったことから、他のマイナーなグルタミン酸小胞トランスポーターの関与が可能性として挙げられる。

Limitationとしては、Mrgpra3+ニューロンがNMBを放出するという直接的な証拠が得られてないということである。

また、Mrgpra3+ニューロンの下流はもちろんNMBR+ニューロンだけではない。その一部はGRP+ニューロンである。

このサーキットは、かゆみに特異的なものではないが、かゆみに特異的なサーキットを調節ものである可能性があると筆者たちは提案する。

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