「100日後に死ぬワニ」がヒットした3つの理由と、逆風が吹いた1つの理由

昨日でついに100日目となった、SNSマンガ「100日後に死ぬワニ」。

この作品が、ここまで話題になったポイントを
キャラクターやエンタテイメントビジネスに携わる身から考えてみる。

ヒットの理由① 死を題材にした共感性

まず、このマンガを読む全員にとって
自分ごとである死を題材にした共感性のある作品であることが挙げられる。

作者が描くきっかけになった、日常の中で
自分や周囲の終わりを意識する、ということが
きっと多くの人々に響いたからこそ、読者は思わず共有したくなったのだろう。

作者の伝えたいことは多くの人々に伝わったと思うし、
昨夜の100日目が桜吹雪の中で幕を閉じたのも
散っていくからこそ、かけがえのないものであるという結末だ
(だから、100日前の年末に始まったことは必然性がある)。

ヒットの理由② 素朴な絵柄で描かれる日常

また、そんな結末が待っているのに、素朴でかわいらしい絵柄で
ささいなことで笑ったり喜んだり、悩んだり、怒ったりする
何でもない日常を描いたこと。

素朴な絵柄がゆえに、ファンアートが描きやすく
多くの投稿が発生したり、マンガの中から何か情報を読み取れないか
考察が繰り広げられることにもつながったと思われる。

ヒットの理由③ 100日間のリアルタイムで毎日投稿

そして、Twitterで毎日、年末年始の行事や季節の移ろいを盛り込みながら
現実世界と同じ時間の流れである100日間のリアルタイムで描くという
何気なくタイムラインの中で読むSNSマンガにぴったりなコンセプトが、
読者に寄り添ってくれるような立ち位置となって、秀逸だったと思う。

100日間で話題が最大化されるスピード感

ヒットの過程ですごいと思うのは、話題になるまでのスピード感。

例えば、ジャンプで昨年末から連載したとして
100日経ったら単行本1冊分の原稿が出来るものの、
連載はまだスタートしたばかりで、この時点でヒットすることはまずないが
100日間、Twitterで毎日4コママンガを投稿することで
(この継続性がまずすごいけど)、作者のきくちゆうきさんがテレビ出演、
Twitterのフォロワーが190万増、最終日には
Twitterのトレンドをワニ一色にするほどになってしまった。

出版社や何らかのプラットフォームを介さず、
作者個人のSNSアカウントでの発表で
ここまで話題になる作品が出たということは、
アイデアや作品次第で可能性は拡がることを示したようだ。

Twitterに投稿しただけでは、お金を得ることは出来ないものの
ここまで人気になった作品から収益を得るステップに
これからはなるわけだが、早速書籍化、ロフトでのポップアップショップ、
映画化(⁈)が発表された。

多くのアプリゲームのフリーミアムと同じで、
お話自体は無料、気に入ってくれたら付加価値が付いたものに
お金を払ってもらうという仕組みは問題ないことだし、
プロのイラストレーターにとっては当然のことだ
(100日目は書籍で!とやったら大炎上しただろうけど)。

「ワニ」に吹いた逆風の理由は、「死」という題材

ところが、話題性に合わせて一気に発表された今後の展開により
一夜明けたTwitterのトレンドは、ワニ関連のネガティブな話題が
ズラりと並ぶことに。

今のSNSマンガは、少しでもバズると
すぐに出版社が作者にアプローチする時代になっていて、
声をかけた時には、先に他社が連絡を取っていた…という
取り合いの様相が繰り広げられているので、
書籍化は当然の流れだし、ここまで話題になったから
ビジネスパートナーがたくさん付くのもうなずけ、
これによって作者がこれまでのがんばりに対し、
正当な対価と評価を得るべきで、繰り返しになるが
わずか100日でここまで昇り詰めたことは夢のある話だと思う。

しかし、朝になったら「電通案件」というワードが
トレンドに並び、その根拠が版権管理をしている会社の
取引先の1社が電通東日本(他の取引先企業は◯◯案件とされないのは
なぜ?しかも東日本)、いきものがかりの「生きる。」との
コラボMVのスタッフの1人が電通パブリックリレーションズの人
(そりゃMVのスタッフの中には誰かしら電通グループの人がいても
不思議では…)というところを見ると、
これだけでは電通が仕切っていたことにはならないし、
とりあえずメディア、エンタメ関連での不祥事は
すべてこの会社に押し付けられるのでは…というほどの
わかりやすい悪の組織感のある嫌われ度に驚く…

これは、無料で自由なインターネットにおいて
企業が乗り込み金儲けを始めると嫌悪される嫌儲の感覚であったり、
SNSで自分たちが盛り上げてきたという自負を持つファンが
すべては作者以外の誰かの大きな仕掛けの中で動かされていたのでは、
という猜疑心や「利用された」という気持ちによるものだったりすると
思うけど、大きな理由は、おそらくこの「100日後に死ぬワニ」は、
「死」というものをテーマにしたからこそ、ここまで話題になった
反面で、ファンが悲しむ気持ちや、考えたり向き合う余韻というものが
必要だったのだと思う。

いきものがかりのMVは、本編を補完するようで
エンドロールのようなところがあって良いと思ったし、
各種商品化のスピード感も準備を考えるとすごいと思うけど
この作品については、そんな情緒的なところに配慮したら
一日のうちにイメージがアップダウンすることもなかったような気がする。

「100日後に死ぬワニ」を通して、「コンテンツ」みたいな
薄っぺらな言葉で表現して欲しくない、自分や他者の限られた命に向き合う
感動を味わった人々が、「実はコンテンツ!IPでした!」と
冷や水を掛けられたという感覚なんだと思う。

作品テーマに沿ったビジネス展開の必要性

「100日後に死ぬワニ」は、一般的な作品とは違う配慮が必要だった。

すべてのヒット作に共通する方程式はなく、
それぞれの作品に沿ったやり方をしなければならないんだと、
この騒動でその難しさを実感。

100日を振り返って、その長いようで短い時間を感じ、
その間に自分に起きた出来事、そして変化をそれぞれの心の中で思い描く。

そして、「100日後に死ぬワニ」が更新されない
101日目に、物事の終わりを感じる。

そんな時間が、必要だったのだろう。

この100日間で大きく人生が変わったであろう
きくちゆうきさんが今後も素敵な作品を作れることを願い、
また、この100日間のあいだにもいらっしゃったであろう、
「ワニ」と同じことになってしまった多くの方々の
人生と命に思いを馳せ、本稿を終えたい。

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