緊急事態宣言下における百文字日記(4)
4月7日、緊急事態宣言が発出され、
我々の生活は、輪をかけて不安定に。
いま、この「変な状況」だからこそ、
書き留めておきたいことがあるはず。
ストレスに抑えつけられることなく、
心も体も、言葉で膨らませておいて、
何も損なわず、健康を保てたらいい。
うちで楽しめる、みんなの暮らしの、
「おつまみ」になれるようなものを。
イシュー
春はたくさん息を吸う
パイナップルの芯は食べる
ブロッコリーの茎も
五月二日 土曜日
実家の目の前の道路をまっすぐ歩く夜。ふと畑の方を見ると、大きな帆船が月明かりに照らされながら空中へ昇ってゆく。奥の方にはもう一艘。港となるのは小さな木造のバーで、乗組員は2足歩行、サングラスかけた豚。
五月七日 木曜日
外に出れない代わりに、普段買わないものをスーパーで買うのが楽しい。包丁の入れられていないパイナップルをまるごと買い、スライスして食す。ブロックよりもスライスの方が絶対にうまい。諸君、騙されていたのだ。
五月八日 金曜日
過充電されたiPhoneがベッドに突っ伏して寝ている。宇多田ヒカルの新曲を聴く前に眠ってしまったことに気づく。みんなはもう聴きおわって、ツイッターに感想をつぶやいていた。ベッドに突っ伏して二度寝する。
りと
茶柱によく遭遇する
ときどき食べるが
いまのところ効果はない
五月二日 土曜日
朝から雨。部屋の湿度が高くて、息苦しくて目が覚めた。肌がベタベタする。本にも水分が染み込んでいる感じがして、ページをめくるのが億劫になる。除湿機に溜まった水の量にうんざりする。水不足の国に寄附したい。
五月四日 月曜日
緊急事態宣言の延長が発表される。電波を通じて「会いたいね」と言い続けるのも、そろそろ疲れてきた。言い過ぎると「会いたいね」の効力が薄まりそう。どうしたらいいかわからなくなって、とりあえず茶柱を食べた。
五月七日 木曜日
一昨日は朧月夜。昨日は澄んだ空で月が夜道を照らしていた。今日は満月らしい。「月がきれいだよ」メッセージがきても、ベッドから起き上がることさえしない。彼はこんなふうに肝心な場面を逃し続けて死んでいく。
りょう
無職(25歳)
夏と冬が好き
台湾映画も好き
五月五日 火曜日
武庫川にお弁当を持ってピクニックに行く予定だったが、寝坊してしまいお弁当も作れず、15時半に到着して、武庫川を眺めていると、ウォーキングしているおじいさんが、おっ、たのしそう、とこちらを見て言ったよね
五月六日 水曜日
将来金持ちになったらどうする?、働かずに映画撮る、いやりょうちゃんは売れっ子映画監督で、俺はアパレル関係の金持ちよ、いい家住んで服たくさん買うかな、いや服とかも貰えんねん、LAに別邸、でも堀江在住やで
五月八日 金曜日
東京に行って彼氏とふたりで生活をすることや、東京で映画を撮ること、こんなに楽しみにしていることでさえ、すべてどうでもよく思えて、この世から消えてしまいたいと思うとき、これはわたしの意志なのか病気なのか
珍道中
犬の警備員
ギャルを真似してしまう
将来の夢は短パン屋さん
五月四日 月曜日
髪が伸びてきて首に汗をかきすぎている。みんな美容院を遠慮してどんどん髪が伸びるのか。毎日の出来事を忘れてしまっても、髪が伸びたということは、少なくとも時間が流れていたのだと私達は思い出すことができる。
五月七日 木曜日
元々の予定に合わせてかつての生活に戻っていこうとする人がいる。私が全ての結論を先送りにして、爪を磨いているのは誰のためでもないが、私のいない世界に耐えられなくなった人は誰でもここに来ることを許可する。
五月八日 金曜日
私の人生のネタバレがユーチューブのコメントや、適当に開いた本の一ページに書かれていたとしたら、私はこの運命が繰り返しの鑑賞にさえ耐えうると信じているから、結局全ての贈り物を受け取ることになるだろう。
山
作ったり書いたりする
兵庫から京都に通う
たまに準急で帰る
五月三日 日曜日
座卓、地べた座りの暮らしに辟易して、イケアで良い椅子と机を注文。人は靴を履き、家を建て、椅子に座る。母なる大地というその母から距離をとって暮らすようになったのはいつからか、と、浮き足立ちながら考える。
五月四日 月曜日
川沿いのトランペット、どこかの家から聞こえるピアノ。きちんとした場所で鑑賞する強い音楽に対する、弱い音楽。誰も聴いていなくてもいいけど、誰かが聴いてくれていたらいいな、みたいな、ツイッターっぽい祈り。
五月八日 金曜日
恒久的であるべきか、短命的であるべきか。デザインの寿命は、人の心に起こった革命の火が続く限りだと言う友人のひたむきな制作と死んだ目が大好きである。当の私は面接でうまく答えられず、蹲る。飲酒しても一人。
*蹲る=うずくまる
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