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緊急事態宣言下における百文字日記(3)

「百文字日記」はテユタオイシューの中の人が大学5年生以降、定期的にやっていたあそびです。100文字以内という制限つきで日記を書く試み。

もともとはひとりで日記を書いて、ネットプリントにして、親しい友達に読ませて喜んでいました。

4月7日に緊急事態宣言が出されて、なんか色々不安定になってきて、
この「変な状況」だからこそ、書き留めておかなきゃいけないことがあると思いました。僕もあるし、みんなも色々と思うことがあるだろうと思ったので、なかよしのひとたちに「一緒に書きませんか?」とお願いして、これができました。

怒ってるひとも、悲しんでるひとも多いし、(でも声をあげないと、悲しむひとがもっと増えちゃうかもしれないし、)外出自粛しなきゃいけないし、友達にも好きな人にも会えないし、つかれちゃうよね。

そんなみんなのために、他のひとがやっているみたいに、うちで楽しめるものを、みんなの生活の“お慰み”、“おつまみ”になれるようなものをつくれたら、と。


イシュー

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25歳の人間なのに
デカい犬小屋に住む
最近はスーパーが最大の娯楽

二〇二〇年 四月二十六日 日曜日
 ドラマの中、セーヌのほとり、彼らの話す後ろで救急車が鳴っている。この音、なぜか強いノスタルジー。部屋を暗くしていたせいもあり、気づけば没入。彼らの歩く夜の帰路、きっと平行線のひとつに、僕の留学生活。

二〇二〇年 四月二十七日 月曜日
 外に出ない間に、春が行ってしまうのが悲しい。せめて一言声をかけてくれれば、と思うけど、なんて言われたら納得できる? 季節はいつもさよならを言ってくれない、何も言わない、黙っているのかどうかも分からない。

二〇二〇年 四月二十九日 水曜日
 もうGW突入した?と訊かれて、突入したよと答えると、「チュドーン」「おめでとう」と言われ、その物騒な音は一体なんなんだと訊くと、「平日を破壊するんだよ」と。なるほど、社会人にとっては痛快な響きである!

二〇二〇年 五月一日 金曜日
 昨晩の咽頭痛が発熱に進化。かなりしんどい。きっと高熱。コロナか、最悪死ぬかもしれないと思うと余計に弱る。いずれにせよ薬がないので通院。赤外線を額に当てて熱を測る。37度1分。「扁桃腺炎ですねー」はい。


りと

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半地下の部屋に住む
室内の湿度が高すぎて
手帳がふやけてしまう

二〇二〇年 四月二十五日 土曜日
 誰だ、こんなところにティッシュを捨てたのは。と思って近づくと、白いツツジの花のなれの果てだった。端がぐちゃぐちゃで、茶色くなっていた。マンションの薄暗い共同廊下に差し込む夕日を浴びて、じっとしていた。

二〇二〇年 四月二十六日 日曜日
 近所の花屋の前を通る。看板猫は昼寝中。起こすのもなんだか気が引ける、と思っていたら、お店の人がモミの木の新芽を触らせてくれた。ほんとは業界の人だけの秘密らしい。動物とはひと味違う、春の植物の柔らかさ。

二〇二〇年 四月二十七日 月曜日
 買い物を終えてスーパーを出る。雨が止んでいた。とっさに太陽に背を向け、虹を探す。いつからだろう。虹の出る仕組みを知ってしまって、空をやみくもに探さなくなったのは。え、虹ですか?見つけられませんでした。

二〇二〇年 五月一日 金曜日
 友人に大きな変化があったらしい。好きな人が大きく変わってしまうのは、少しだけ怖い。会えないときならなおのこと。嫌な考えを振り払う。窓を開けるとそこは夏。季節はもっと継ぎ目なく変わるものだと思っていた。


りょう

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堀江リバーサイド在住
フランス映画が好き
東京は春がよく似合うね

二〇二〇年 四月二十五日 土曜日
 本日快晴!とお天気チェケラーの彼氏が言っていて、カーテンを開けるとその通りだったので、ベランダでしばらく音楽を聴きながらコーラを飲んだり、煙草を吸ったりしていたが、煙草はもうやめようと思う(金銭的に)

二〇二〇年 四月二十八日 火曜日
 換気扇の下に座り込んで煙草を吸っていると、玄関に彼氏の靴が、もちろんわたしの靴もたくさんあって、ふと、彼氏は一回わたしの家に来るごとに一足ずつしか履いて来れないのになぜこんなに靴があるのだろうと思った

二〇二〇年 四月二十九日 水曜日
 ヒップホップを聴いて、「昔のビッチが電話してくるけど俺はいまかわいい好きな女といるから興味ねえ」系の曲、ぜんぶビッチサイドの気持ちで聴いちゃってつらかったけど、いまはかわいい好きな女サイドで聴いている

二〇二〇年 四月三十日 木曜日
 朝方まで眠れなかったので彼氏に送った20分ほどのボイスメッセージ(もはやラジオ)の内容は、日々のこと、主に音楽に関する疑問だが、彼氏は音楽が好きなので良いアンサーをもらえるといいなとすこし期待して眠る


珍道中

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愛犬家
原則年中裸足で過ごす
夏は自分の汗にかぶれる

二〇二〇年 四月二十六日 日曜日
 早く引っ越そうと思いつつ惰性で来月分の家賃を振り込むのである。無職の私は挫折と停滞があらゆる意味において敗北ではないことを示す社会的責任があるので、新居を探すよりむしろ鏡を買って部屋の風水を良くする。

二〇二〇年 四月二十九日 水曜日
 お気に入りのアル中小説にこぼしたレッドブルの染み、だいぶ湿気てしまい新品の百倍分厚い。奇しくも神話の通り、バッコスがレッドブルを水晶に注ぐと美しいエナジードリンク色に。石言葉は「誠実」おれのことだ。

二〇二〇年 四月三十日 木曜日
 嫌な事を思い出して長い文章を書く宿題をやって疲れた。いつでも過去に戻れるのはそんなにいいことか、直線的な時間の流れからはみ出すことに執着しすぎではないか、セーラームーン見てますますそんな気がしてくる。

二〇二〇年 五月一日 金曜日
 家にいる間にひとつの季節が終わったが、夜に夏服で外に出たら寒い。人生を語り合う若者が社会的距離を保っていて、私はそこに割り込む形になってしまう。夜は取り残された人間の時間、早くおうちに帰るがいい。

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