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緊急事態宣言下における百文字日記(7)

4月7日、緊急事態宣言が発出され、
我々の生活は、輪をかけて不安定に。

いま、この「変な状況」だからこそ、
書き留めておきたいことがあるはず。

うちで楽しめる、みんなの暮らしの、
「おつまみ」になれるようなものを。

第7号で百文字日記はおしまいです。
いままで読んでくれて、ありがとう。

『千文字』も読んでみてくださいね!


イシュー

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あらゆる差別に反対中
ヒューマンに絶望中
永遠の命を熱望中

五月二十四日 日曜日
 何も無い場所で、蜘蛛の糸の感覚が君を触れば、それは霊の仕業だという。不快なだけだが、それがすでに霊障なのだ。しかし、先ほど霊験あらたかなライフにお詣り済だった故、ご神体たるこの身、幸い大事には至らず。

五月二十五日 月曜日
 ビリー・アイリッシュは、どんな気持ちで「ダー」と言ったのか。何らかの確固たる、言語化可能な感情であることを望まないが、我々が彼女を愛し、敬い、その言葉をなぞるとき、どのような顔でいればよいのだろうか。

五月三十日 土曜日
 黒人が警官に殺され、アメリカでは大規模な抗議デモが起きている。起き抜けにデモの様子を確認し、他人の命を救うための人間の怒りに涙する。見るに耐えないが、怒りを表明しなければならない背景が、耐え難いのだ。


りと

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6月10日に
全身麻酔をかけて
親知らずを取る

五月二十五日 月曜日
 親知らずが生えてきた。怖いけど歯医者に行く。久しぶりに乗る自転車のほうが怖かった。レントゲンを撮ってすぐ、大きな病院に行くことが決まった。とんとん拍子。現実もこのくらい早く進めばいい。見習ってほしい。

五月二十八日 木曜日
 大きな病院。レントゲン。問診。血液検査。心電図。CTスキャン。検査が終わるごとに、次に向かうべき場所を言われる。大仰な装置が頭の周りを回る。こんなにもおかしいのに、どうしてみんなまじめな顔ができるのか。

五月三十一日 日曜日
 指先から石鹸の香りがする。皮膚がひりつく。今の気分に合う曲を探す。溜めていたメッセージを返す。温かい椅子の上でまどろむ。今日のうなじに顔をうずめる。鼻から思いっきり吸い込んで、明日からの生活に備える。


りょう

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noteで日記を書いています
アカウントはogrnp
是非ご覧くださいませ

五月二十五日 月曜日
 彼氏とお散歩しているときに覗き見した老夫婦の食卓の様子が素敵で、いいねと彼氏が言ったけれど、なりたいおじいさんは舘ひろし、なりたいおばあさんは加賀まりこと言っていて、その食卓の老夫婦とはかけ離れていた

五月二十六日 火曜日
 映画を観ることができなくなればなにもすることがなくて、外に出ると、途端に雨が降り出して来て、ほんとうに映画みたいだったので、人生であと何回映画のような雨を降らせることができるだろう、と考えながら濡れた

五月二十八日 木曜日
 たくさんの人が亡くなったことや、政府の愚策や、我々の生活が大きく変わったこと、そのことで不安な日々を送ったり、その代わりに良い発見があったことを、みんな、もちろんわたしも含めて、忘れてしまうんだろうか

珍道中

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大を、犬切に
子に長州の八重桜
と服に書いてある

五月二十四日 日曜日
 これからも変わらない人生が続くとお前が言うので、私はお前のスカした意図などはひっくり返してやりたかったから当たり前だ、おれはずっとそうやって生きてきたのだからと、ちゃんと馬鹿になって言ってやったぜ!?

五月二十六日 火曜日
 奇妙な夢についての所感を書きつけようとすると船笛のような音が耳元で鳴り、これは去るべしという陳腐な合図で、おれはそのようにするついでに、世界を置き去りにして自分だけが変わっていくと陳腐なことを思う。

五月三十一日 日曜日
 来月の運勢はついに更新されず、未来を知ること能わず。暗くなっていく部屋で髪をベタベタにして正解がわからない。外の自販機にオランジーナと強炭酸サイダーが追加されていて、泡について何か考えがあるのだろう。

*能わず=あた-わず:不可能だ、~できない

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作ったり書いたりする
すぐ恋をする
自転車にいっぱい乗る

五月二十四日 日曜日
 受けなければ落ちないことに気づいてからは、防戦一方である。何からか。周囲の内定報告を聞くたびに、ストレスで始めた筋トレに拍車がかかる。うっすらと見えてきた腹筋の、その隆起の隙間を社会性がこぼれ落ちる。

五月二十五日 月曜日
 美しき母なる母から受肉し生まれた点において私はキリストであると言えるので、聖餐論に登場するべくは、やはりおいしいお味噌汁と白ご飯が妥当だろう。聖なるジージャスパワー。分けても減らないたらこ味のおにぎり。

五月三十一日 日曜日
 内に向くと湿る、事実に拘れば乾く。文章における湿度について考える。やはり私はさっぱり在りたいと思うから、日々起きたことを起きたように書いてゆくのだ。洗濯物が揺れてるだとか、みんなのことが大好きだとか。

*拘れば=こだわ-れば


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座談会はもう少し待ってね


百文字日記のスピンオフ的なやつはこちら。


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