遅れてきたバレンタイン

季節外れの日差しにうんざりして、2月なのにアイスを買って食べた。「ふぅ、生き返るな」外回り中の営業マンには格別の味だ。もうすぐバレンタインだというのにこの陽気は何なのだろうか。またすぐ寒くなるのだろうと思いながら、上着を手に仕事へ戻った。

夜、部屋に帰宅したら、ポストに何か入っていた。A4サイズの厚めの封筒だ。差出人を見るとラジオ局からだった。「俺、何かに応募してたかな?」曖昧な記憶の中、封筒を開けてみた。
中にはラジオ局の番組表とラジオ番組からの当選のお知らせとチョコが入っていた。

「誰のイタズラだ!ふざけるな!」
僕は怒りながらチョコを机の上に乱暴においた。
同時に悲しみが溢れて来た。「鈴美…」

鈴美は僕の恋人だった。だったと言うのは語弊がある。今でもそうだが、もう会えない。
彼女は半年前に病気でこの世を去った。
笑顔の素敵な、優しい人だった。
今の僕にバレンタインというイベントは遠い存在だ。
こんな手の込んだイタズラをするなんて!誰が、何のために!

水でも飲もうと席を立とうとした時、封筒にまだ何か残っているのに気づいた。
「これは…手紙?」裏を見て手が震えた。
宛名は鈴美からだった。急いで封を開けた。
「マサト君、お元気ですか。突然チョコが届いたから驚いたでしょう。病室で毎日ラジオを聞いてたら「1年後にチョコを送ろう」と言うイベントをやっていてね。応募したら当たったの。それで、この手紙も添えて送る事にしました。私は渡せそうにないから…」
手紙は一度ここで途切れていた。次の頁をめくる。
「あなたは立ち止まらないで、前に進んで下さい。私の分まで、進んで下さい。ありがとう。鈴美」

涙が止まらなかった。
何度も手紙を読み直して、文章の間に秘められた気持ちに気づき、また泣いた。
泣き疲れてそのまま机で寝てしまい、気づくと朝になっていた。
カーテン越しの朝日を眺めながら、やっと落ち着いた僕は、誰に言うでもなく「ありがとう、鈴美。僕は前を向けそうだよ」

終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?