花火手帳

毎週金曜日の20時から沖縄県のRBCという放送局にてオンエアされているラジオ番組「シンカの学校」に投稿したラジオドラマの話です。どこかに記録しようと思い、ここに書き出した次第です。短いので軽く読めると思います。


花火手帳

「この先を真っ直ぐ行くと駅に着きますよ」
「お嬢さん、ありがとうございました。お礼にこれを差し上げましょう」
道案内をした私に、お爺さんはそう言って一冊の手帳を渡した。いらないと断ったのだが、「まずは読んでみて下さい」と笑みを浮かべて去っていった。
帰宅して手帳を見てみると「花火手帳」と書いてある。
「何だろう?日記みたいなものかな」ページをめくると『3月17日、宜野湾市』とか『11月3日、沖縄市』など日付と場所だけいくつも書いてある。「何これ?意味わかんない」と気味が悪くなり手帳を捨てようとしたが、手帳の裏に書かれた文言に目が止まった。
『世界中の笑顔が見られます』
その言葉が気になって、真似して書いてみた。
『今日は4月1日か。4月1日、那覇市久茂地っと』
書いた瞬間、文字の色が変わった気がしたが、何も起きなかった。何だか馬鹿らしくなり風呂に入る事にした。
その途端スマホが鳴った。友人のアミからだ。
「美鈴、起きてる?テレビつけてみて!」
テレビを付けると速報が出ており、そこにはスマホで撮影されたであろう打ち上げ花火の映像が流れていた。レポーターが興奮気味に喋っている。
「全く信じられません!那覇市久茂地の上空に花火が上がりました。しかしどこから打ち上がったのか分からないのです!」
「まさか…この手帳なの?」
気になって他にも山里タンクとかあり得ない場所を試してみたら、実際に花火が打ち上がり、翌日の報道は大騒ぎになった。それを見て私は一つの決心をした。

数ヶ月後。
車のラジオを付けるとアナウンサーが嬉しそうな声でこう話していた。「9月30日の金曜日、RBCiラジオよりニュースをお伝えします。本日アフリカの集落で打ち上げ花火が目撃されました。世界各地で起こったこの不思議な現象は未だ原因不明ですが、現地の子ども達は大喜びで、大人達も笑顔だったとの事です」
そのニュースを聴いて私も笑顔になり、運転席にいた彼と目を合わせて笑い、窓の外で打ち上がる花火を眺めていた。

終わり

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