泣けたら楽なのかな

年末年始に半年ぶり・2ヶ月ぶりに連絡した2人の男から続けざまに返信があった。

2人とも大きく分けるとサービス業だから、ちょうどみんなが働き出す5、6あたりが休みになる。

社交辞令だと思っていた、「また連絡する」と返信が来ていた半年ぶりの彼は、律儀にちゃんと連絡してくれた。
毎日LINEしていた全盛期と同じテンションで。
嬉しかった。
連絡が来て翌日の夜23時前。
私は仕事終わり、雪が降る前の日、駅で彼を待っていた。
自転車で現れた彼は、眼鏡をかけていた。
よく会っていた時はかけることのなかった眼鏡。
その眼鏡が、私は彼にとってもう格好つける必要のない存在になったことを感じさせられて、悲しくなった。

久しぶりに会った彼は変わらなかった。
私は仕事のストレスと、恋愛がうまくいってないことで、久しぶりの男の人との飲み自体にも、それが彼であることにも、ひどく緊張していた。

2人とも、転機を迎えていた。
私は転職する。
同い年の彼は、長く勤めた会社を辞めて外国に行く。
私も彼も、今の現状に嫌気がさしていた。
人のいない家庭的な居酒屋で、私と彼は仕事の愚痴、これからのこと、彼が好きだった雑誌の話、私がやりたいことの話、途中途切れがちになりながらも、ぽつぽつと会話をした。
彼は愛想がないように見えて、お酒の注文、たわいもない話の端々に優しさが感じられた。
私は当時彼のその優しさに甘えていた。
当時気づかなかったその優しさが、なんとも言えない気持ちにさせる。

好きだったのは本当。
でも、彼も?
私のこと好きだった?
信じられなかった。
好きだとか、つきあうだとかという言葉は何も交わさず、当時の私たちは当たり前のように毎日連絡を取り、たまにお互いの家に行き、身体を重ねた。
2、3ヶ月して、突然彼からの連絡が途絶え、あっけなくその関係は終わった。

なんとなくぎこちなく感じた飲みも終え、
会計をして店を出た。
「いい店だったね」
彼は言った。
初めて会ったときに彼が紹介してくれた、彼の好きな居酒屋も、似たような雰囲気の店だった。
あったかくてごみごみしてない、しっぽり飲めるような店。
彼はセンスがいい。

2人の家の真ん中の駅だったので、
彼は私を送ると言ってくれた。
自転車を押しながら、またぽつぽつと会話しながら。
その駅から家までは遠いと思っていたが、
話しながらだとすごく近く感じた。

何を話したかあまり覚えていないが、
この後どうなるんだろう、とは思っていた。
私たちはすでに寝たこともある関係だ。
私の家まで送ってくれるということは、
今考えるとその主導権は私にあった。
久しぶりに会った彼と話して、
彼が半年の間にだれかと付き合ったのか、
今彼女がいるのか聞けずじまいだったので、
私には自宅に誘う勇気なんてみじんもなく、
家の前まで来ても、ありがとう、と言うしかできなかった。
でも、もし家にあげて、そういうことになったら、と考えると、私は果たしてそういうつもりだったんだろうか?
彼に久々に会いたかった目的は、そうじゃなかった気がした。
自己肯定感がどん底まで下がり切っていた私は、その何とも言えないイライラや不安や寂しさを、
身体ではなく、精神的なもので埋めたかった。

「誰かに無条件でずっと好きでいてほしかった」
んだと思う。
自分でも驚くほどに身勝手な思い。
やりたいって思われるんじゃなく、
私としての人間を好きだと思っていて欲しかった。
その先に身体の関係があるなら、それはそれで良い。
でも先に、その実感が欲しかった。
3時間話していても、それが分からなかったから、
そしてもう昔のような関係には戻れなかったから、戻れるのかもしれないけど、わからないけど、私は無性に悲しくなった。

「また連絡しますわ」
自転車にのって帰ろうとする彼を後ろから抱きしめた。
「一生の別れじゃないんだから笑」
彼は言った。
「外国でもLINEできる?笑」
「できるでしょ笑」
「うん笑 じゃあね、気をつけてね!」
「じゃあねー」

ぬるっと、また連絡を再開することもできるだろう。
でも怖かった。
家に入ってすぐ、ありがとう、また連絡する、とLINEした。
彼からの返信の最後に、またねー、とあった。

可笑しいかもしれないけど、
私にはそれが、2人の最後に感じられた。

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