土屋康平【土屋とTeXi’sと時々アッコ】

 最近ラジオでよく耳にする曲がある。和田アキ子の新曲「YONA YONA DANCE」だ。フレデリックが楽曲提供をしたそうで、なんともイマ風のビートと共に渋い声でアッコが「♪ならば踊らにゃ損 踊らにゃ損です 踊らにゃ損 踊らにゃ損です」と歌いまくるのだ。この曲には中毒性があり聴き入ってしまうのだが、ダンスが苦手な自分からすると、踊った事により損をする場合もあるよなぁと、頭の中で反論してしまうのだ。

 友人である大野創君から変な依頼が来た。

 劇団TeXi’s(てぃっしゅ)の次回公演「G+(CHON)=」の稽古場に潜入し、思ったことを文章に書いてくれと。特に文才があるわけでもない自分にこんなことを頼んでくるのだ、大野君はよほど友人が少ないんだろうと思った。どうしようか悩んでいると、心の中にいる和田アキ子が「踊らにゃ損です」と言ってきたので一か八か引き受けることにした。

 12月某日、埼玉に住んでいる私は電車を乗り継ぎ約1時間半、見知らぬ街 淵野辺にいた。今から稽古場に乗り込むわけだが、劇団TeXi’sはほぼ桜美林大学の出身者により構成されており、日芸出身の自分は最悪の場合敵と見なされる。唯一の友人であり依頼者の大野君もこの日は別のお仕事の都合により、遅れて稽古場にやって来るそうで、私は単身で乗り込まなければいけなかった。めちゃくちゃ緊張していたがこの変な依頼を引き受けてしまったのは自分だ、任務を全うせねば。スマホのメモ機能を開きながら稽古場の扉を叩いた。

これはそのメモの前半に残されていた言葉だ

・場違い感
・気を遣われない。清々しいほどに
・この和室囲炉裏あるんだ
・皆さんに申し訳ない。なんか、、とても、変な緊張感を与えてる感じする。オレのせいだ。オレが変なタイミングで来たからだ、、、

 なんとも卑屈なジャーナリストだ、しかしネガティブは止まらない。あの恒例行事、自己紹介が始まった。皆さんには必要がないのに「土屋康平です、よろしくお願いします」を発語させる為に、貴重な稽古時間を奪ってしまう。申し訳ない。申し訳ないので代わりに皆さんの紹介をここでさせて頂こう。

 まずは脚本であり演出のテヅカアヤノさん、以前ミノカモ学生演劇祭という企画に参加した際に少しだけ会話をした。当時の印象は「絶対変わり者だこの人は」である。先天的な変わり者に憧れてしまう。ただ今回の稽古場でのテヅカさんは、以前の印象とは少し変わり、常識を手に入れている感じがした。これが成長か。

 そしてメインキャストの上沢一矢さん、なんとも整った顔だ。羨ましい。しかし整った顔立ちの男性に良い人なんかいない。これは僕が24年間という歳月をかけて集めたデータだ、何よりも正しく、論理的で、偏見なんかこれっぽっちも入っていない。また苗字が上沢(アゲサワ)だ。周囲からは“アゲ”という名で親しまれている。こんな呼び名、どう考えたってポジティブになってしまうだろう。上昇の上(アゲ)だぞ、なんだこのアガる名は。まさに天性の運。容姿良し、名前良し、と来たら、性格が最悪以外ではバランスが取れない。心の中のアッコも臨戦態勢だ、いつだって殴りかかれる。さぁ、会話が始まるぞ、どんな、どんな嫌なやつなんだ!良い人でした〜〜〜〜、それはそれでもう嫌なんだけど、適度に冗談を混ぜつつも、決して相手を1人にはさせない。演技も、体の基礎筋力がしっかりしているからだろうか、土台ががっちりした安定したお芝居。こりゃメインキャストをやれるわけだ。納得がいく。

 次に同じくメインキャストの古川路さん。古川さんはなんとまだ在学生らしい。学生という肩書き、羨ましい。ただ、なんとなく、本当になんとなくなんだけど、なんか嫌われてない俺?って感じてました。なんか、僕を見る目と鳩を見る目がほぼ一緒で、あれれ、俺の評価が低いのか、鳩の評価が高いのかどっちなんだろうと不安でした。それくらいクールな印象の古川さん。バレエ的なことを嗜んでいたのか、ありえないくらい体が曲がるんです。フッとした時に見ると、足をものすごい曲げてるんです。「いやいや!そんなに曲げたら取れちゃうよ!!」ってくらい曲げるんです。そんな曲がり者の古川さん、彼女は言葉を発さずともそこにいるだけで、エネルギーを放てる人でした。全ての動きに魅力があります。またこの人も名前がかっこいい。路って書いてなんて読むと思います?すごいですよ。想像の斜め上です。正解は、ぜひ劇場でお確かめください。ナニソノヤリクチ〜〜〜。

 そしてゲストの大内透吾さん。マスク越しにも伝わる良い人感。コナン君とかに出てたら逆に犯人の可能性大みたいな良い人。もちろん前科は無い。。。え。無いよね、、?

 ゲストというのはどういうことか。どうやら今回のお芝居は回ごとにゲストが変わり、同じ台本を上演するそうなのだ。しかもゲストによって若干セリフが変わるのだ。役者の力量が試されるようなお芝居を、短期間で作ろうとしている。やっぱりテヅカさんは僕が思っていた通りの変わり者だ、安心する。でもあの2人なら、この厳しい条件も楽しみながらやってのけるのだろう。またまた安心する。

 稽古場は「写し」を始めた。演出家の指示や考えを役者が台本に書くための時間だ(と勝手に解釈した)。どんな台本かもわかっていないので、ただただ皆さんの言葉を部屋の隅から盗み聞きしていただけなのだが、なんだか共通言語が違うような錯覚に陥った。僕はここにいる皆さんがどんな方々なのかをまだ知らない。何が好きで、どんな舞台にしたくて、今までどういう風に生きてきたかを。
 日芸と桜美林。同じ演劇専攻の大学だけども、大切にしてることや学んできたことが違うのだから、彼らの些細な言葉のニュアンスが僕にわかりきれる訳もなく、そこがとっても面白かった。生きてきた場所の違いがほんの少しの言葉に表れる。理解したいとも思ったし、間違った解釈でも良いから自分も混ざりたくなった。

なんて事を思いつつ私は後悔していた。

 カッコつけて正座をしてしまっていたのだ。初めて訪れた稽古場ということもあったし、緊張もしており、正座で話を聞き始めてしまったのだ。寺の息子でもない限り現代の20代男性が正座に慣れているわけもなく、すぐに足の裏から悲鳴が聞こえた。しかしここであぐらに変えてしまっては「あいつカッコつけて正座してたんだ」「いや無理なら初めからするなよw」「服装ダサ…」と思われかねない。ここは我慢だ。心の中のアッコも「我慢しなさい、あなたは何をしてる人なの?」と言っていることだ。
 そんな自分の体と皆さんの会話に気を遣いながら、稽古は立ち稽古へと移っていく。立ち稽古になってからも良い違和感は続いてゆく。

 冒頭のシーン稽古。役者の「動き」に対する演出の割合が多い。僕の偏見だけども、桜美林という大学は身体表現に特化した大学のような気がする。それに比べて日芸は言葉とかセリフに重きを置いているような気がしている。もちろんどちらが良いとかではなく、へぇ〜そこを指摘するんだぁみたいな。ある登場人物のたったひとつの動きに何分も頭を抱える。「足広げれば済むんじゃね?」とだけ思ってしまうような事にも、この座組みは「前段階における重心がどこにあって、このセリフまでにそれがこっちに移ってほしい」「そうすることで足がこのポジションにきてると思うよ」みたいな。そこまで考えるんだ言葉にするんだ、すごっ、と単純に感心してしまった。
 テヅカさんは首の角度から足の踏み出し方までしっかりと注文していく。きっと彼女の頭の中に表したい絵が浮かんでいるんだろう。まだまだ稽古の途中だし、その絵がどういうモノか全てを理解しきれていないが、本番が楽しみだ。

 どの役者さんも達者だ。理解と行動が速いし、各々が違う長所を持っている。しかし、無意識に見入ってしまったのは今回のゲストである大内透吾さんだ。彼は、面白い。演技をすること、それを見られることに羞恥心を感じているように見えたのだ。
 きっとタバコを吸って顔を白色に塗り灰皿を投げるような時代の演劇人だったら、恥ずかしがることを非難していただろう。役者が恥ずかしがってどうするんだよ!みたいな。ただ僕は、恥ずかしい時は恥ずかしいもんでしょ、演技してるんだから…と思ってしまう。透吾さんが同意見かはわからない。ただ僕は透吾さんの演技に目が行くのだ。
 聞けば歳が僕と同じ24歳だという。なぜあんな初々しい演技ができるのだろうか。舞台とか演技とかいうものは、経験を積んでいく度に技術やスキルを獲得する一方、素人性を失っていく。プロの漫画家は絵が上手くても、幼稚園児が描いた落書きにはどこか勝てない様に、経験者には出せない素直さや歪な表現方法が素人性という魅力に直結していく。
 そういう魅力を持つ役者さんはたまにいる。コツやテクニックがあるのではない、その人の内面から出る人間性とかパワーとかが関係してるのだろう。とにかくそういう俳優が僕は好きで、憧れてしまう。透吾さんからはそれに近いものを感じた。
 今回の劇団TeXi’sの注目すべきポイントの1つはここな気がした。テヅカさんの繊細な演出と、透吾さんの演技の融合。カッコつけて言えばマリアージュ。透吾さんの身体性をテヅカさんがどう演出してくるのか。本番が楽しみでならない。

 独り言のようにこの文を進めてきましたが、稽古場では皆さんにとてもよくしてもらったんです。2日間しか遊びにいってないのに、しっかりみんなと仲良くなれました。友達が一気に増えました、嬉しいです(この事に関する反論や異議申し立ては受け付けておりません、ご了承ください)。大野君から依頼されたこの「稽古場覗き見 好きかってレポート」だが、新たな出会いや考えと触れ合えて大変勉強になりました。ダンスが苦手だからといって断らず、踊らにゃ損だと納得しました。ありがとう大野君、ありがとう和田アキ子。

みんな、和田アキ子の新曲「YONA YONA DANCE」聴いてね。


土屋康平(ツチヤコウヘイ)
1997年8月20日生 満24歳

喜劇のヒロインのメンバー。最近ハマってる事はラーメン作り。絶賛居酒屋でバイト中。辞めれるのが夢。ラジオ好き。歌えないし踊れない役者。

【公演詳細】

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