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ドルフロ『鏡像論』感想──とにかくつらいシナリオ

 ドールズフロントラインの大型イベントシナリオ『鏡像論』の感想です。
 ネタバレを含みます。

 いや、しんど……。
 面白かったけど、とにかく内容がつらかった。わかってはいたけれども……。人はばんばん死ぬし、ずっと疑心暗鬼のまま話が進むし、ラストも「つづく」って感じなのでいろいろ消化しきれないね。

 今回のイベントはラカンの「鏡像段階」をモチーフにしていて、あらゆるところでラカンの思想や鏡にまつわるイメージが反復されていた。例えばマハリアンとモリドー、RPK-16の自我についての一連の議論、そしてステージボスの名前がナルシス──水鏡の中の自分に恋をした少年の名前であるということ。
 鏡合わせの構造は物語全体にも及んでいて、アンジェ視点と指揮官視点が同時進行する。「終幕 凝視」ではさらに視点が増えてかなりややこしいけど、部隊が散り散りになってしまうことを上手く話に活かして最終決戦に繋げていくのはかなりテクい。

 話の目的もはっきりしていて面白かった。指揮官側はマハリアンの尋問と調査、アンジェ側はグレイたちの陰謀を探っていく。両者が基本的に別行動でほとんど交わらないんだけど、アンジェと指揮官のスタンスを適宜対比させつつ、大きなスケールで話が展開されていくのが良かった。特に、指揮官はマハリアンを信じることで窮地を脱したのに対し、アンジェは常にマハリアンやライトへの警戒を怠らなかったにもかかわらず身内の裏切りで敗北を喫してしまうという比較がなんとも皮肉だなあと思った。

 ただまあ、なんといっても今回のシナリオの主役はRPK-16だ。不穏さはあったものの、あまりにも清々しい裏切り方なので驚く。

私から言わせれば、人形にはどうしても補えない欠陥があります。私たちは本物の痛み、苦しみ、悲しみを理解できず、そして快楽という概念もありません。ましてや生と死など尚更理解できないでしょう。勝利はいつも人間の物ですが、死はいつも人形が担っています。けれども、結局最後に死ぬ権利があるのは、人間だけなのです。このすべてが滑稽で、矛盾していると思いませんか?
(…)
私は人間になりたいです、アンジェ。人間でしか体験できない、本物の人間のみ感じられる喜びと悲しみ、生と死、そして未来を、私は感じたいのです。

RPK-16(鏡像論>終幕)

 人形が戦争の道具として費消されていることへの問題意識みたいなのは前々から描かれていたと思う。とはいえ、人形は費消されている代わりに(基本的には)死にもしないので、そういう意味では人間と持ちつ持たれつの関係だ。
 しかし、RPKは人間が「死」を独占していると考える。たしかに死というのは悲劇であると同時に人間にとっての最大の見せ場、最後の大花火なわけで、かつ「人間が個人として尊重されているのは個人が必ず死ぬからである」ともいえる。人形は死なない代わりに尊重もされないし、個として歴史に名を刻むこともない。戦いに参加しながらもその勝利と栄光は常に人間に独占されている。
 そこでRPKはみずからが人間に成り代わることで、人間の死──すなわち限りなき神々しい瞬間を得ようとする。
 繰り返しにもなるが、死というのは人間が個人として尊重されるために必要なものだ。人生が一回性のものであるからこそ、その一回限りの生がその他のものから切り離された特別の価値を持つ。RPKはそのことに気づいてしまったから、人間になることを希求するようになったのだろうか。このあたりの話がラカンの鏡像段階の話と類比されているように見える。

 一方で、RPKの理屈には疑問もある。鏡像論序盤でRPKはROに対し、戦術人形を「テセウスの船」に喩えて、それに比べて人間は「純粋な肉体」のままでいられると語る。けれど、人間にしたって細胞が入れ替わり続けるし、年老いれば記憶や思考力も失われる。純粋な肉体や純粋な心などというものが人間にあるかどうかは甚だ疑問だ。たしかに人間と人形には隔たりがあるが、それがはたしてどれほど決定的なものなのか、さらに言えばどちらが優れているといえるものなのかはわからない。
 けっきょく、RPKの願望もプログラムによってそう感じさせられているだけだし、彼女の裏切りは人間の鏡像段階における成長と同じものではない。彼女の思考は穴だらけだ。今後、RPKを倒すことができるとしたらそのあたりの矛盾を突きつけるかたちになるかもしれない。

パンドラという名前は「人類最初の女性」という意味から持ってきてるんだろうけど、ショーはいったいどういう気持ちでRPKを作ったのか。今後明かされるのだろうけどイヤな予感しかしない……

 そういえば、ライト君の決死の特攻をRPKが無慈悲にも阻止してしまうところにも、RPKの人物像を象徴されている。ライト君、まだ19歳なんだよな……肝が据わりすぎだよ。ライトが二度も蘇るのは圧倒的な物語の力を感じて、強引でありつつも熱い展開なんだけど、それだけにRPKの行動が鬼畜すぎる。最後にライトの遺体が身元不明のUnknownにされてしまうところも本当にひどい。
 というか今回のイベントの敵、全体的に頭良すぎない? モリドーといいRPKといい、こちらの起死回生の手を平然と読み切ってくるし……ウォッチメンのオジマンディアスか?

 ところで、終幕でアンジェが洋館へと踏み込んでいくのは、不用意といえばそうなんだけど、でも今回のAK-15の異常な強さとかを見るに、RPKが裏切らなかったとすればグレイだろうがなんだろうが勝てた可能性が高いのかな……。だから個人的にはアンジェを責める気にはなれない。それだけRPKの行動がアンジェの予想を凌駕していたということだろう。

この設定、ほんとひどくて笑ってしまう。地味にRPKと対比になっているのもね。

 今回のシナリオはパズル小隊の会話で終わったけど、かれらも次回以降ろくでもない目に合わされるんだろうな……。新規人形が次の被害者でしかないのはスマホゲームとしてどうなんだよ。つらいなあ。
 最後にマハリアンのビデオメッセージが出てきたのは良い演出だった。彼女のセリフ──「私に未来を期待させる理由をくれて、ありがとう」──はこの物語における数少ない希望を象徴するかのような言葉だ。まあマハリアンはモリドーに串刺しにされているのですが……
 この調子だと今後も暗鬱とした話が続きそうだけど、それでも多少の期待を懐きつつ物語の続きが読めることにこそ未来への希望がある。

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