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アニメ『アイドルマスターシンデレラガールズU149』感想──原作の新たな切り口

 U149のアニメはとにかく手が込んでいた。リッチな画面づくりと大量の新曲など、原作からのファンたちの期待に十分応えてくれる質量だった。12話まで駆け抜けた今は感無量で、U149という作品が永久に続いてほしいというただひたすらそういう気分になっている。
 一方で、個人的には10話くらいまで、このアニメ版をどういうスタンスで見れば良いのか掴みきれていなかった。

 周知のこととして、U149はアニメと原作(漫画)でだいぶ話の組み立て方が違う。個々のエピソードはわりと原作から拾っているが、ゲームのほうから持ってきた要素もあるし、完全に初出のものもあるし、アニメ版と原作は別の作品と言っても良い。
 アニメと原作との最大の相違点は、Pの上司にあたる大人たちのエピソードが追加されているところ。これは「大人と子供」の対立軸を物語のテーマに据えるためだと思われる。
 そもそも、アニメ版は原作はおろかアイマス自体に触れたことがない視聴者をも想定して作られていると思う。原作は他のアイドルもゲスト出演させたり、ファン向けの目配せ的演出も多いのに対して、アニメ版はそうした「文脈」は極力使わず、U149以外のアイドル(しゅがみんやLiPPS)の出番もここぞというところに限定されている。
 原作ではそうした先輩アイドルとの交流が第三芸能課の成長のきっかけになっていたが、アニメ版ではそういうことをほとんどやっていない。そこで原作の「子供(第三芸能課)と大人(先輩アイドル)」の構図が「子供(U149)と大人(上司のおじさん)」という構図にすり替えられている。

 アイマスに触れているとしばしば忘れがちだが、「アイドルもの」というジャンル自体がそうとう特殊で、まったくまっさらな状態の視聴者にそれを受容してもらうのは難しい。アニメ版が「現実主義で硬直的な大人と夢見がちで自由な子供」というわりとわかりやすい対立軸を持ってきたのは、アイドルものに触れてこなかった一般視聴者にとってわかりやすいストーリーにするための戦略だったのではなかろうか。
 子供と大人の対立軸をはっきりさせる工夫として、アニメ版では第三芸能課のストーリーのリアリティラインを現実より下げる改変がしばしば見られた。例えば、赤城みりあのライブ配信がかなりめちゃくちゃな事故によって始まったり(原作ではちゃんとしたラジオ放送だった)、古賀小春のファンタジー感が強いエピソードがあったりした(原作にはない)。原作は地道に小さな仕事をこなしつつアイドルとしての成長を遂げていく話なので、このあたりの扱いはアニメと原作とでだいぶ違っている。
 他方、大人側の話は原作にほとんどないもので、こうした改変によって大人と子供の対比がわかりやすく示されている。
 その極致がアニメ10話、子供たちが喫煙室に入ってくる場面だ。ここはそのまま子供が大人の議論に介入してくるシーンであり、ストーリーの転機になる重大な場面だ。個人的に喫煙室での描写はちょっとどうかと思わないではないが、制作陣がなにをやろうとしているのかはっきり見える点でこのアニメにおけるひとつのハイライトではあった。

 アニメ版はそうしたかたちで、かなりかっちりと作られていて、かつ初見の視聴者にも安心して見てもらえる良作だった。
 でもこうした描き方にも悩ましいところはある。アニメ版U149は「第三芸能課をどう売り出すか」という大人側の事情がわりと強調されていて、これがそのまま「原作U149をどうアニメ化して視聴者にアピールするか」という作り手側の事情と相似関係になっている。これはアニメ化の手法としてはだいぶ攻めたやり方だ。そういう「現実」の話をこの作品でやってほしいかどうかというところで、好悪のわかれるところではあるだろう。
 そういう感じで自分は途中までアニメ版の方向性に調子をあわせることができなかったのだが、11話・12話はそれまでの展開をきっちりと回収した素晴らしい完成度で、ここにきてようやく自分としてもU149という作品に真に向き合えた気がした

 11話は、橘ありすの家族の話を軸に据えたうえで、最後には大人と子供という区分けの無意味さを語り、ありすを一歩成長させるストーリーラインは明快で、視聴者への説得としても筋が通っていた。実際、第三芸能課のアイドルの中には親との関係が希薄でそれゆえに悩みを持っている子供が多く、そうした側面を代表させるかたちで橘ありすの物語に再構築し、さらには名曲「in fact」に重ねる形で演出したのはアニメ版ならではの新解釈で素晴らしかった。
 12話ははじめての大舞台でのライブ。労基法というきわめて現実的な壁が立ちはだかる。シンデレラには門限があると昔から決まっている……でもそんなことで夢を諦めるわけにはいかない。
 そんなとき、いつもの大人たちの消極的な姿勢が、さらに上の立場にいる大人の無茶振りによって破壊され、止まっていた針が動き出す。満を持してのところで流れる「ハイファイ☆デイズ」が良すぎる。さらに、先輩アイドルたちの登場・再登場でなにかと原作を思わせる空気になったところでライブシーンへ……。
 ここまで丁寧に積み上げてきたからこそ、最終話で夢が現実になる大きな飛躍が燦然と輝く。ここまで見てこれて良かったと思った瞬間だった。

 もちろん他の個々のエピソードに好きなところはあって、原作からの名エピソードである晴と志希の話や、桃華のバンジーは単体で見てもやっぱりすごかったし、的場梨沙のエピソードは遊佐こずえ不在の状態ではあれど、初見の視聴者にも的場梨沙のなんたるかを高らかに宣言した最高のエピソードだった。
 総じて、アニメ版はU149に新たな切り口を作って間口を広げた傑作だったと思う。


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