⑩鬼ふうじ小平と形塚龍三⑵

黒い侍は、

刀のこいくちを切り、柄を握り、

抜刀術の構えをとった。

足のつま先を、

ジリジリ、ジリジリと、

敵の注意をそらすよう音を立て、

場馴れした雰囲気で間合いをはかってきた。

小平「…。

!!

(まさか!?)」

小平は、その男の刀の構えと足くせを充分に理解していた。

小平「…(頼む!!杞憂であってくれ!!)」

と、

小平は一打目の牽制に、

数ある剣客にしか返せない、

「上段から抜刀・間合い詰め」を繰り出した。

しかし、

小平の期待は愕然と裏切られ、

ガキン!!

なんと、黒い侍は小平だけが知っている、

刀の師、形塚龍三の、

「刀受け身・突き返し」で、

その反撃を返してきたのだ。

小平は、刀受け身の構えに心奪われ、

「刀受け身・突き返し」の反応が一瞬、遅れた。

ヒュッ!!

小平「…!?」

小平の右頬に薄らと赤い線が走った。

そして、小平の左目からは一粒の涙が流れ落ちた。

小平「…。

何故だ…。

何故だー!!!

何故なんだーーー!!!」

小平の杞憂が悪夢に変わり、

黒い侍「…。

ぬかるなーー!!

小平!!!」

小平「うわーーー!!!」

刀と刀の打ち合い…。

刀と刀の交錯…。

命をかけた真剣勝負。

…。

黒い侍が、

うろたえている小平に見向きもせず、

足払いで小平を地面に転ばせる。

黒い侍「許せ!!

小平!!」

そして、

刀を大きく振りかぶって、

小平めがけその刀を振り下ろす。

…。

小平は黒い侍の殺意に息をする様に反応し、

体が自然に動いた。

小平「…。

(ぬるい…のだ。)」

小平が、すかさず振り下ろされた刀を天高く弾く。

ガキン!!

グルグルグルグル…。

そして一瞬で間合いをつめ、
黒い侍の喉ぼとけに刀の先端を当てた。

黒い侍の刀が2人のそばに落ちる。

ザシュッ…。

小平「…隊長…。

何故ですか…。

…お願いですよ。

お願いだから…引いてください。」

と、小平は涙を流しながら語った。

黒い侍「…。

…分かった。

ワシが悪かった。

…ここは引こう…。」

チャキ…。

小平が刀をさやに収め後ろに向かって肩を落とし歩き出すと、

黒い侍が、

黒い侍「…小平!!

許せ!!

引けぬものがあるのだーー!!」

と言い、自分のふところから、

あのバック ディナーから貰った杭を取り出し小平に向かって奇襲をかけて来た。

小平は直ぐに刀を右にほうり捨て、振り返り、

大きく手を開いて大の字になって構えた。

小平「…。」

黒い侍が、全力で鋭い杭を突いて来る、

小平は体全体で杭を受けとめるかと思いきや、

刹那、

黒い侍の手首を流れる様にひねり返し、

黒い侍の心臓にその杭を思い切り突き返した。

ドスッ。

黒い侍「ゴハァッ…。」

心臓を貫かれた黒い侍がその場に崩れ落ちる。

小平はその体を直ぐに追うように、

黒い侍を横にして支え、

口にかかっていた覆いをとる。

小平「隊長!!!

何故ですかーー!!?

何があったんですか!!?

どうしたんですかーーー!!?」

龍三「…。

グッ…。

小平…。

落雷神社に行け…。

ウッ…。

落雷神社だ…。

落雷神社に行けば…全て分かる…。

…。」

そう言うと、

龍三の瞳は浮き世の空を映し、

その場に深く眠りについた。

小平「…隊長ーーーー!!!!」

小平は浮き世の空に向かって吼えた。











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