②ほろ酔い

一太刀「闘いだ!!

刃が!!

オレを呼んでいる!!

…。

…兵はどこだ!」

…。

一太刀は孤高の夜に呟く

…。

異国の鬼に血を吸われ、

吸血鬼の一員となった一太刀は、

夜、

身体から、みなぎらんばかりの力を持て余し、

兵どもとの闘いを高揚して想像した。

…。

一太刀「…。

兵は…。

兵はどこだ!!

…。」

暗闇に無意味に響く声。

…。

一太刀の追い求める兵の像は、

彼が衣食住を置く海の浜辺には、

一人足りとも存在はし無かった。

…。

一太刀「喝!!…。」

ドドンッ!!!

(岩を殴る音)

闘いを欲する歯がゆさと苛立ちが、

一太刀の中で終始うずまき交錯していた。


一太刀「…。

虚しい。

…。」

その声すら闇に飲まれて行く。

…。

一太刀は腐った。

夜を当てどもなくさまよい、

また次の日もさまよう、

指標のない深夜徘徊が、

一太刀の空虚な心の一時しのぎになった。

そんな目的の無い放浪が、

何日か続いたある日…。

…。

一太刀はいつもの様に、

砂浜にそびえる大きな岸壁を、

意図も簡単に踏み越え、

森の中をものすごい速さで駆け始めた。

そして、

しばらく森を徘徊し尽くすと、

森のひらけた場所から、

1人と思われる女の叫び声が、

一太刀の耳に響いて来たのだった。


女「誰かー!!!

助けてー!!!」

???「誰も来やしねえよ!!!

人っ子ひとり通らねえ場所だ、ここは…。

往生際が悪いぜ!!!

観念しな!!!」

一太刀は思った。

一太刀「…辻斬りか。」


一太刀は森の木々の隙間から、

遠目に状況を把握し終えた。

…。

女「誰かー!!!」


一太刀「…。」


辻斬り「ふっ…。

あの世でな!!!

じゃあな!!!」


辻斬りが大きく刀を振りかぶり、

女に向かって力いっぱい刀を、

振り下ろそうとした、

その瞬間、

ブン!!!

女「きゃー!!!」


一太刀「…。」

(スッ。)

一太刀は気配を殺して、

辻斬りと女の間に素早く割って入った。

トン。

カチャ、カチャッ…。

辻斬り「なっ…。」

勢いよく振りかぶった辻斬りの刀のつかがしらを、

右手人差し指で制す、

一太刀の姿が見参した。

カチャ、カチャカチャ…。

辻斬り「…なっ!!?

なんだ!!?

おめーーーわーー!!!?」

カチャ、カチャ…!!!


一太刀「引け…。

…畜生餓鬼。」


辻斬り「な、何なんだ〜、

何なんだよ〜!!

おめえはよー!!!」


辻斬りは後方によためいて、

ゼーハー、ゼーハーと、

肩で息を切り、

そしてまた刀を大きく振りかぶって、

今度は一太刀に奇襲を仕掛け踏み込んで来た。


辻斬り「うあーーー!!!」


一太刀は、

辻斬りの一刀目、二刀目、三刀目を、

訳もなく交わし、

ため息混じりにあきれた様子で、

辻斬りのみぞおちに、

その重い闘拳を軽く重ねた。


ドドス!!!


辻斬り「…ゥガッ!!!」

…。

(ドスン…。)


…。

辻斬りは泡を吹いてその場に倒れた。

女「あー…。」


女は涙を流した。

そして一生懸命に、

自分の命の恩人に、

感謝の言葉を伝えようとしていた。

が、

先ほどの恐怖で舌のろれつが回らない。

そして、

一太刀がその場に背を向け去って行く後ろ姿に向かい、

ようやくろれつが回った口から、

女「…ありがとうございます!!

ありがとうございます!!

…。」

と仕切りに礼を重ねていた。

一太刀は、

一太刀「…つまらん。」

の一点張りで自分の母屋に、

ふんっと言って帰ってしまった。


そして、

翌日の夜。

…。

母家の引き戸を引き、

またいつもの様に放浪が始まるか、

と一太刀は嘆息し住み家を出ようとしたが、

ふとその時、

住み家の戸の脇に細長い一つの箱が、

立てかけられている事に気づいた。


一太刀「…なんだこれは?」


立てかけられている細長い箱の中身を、

ガサガサと開けると、

一枚の紙と、

一本の美しい日本刀が、

そこに佇んでいた。

一太刀は紙を読む。

???「刀の名は、

ーほろ酔いー。

娘が世話になった。

これは少しばかりの礼じゃ。

兵よ。

闘いを求めるならば戦場に出向け。

ここに兵はおらん。

その闘志、戦い切って見せよ!!

ー酒刀鍛冶職人 オロチー。」


一太刀は、

「ほろ酔い」のつかを思い切り握りしめ、

天に向かって叫び上げた。















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