⑦帰路

一太刀と小平は、

吸血鬼武者たちの手から逃れ、

浮き世城下町と海に分かれる分岐路まで、

ゆっくりと進んでいた。

小平「…ところで、狂人。

そなた名は何と申す。

私は小平、

鬼ふうじ小平だ。」

一太刀「オレは…、一太刀。

性は幼少の時に忘れた。

オレは昔から、

一太刀とばかり名乗ってきた。」

ふいに、

一太刀が、

小平の肩に回していた右腕をほどいた。

一太刀「ありがとう、小平。

もう、大丈夫だ…。

傷は癒えた。」

小平「!!?

な、何を言う!!

一太刀。

お主の背中は…。

んん??」

小平が一太刀の呆れた痩せ我慢に、

もの言いを連ねようとしたが、

よくよく一太刀の背中を見ると、

一太刀の言う通り、

背中の傷は全くなく、肌も普通だった。

ただ、一太刀の服だけは、

巨大な爪でやぶれたあとがあった。

小平「…貴様!!

芝居をしていたのか!?」

…。

一太刀「…違う。

それは違う。

オレは、満月の光で傷が癒えたのだ。

…。

吸血鬼は満月の晩、

月の光りで不死身の肉体と化す。」

小平「…。

はっ!?

馬鹿な!

ふざけるな!

全く、この数時間の間に、

お主たち兵は一体なん回、

私を驚かせるのだ!?」

一太刀「…まあ、そう取りみだすな。

小平。

…。

安心しろ、

オレたち吸血鬼にも弱点はある。

心臓を貫かれれば満月の夜だろうと、

人間と同じく死んでしまう。」

…。

小平「…。」

一太刀「…。

しかし、

奴ら、

親玉の名前をバック ディナーと、

言っていたな…。

もしかしたらオレを襲い、

オレを吸血した異国の兵の名前かもしれん。」

小平「…ん?

吸血?

異国の兵?

…。

どういう事だ?

お主は初めから吸血鬼ではないのか??」

一太刀「…。

そうか…。

そうだな…。

実は、

オレはつい最近まで…。」

…。

一太刀は、

最近、自分に起こった一連の出来事を、

小平に話した。

自分が本当は並の漁師であった事。

異国の兵が吸血鬼だった事。

自分は人を吸血をしなくても、

魚を食べて朝、寝れば生きていける事。

その他もろもろの事を、

小平に話した。

小平「…。

なるほど。

…。

その異国の吸血鬼。

最近の浮き世を騒がせている、

神隠しの元凶かも知れないな。

一太刀、

…。

お主も見たであろう。

あの戦場であった吸血鬼武者を。

その異国の兵が、

浮き世の侍、地方の兵達をさらい、

自分の食事けん手下にしている。

…。

そう考えるとこの事件、合点がいかないか?

そうだろう?」

一太刀「…。

そうかもしれんな。

小平よ…。」

小平「なんだ??

一太刀。」

一太刀「…そろそろ日が昇る。

オレはこの海辺の母家に帰って寝る。

…。

疲れた。」

小平「…おお、そうか!?

それは悪いことをした。

ゆっくり寝てくれ。

…。

…。

そうだ!

一太刀。

また明後日、夜にでもお主の母屋で話そう。

何だか、変に話しが面白くなってきた。

明後日の夜、私がお主の母屋を訪ねる。

よろしく頼んだ。」

一太刀「ふぁあ…。

分かった。

またな。」

小平「また会おう。」

一太刀と小平は、

水平線に朝日がさしかかる頃、

それぞれの家路に着いた。

お互い、

この一連の騒動に共通の理解者ができて、

内心、嬉しかった。

しかし、

浮き世の空は、

心なしか曇り空が見え始めて来たような、

そんな雰囲気だった。










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