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わたしが「文学を」理解できるかの確認のために
執筆した作品です
パブリックフリーではないのでルール違反かもしれません
ただ、そんな縛りにこだわりません
ある文芸誌に応募し、1次審査は通過しました
すると、書評をもらえる権利が発生するのです
目的はそれ。当然未来予想図です

では、本文を

とある村の村長選を手伝ったときの出来事

目次

出会い
関係の深まり
海辺での宣誓
役割分担
戦略策定
妨害
抑止力
あっけない幕

出会い

始まりがいつだったのかは忘れたが、きっかけは覚えている、はっきりと
それは出会い系アプリにはまっていた時。ある女性とアプリ上で知り合い
待ち合わせ場所へ。わかっていたのだけれど、冷やかしだということ位は。
夜中にバイクを走らせた。道中に具体的な場所を聞こうとするとはぐらかす。
そんなことはどうでも良かった、ただバイクを走らせる為の口実だ。
こんなことはいつものこと、どれぐらいの時間がたったのだろうか?
少し疲れてきていたこともありコンビニに寄り一服。すると灰皿が置いてあるベンチに
財布が落ちている、それも癖がある。
それを持って店内に入り店員に差し出すと横からしゃがれた声で
男「あ、それ俺のだよ、ありがとう」
私「そうでしたか、盗られなくてよかったですね」
男「お礼にコーヒー奢るよ」
私「じゃあ遠慮なく」
缶コーヒーを買い店外のベンチへ
男は何故こんな時間に(確か午前三時を回っていたはず)ツーリングか何か?と。
コーヒーとアメスピをのみながら暫くたわいもない話をしていると
(まあ出会い系の女に会いに行く口実でバイク走らせていたことはややこしいので省いたが)
「車の中に面白いものがあるから見てみないかい?」と
出会い系の女のことはどうでも良くなっていた(どうせいつものメルレ)
私は彼の白いハイトールのノッチバックへとお共にする
癖のある声の持ち主に似合ういかつい顔、短髪それに似合わない痩せた体、
年のころは五十代か?
まあ、最悪厄介ごとになったとしても何とかする自信があったし、
何より彼の人懐っこさ、そして経験則と好奇心がゴーサインを出す。
車のリアゲ―トを開けるとまず目にとまったのが白い物
それも二本、鹿の角だ。 手に取ってまじまじと見ていると
男「一本あげるよ」
私「えー、いいの?欲しい事は欲しい」
男「まだ色々見せたいものあるからさ」と嬉しそう。
彼はナチュラリストか、革製品やその原料、道具等をラゲッジルームに積んでいた。
手作りの財布やキーホルダー、指輪。
すると唐突に
「日の出を見に行こう!オレの車で、海まで近いんだ」
まあ、特にやることもないので彼のそれに乗り込んだ。
バイクはコンビニで留守番してもらうこととした。
車を走らせると程なく海岸線が見えてきた、
少し空が白んできている。道中で自己紹介。
男は「俺の名前は松山―――」少し年上のヒロミはそう名乗った。
ヒロミ達とのあまり長くないそして刺激的な戦いの芽差しだった。

関係の深まり

そしてヒロミと私はアカマツ海岸に着く、もう水平線の向こう側から太陽が顔を出しそうだというのに同じ位置関係に雲がかかっていた。
ヒロミ「雲が邪魔して日の出はみられないな」
私「大丈夫、日が出る瞬間だけ雲はどくよ」
ヒロミ「なんでさ?」
私「まあ見てみなって」
これといった根拠があったわけではないが、まあ見られたらいいんじゃね、という軽い気持ち。
数分後に雲は退き海のかなたから日が昇り始める。ヒロミはだいぶん驚いた顔になり、突然叫んだ
「これはなにかの啓示か?」
私は意味が良くわからなかったがつい悪ノリして
「ね、言ったでしょ、我々のことを歓迎しているんだ、太陽だってね」
ヒロミは私を車に連れて行き鹿の角を取りだすと写真を撮るよう命じた。
私は急いで砂浜へ引き返しそれらを砂に突き刺すと慎重に構図を探った
ヒロミは少しやきもきしていたが、押さえた写真を見せると満足そうに頷いた。
その数分後再び雲が太陽を覆った。
そしておもむろに角を抜くと私にじゃれついてきた。我々はしばし童心に帰りそれを刀に見立てチャンバラに興じる。
私が疲れてくるとヒロミは車に戻り後部座席からほうきと塵取りを取り出すと駐車場の掃除をはじめながら言った
「俺、ボランティアで清掃活動しているのだよ」
私はいたく感銘を受けそそくさとヒロミを手伝った。
一通り清掃が終わるとヒロミは言った
「腹減ったな、何か作るから家に行こうか」
三十分ほど車を走らせると池のある小奇麗な公園で車を止めると言った
「かみさんが出勤する時間だからチョットここで待っていて。カツサンド作ってくるから」
私「構わないよ、一応連絡先の交換しておこうか」
小一時間待ってヒロミは現れた、カツサンドとミネラルウォーターを持って。
二人で公園のベンチに座り朝食となり一口食べると私は少し驚いた。
「本当にヒロミさんが作ったの?相当うまいよ」
ヒロミは得意げに言った
「調理師免許持っているからな」
食し終わるとコンビニまで送ってもらう、もう九時過ぎだ、流石に疲れた。
ヒロミ「また一緒に掃除するか?朝飯も作ってやるよ」
私「いいけど二三日雨予報だから天気回復したら連絡するよ」
ヒロミと別れ家路につく、家に帰ると深く眠った、久しぶりに心地よかった。
数日後雨も上がったので早速連絡する。
そしてアカマツ海岸への行き来、三度目にあった時ヒロミが奥さんを紹介するという。
別にかまわなかったし何より興味深い。
ヒロミ「ただ、チョット気難しいところあるからあんまり喋んなよ」
私は一応わかったそぶりをしたが内心は違っていた。
彼らの家へ連れて行ってもらい奥さんとの初対面となる。
形式的な挨拶を済ませると、彼女が出勤するので駅まで送るとのいうことなので同乗させてもらう。彼女は言う
「家内のユカリです」
私も名乗り頃合いを見計らいヒロミのことを少しずつ褒め始める。ユカリさんの表情を盗み見ながら慎重に続けた。最初は大まじめに、段々と冗談を交えながらとにかく褒めた。
ユカリさんの表情がみるみる明るくなりそして笑い出した。運転席のヒロミはかなり驚いた様子だった。
駅に着きユカリさんはヒロミに一万円札を手渡し言った
「どこかで美味しい物でも食べてくれば」
ユカリさんはそういうと改札へと向かう、ほんの少しだけ左足を引きずりながら。
語学の教師を勤めていると後日知った。
車を出すとヒロミは本当に驚いていた、友人を連れてきてもこのような歓迎ムードだったことは皆無だと、まして、おこずかい付きとは、と。
私にはわかっていた、ヒロミは一般的には変わり者の部類に入る、そうすると友人も言わずもがなな訳で。後で聞いた話、ヒロミのことを褒める人間は初めてだったそうだ、ユカリさんはそう言っていた。

一般的にパートナーを褒められて悪い気分になる人間は少ない、たまに夫婦仲が悪いケースの場合や疑い深い人にこれを行うと失敗する場合がある。ユカリさんの表情を盗み見していたのはこれを確認していたのです、注意深く。
ヒロミは私を連れまわした。
隠れ家的レストランン、タイ焼きや、テイクアウト専門の焼きそば屋。どれも素晴らしかった、雰囲気、味どれをとっても文句はなかった。
そうして別れ際にアメスピを買ってくれてバイクのガソリンまで満タンに、致せりつくせりとは正にこの事。
そして私はヒロミを家に招くようになる。
三日と開けずお互いの家を行き来するようになった。アカマツ海岸での活動を終えた後には必ずよく話した。元々私たちはおしゃべりなのだ。
こんな遊びをしたこともあった。
駐車場で車の後ろに革細工やらガラクタを並べてわらしべ長者的な物々交換。
大した成果は最初から期待していない、ただの遊びだ。
その時アジア系外国人と交換したライターは今でも使っている。
砂浜でスマホから音楽を流して踊るなんてことも。
ヒロミは宇多田さんのTime will tellがお気に入りだった。
ユカリさんとも連絡先を交わした、他意はない(人様のものを盗るような悪趣味は私にはない)ユカリさんは私に相談があったようだ
「ヒロミには基礎疾患の持病があるのだが薬を服用してくれない」と
私は三人で会うときに薬を持ってきてもらいヒロミに飲ませた。
ユカリさんは驚いていたようだが私が簡単なコツを伝授するとその後はきちんと服用するようになったという。
私たち三人は急速に距離を縮めた、恐らく三週間もたっていなかったと思う。
昔からの知り合いだったかのように何でも話した。笑いあい、泣き、むろん喧嘩もした。
そしてある日ヒロミは言った。
「テツに手伝って欲しい事がある」と
アカマツ海岸の海に朝日が映った何ら変わらないいつもと同じ様な日に。

海辺での宣誓

いつも彼は唐突だ、話題が頻繁に変わることが多々ありそれには幾分慣れてきていた。
それにしても、
彼は言った
「選挙に出ようと思う、それを手伝って欲しい」
はあ、そうだったのか、時々思いつめた顔をしていたのはこういうことだったのだろうか?とにかく続きを聞こう、まあ市議会議員か何かになりたいというはなしでしょ?
「いや、テツ違うんだ、村長選さ」
それにしても突拍子もない事を考えたものだ。彼の経歴や思想なども聞いていたがとてもそんなものを目指すとは到底理解が出来るものではない。村に何か起きているのだろうか?
すると絞り出すように言った、例のしゃがれ声で。
「現職村長はオレの前でねこを殺した、そんな者が村長であるのはおかしいだろ」と
恐らくこのセンテンスを読んだ大多数の人はこう思うことだろう。
【やはり変人の与太話か、先が見えたな】
それはそうだ、こんな動機で選挙に打って出るのは正気の沙汰ではない。
同じ様に私もそう思ったのでしょうか? 答えは否だ。
どこかで聞いたことがある話だ、先ずはそう感じた。
正確に思い出すのは困難だったが妙にまとわりつく思考、そして思い出す。
あ、
【アヒルと鴨のコインロッカー】
それか?
この小説はザックリというと
ペット連続惨殺事件の犯人の一人が次々と刑を免れる、なぜなら権力者の息子だったから。それへの対抗策に出る若者たちの話―――そんな内容だ。
彼がその作品を読んだとは到底思えない、そういう趣味思考ではないはずだ、では一体何故?何か面白くなってきた。
私「わかった、引き受けてもいい。で、オレは何を担当するの?他の支援者は?」
話を聞くと支援者はユカリさんだけだと言う。何もかも私にやって欲しいと。
おいおい、笑えない冗談を言うではないか。本気で言っているのだろうけど余りにも無謀だ。
しかもただ働きだと言う。
「当選したあかつきにはテツには給与が払えるから」、給料って…
先のことは正直どうでもいい、負けたところで私に失うことはないのだし、第一経験値が大幅に上がる。思考は交錯するが当時の私はそう思った。
「やるからには勝つ、気に入らない策や姑息な手段を使うがいいか?」
意志の確認である、記念的な出馬なら付き合う気はない、
例え勝機が無いと分かっていても
彼「わかった、何でもする」
確認は済んだ、
目の前には海があり朝日が昇っている。
私は彼に誓ってもらうことにした、太陽と海の神に。
宣誓も済んだので先ずは現状の把握だ。選挙には金がかかる、それに日程、政策、人脈。
彼によれば金の問題はないはずだ、日程…公示まで三0日程度と。政策..これから考えると、人脈も心もとない。
困ったな、非常識にも程がある、選挙活動の経験がない私でも無茶苦茶な事くらいはわかる。何日も睡眠時間を削ることになるだろう、それでも間に合うのか?果たして戦う価値はあるのか?友人なら止めるよう説得すべきか?
私はずるい人間だ。私の金ではないのだし好奇心の方が罪悪感よりまさる。
戦う価値がないと分かった時点でやめればいいのだ。
私には立ち止まって考えるという思考はない。
とにかく急いで家に向かった、むろん彼も連れて行った。
ネットであたりをつけると幸いにも現職がそこそこ使える材料を置いていた!
今はそれを信じて現状把握を行うしかない、とにかく時間が惜しい。
調査と同時進行でヒロミの聞き取りを行う。
現状の問題点に対しての施策がない、地域性を生かした政策もなし、無駄な箱もの政策、親類業者との癒着、ねこ殺し(ってヒロミには悪いがこんなもので戦う気はない)付け入る隙はあるかもしれない、流石に勝利出来るとは思っていないが風穴を開けること位は出来るだろう
まだ霧がかかった状態ではあるが…とにかくマイルストーンを置いてみよう!
ヒロミしかできないことももっとあるはずだ。
そうして私たちの三十日あまりにわたる熱い戦いを行うのだと決定した。

役割

やることを決める前に行わなければならないことがある。
見えない物を見えるようにすること、先ずはここからだ。闇雲に進んでも駄目だ
暗闇では速く走ることが出来ない、誰もが陥りやすい罠。
やりたい事から先にやるというのも間違い。
食べ物で好きなものと嫌いなもののどちらを先に食べるのかとは違う。
やりたいことはそうでないものに比べて効率的に進む、質についても異なってくる。
私が行うことは明確なのでヒロミの現状の活動内容確認とポジショニングから始めるとするか。
私は音声通話で「ヒロミの一日のスケジュールと一週間のスケジュールを教えてくれ」
ヒロミのスケジュールはこうだった
一日
アカマツ海岸の清掃、公園の清掃、農家さんとの交流、コンビニ廻り、スケートボーダーと交流
では選挙に欠けている所を補完しよう。全てで満点に近いスコアをとる時間は無い
さあ、どうするか?
私の考えはこうだ。
得意分野を伸ばす。致命的な不得意分野の底上げ。ここから目標値を決める
得意分野を伸ばすのは楽しい為、ついつい入れ込んでしまうがある程度まで伸ばしたら
やめる事が大事である、後は不得意分野の…となるのだがヒロミをうまく導く必要がある。
私の理論を理解してもらう時間は無い。ならば操るしか無いのな。
ヒロミの話を聞いて使えそうなことが分かった。
① ボランティアでの清掃活動
② 子ども(中学生)のスケートボーダーとの交流
③ 知り合いの農家さんとの交流
④ コンビニ店員との交流(数店舗バシゴしているようだ)
これ位か…圧倒的偏り
基本はこれを続けてもらうとして③の深掘りと輪を広げてもらおう。これは優先度が高いのは明白である。
①②④については草の根活動は基本だな。
知名度も圧倒的に足りていないので何か必要だな、露出度を上げるには広告媒体を使うのが手っ取り早いのだが残念ながら資金が無い。
人手も圧倒的に不足している、すそ野から攻めるには時間がない、頂上(とまではいかないまでも)から落としていくにはコネが無いか…
策を使うか?風説流布とか豊川信用金庫事件などで使われている手法を使うしかないか、上手くはまって更に相手が消しにかかったところにカウンターを仕組む…運の要素が大きくて確実ではないがやむを得まい。
大体の役割分担は決まったので(といってもほとんど私か)ヒロミには一週間動いてもらおう、とにかく顔を大勢の人に見てもらうことが必要だ。勿論連絡は毎日とるとして圧倒的に情報が足りない。少なくとも散らばったパズルのピースを集めるのには分担作業が効率的だ。
私が二日貫徹するとしてどこまで進むか? 先ずはここまででひとまわししてみることとする
三日後
ヒロミの拾い集めてきたこと
農家はタニシ問題、後継者問題で困っている。子どもは遊ぶ場所が少なくて困っている。
私の頭の中の可視化
こどものなりたい職業
  スポーツ選手、スポーツ関連、医療従事
親世代の職業
  トップ三 「無職、専業主婦、学生」「製造業」「医療従事」
人口自体は増えている
母の年齢別の出生率(合計特殊出生率)
 「一五~一九歳」以外の各年代において、県の出生率より低い、
 特に「三十~三十四歳」における出生率が大きく下回っている。
これらを融合でき、、、
携帯が鳴った
気が付いたらヒロミとの約束の時間だった。
私が迎えに行くとすでに家の前で待っていた、幾分表情が硬い
ははーん、また唐突な話があるな、流石にわかってきた。
家にあげると話を促す、ヒロミは話をし始めた。
後に明暗を分ける策につながる細い糸の話だ。
もしのちに私が立ち止まって考察できる才覚があったらこの先に訪れる分岐点で違う道を選んだのかもしれない。しかし私には走りながら考える癖があるのだった。
しかしそれはまだ先の話である。
ヒロミの話はこうだ
この前、池のある公園でいつものように清掃活動をしていると二人の男が寄ってきた。
そして因縁をかけてきたのだという、一人は赤い開襟シャツを着ていたらしい。
赤シャツ「誰に断って勝手なことをしてるんだ」
ヒロミ「役場の管理組合(?)に許可は得ています」
赤シャツ「なら、お前は管理人なんだな」
ヒロミ「いいえ、ボランティアです」
赤シャツ「管理人じゃなければ勝手なことするな」と凄んでいったと
めちゃくちゃである
頭をこずかれたり、胸ぐらをつかまれたりした、酒臭かったと結局土下座までさせられた。
私「一一0番したの?ヒロミは悪いことしてないのだから謝る必要ないでしょ?」
ヒロミ「周りに誰もいないし相手は二人だったので怖かった」
ヒロミは暴力に屈してしまった。こうなると負けである
恐怖に支配されてしまう、これでは選挙戦に少なからず影響してしまう。
ヒロミには相手の素性を調べておくように命じて本題のすり合わせに移った。
また仕事が増えてしまったな、この時の私の気持ちはこの程度だった。
タニシ問題は以前どこかで聞いたことがあったので話しながらリサーチした。
現在A村民の対策は一般的に行われている農薬散布だそうだ。
これにはコストと手間がかかる。
実はタニシの性質を利用した安価で安全な方法があるらしい。
これをそのまま採用させるのは政治家の仕事ではないが、政治につなげる
方法がおぼろげながら思いついていた。
スケボー少年の話は刷り込み効果を使った策が思いつく。
ステッカーを作り彼らの道具に貼ってもらう、詳しくは説明しないが少しは使えそうだ。
他のも色々あったのだがこまごまとしていてとても短時間で効果を上げられそうな材料は見つからなかった、
二日後に立候補するにあたっての説明会が役場で行われるという。
そこまでには効率と優先度を考えた上で取捨選択を行う必要があるな。
まだまだ眠れない日が続きそうだ。

アメスピにライターで火をつけ考えていたのは
アカマツ海岸で見た朝日だ、あの雲間から覗いた朝日。ヒロミが帰った後仮眠をとる。
選挙公示まであと二七日

戦略策定

現在の村の課題を整理しよう
人工減少、少子化問題
農業の後継者、タニシ問題
産業分布に対する地域性
まだ大項目のままの課題もあれば細分化できているものもある。
全てを細分化する必要はない、戦える項目に絞った政策と致命的な失策が無ければいいのだ。得意分野で大勝し不得意分野では守りに徹する。戦略論については歴史書に譲るとして。守りに徹した時に大敗するのは難しいものだからだ。
それにしても現状では致命的な不得意分野が多すぎる。
その中でも人手不足は本当に深刻だ、ヒロミとユカリさん、そして私の三人では話にならない。先ずは一人でもいいリクルートしなけでばなるまい。
そのことをヒロミに話すと心当たりがあるらしい、どうやらコンビニの青年が関心あるらしいのだ。ここはヒロミに任せよう、もし青年に人脈があれば指数関数的に支援者が増えることはない事ではない。私は政策と戦略と策略にしばらく専念したいところだ。
しかし役場での説明会を聞いてきたヒロミはいい話と悪い話を持ってきた、ヒロミにしてみれば悪い話が二つと思っただろうが。
悪い話からにしよう、一週間後に必要書類(こちらは大した問題じゃない)と選挙ポスターとチラシの原案を用意する必要があると。ポスター最大三種類作成可能でチラシは二種類可能だとヒロミ。リソースが無いから一種類ずつにする?そんなことをするくらいならここで幕引きだ。相手は現職、リソース不足を悟られたらそれで終わりだ。
こちらは奇襲戦がメインの戦法だ、戦法がばれて数の利で攻められればひとたまりもない、供託金を失うだけだ。
では誰が作るかって?私ですよわたし。まだあきらめるには早い、少なくとも相手に鳥肌位立てさせてやらねば。
もう一つの話、これが上手く利用できればひょっとしたらひょっとするかも、
正攻法ではないが万が一こちらに【勝利】などということがおきるとすれば,,,そんな話だ。
話を戻して、資金不足は如何ともしがたいので策略を練るしかあるまい。
人脈だけれどもヒロミには村議会に知り合いがいるらしいのだ、アポイントを取らせることとした、こちらもヒロミに任せよう。
張りぼてだけれど致命的な不得意分野は消せそうである。相手には張りぼてだとは気が付かれまい。何といっても今現在三人でまわしているのだから、ばれようがない。
次は政策を立案せねばなるまい。ないものづくしの候補者に魅力的な政策無くして有権者の気持ちをつかむことなど不可能である、であるからしてポスターとチラシの原案作くりでクリティカルなのは直接的にそれを考える時間が足りないのではない、政策や理念を考える時間が必要なのだ。私の頭の中でワードが渦巻いている状態だった。
無いのではない、散らばったピースが全部そろっているか悠長に数えている場合ではないのか?ではつかんだものから嵌めていくか。
タニシ問題
タニシには柔らかい新芽を好むことと比較的浅い所を好むこと。この二つを利用した駆除方法があるのだ。詳しくは調べてもらえれば分かると思う。これを政策に結び付けるのだ。
教育問題
これは間接的に人口減少問題に訴求できる政策だ。
人口の流出を食い止める案、子どもが社会人になる時に就職先を求めて村を去ってしまうことは三話で、子どもの夢と親世代の職業に大きな乖離があることからヒントを得た。
更には広大な自然があふれた村の産業が一次産業より二次産業が圧倒している、ここに訴求出来ないかと考えた。これらの融合が教育問題への政策である。
具体的には【スペシャリストの育成】である。
例えばスポーツ選手、文学少女、農業博士などを村から生まれさせる。
その道の一流どころを講師に招くことが出来れば不可能ではない、これは私のオリジナルではない。成功例を真似しているだけだ。それには大幅な予算の付け替えが必要だ。
大箱を作る、土木建設業ヘの予算傾倒から切り崩すしかない、既得権益との対立が大きいがやむを得まい、ここはどちらが正しいのか真っ向勝負できると読んでいる。
もう一つの問題
これは策略的な政策でいい、前の二つが理論的なことや本能的なことに訴えているのだからバランスをとって感情に訴えるべきだ。例えば主要施設のバリアフリー化だ。
覚えているだろうか?ユカリさんと初めてあった時、左足を少し引きずっていたことを。夫妻愛から出た政策とするのだ。
汚いやり方と嫌悪感を覚える方もいるかもしれない、しかしながら私が考える策とはこういうものである。手品のネタバラシといってもいい。
これまで私は一銭も貰っていない、元々勝てると思っていなかったのだから将来的にもそれを考えたこともないのである。
三つの大きな柱が出来れば後は何とかなるだろう、三という数字にこだわっていた。わかる人にはわかるでしょう?三という数字の魔力を、知識を総動員するしか、圧倒的な量の金という武器に対抗できるのはこれしかないと思っていた。
政策は何とかかんとか目鼻立ちが付いたと思う。ポスターやチラシは政策に合わせたターゲット層に訴求出来ればいいだけだ、時間をかけ体裁のいい物を作ればいいのでは断じてない。
一週間後
ポスターとチラシの原案が出来た。ここには偽の政策が書かれている。更におよそ選挙ポスターとは思えないであろう出来とした。印刷が間に合うギリギリで(日程は押さえている)差し替えるのだ。ポスターを六案、チラシを四案作った。本来は三案の二案でいいはずだったのを覚えているだろうか?選挙管理委員会など信用できない。彼らに手の内を見せれば現職に筒抜けだろう。既得権益との対立する案もあるのだから余計な時間を与えるのを嫌うのは至極当然である。弱者が勝つには後出しじゃんけんもまた定説である。並行して進めていたスケボー少年向けのステッカーを作り、まんまと彼らの道具に張り付けさせることに成功していた。
戦略は描けた、後はもう少し策略が欲しい。ここでヒロミが説明会であったもう一つの話をすることとなる。後に私が予想しなかった道だったとはこの時はまだ気がついていなかった。
私は全力で走っていたのだった、気が付けば自己新記録を出すほどの速度で、それは自分の意志とは関係が無いが如く、そうして走りながら考えるのが私だ。
選挙公示まであと一六日

妨害

この章の本題に入る前にコンビニの青年と村議会議員との話を少し
青年とはアカマツ海岸でヒロミに紹介してもらった、かなり興味があったようで
友人知人に声だけかけておくようにお願いした。村議会議員には政党に属す得失やチラシの作り方などのアドバイスをいただいていた。

さて、説明会のもう一つの話だ
村役場で意外な人物に遭遇したという、赤シャツの男だ。奴は現職村長の部下だったという
ヒロミは当然委縮したそうだ、恐怖に支配されてしまったのでそれは当然である。
赤シャツはヒロミの自宅からそう遠くないところに住んでいたことを突き止めていた。
一階が喫茶店か何かで(営業はしていない様子)二階が住まいだとヒロミが言っていた。
説明会での赤シャツは好戦的態度だったという、選挙管理委員会のものがいたので当然で難癖をつけるまではしなかったそうだが。
どうやら赤シャツはヒロミが村長選に出馬の意向があることに対して何らかの指示を現職からされていたようである(ヒロミのことだから出馬の意向やらねこ殺しことなどを吹聴していたのだろう)それで池での清掃時に難癖をつけたということのようだ。
何と稚拙な脅しだろうか。しかしヒロミは怖がっているのだから効果はあったわけだ。
ここで私にある策略が思いついた、と言っても大した話では無い---はずだった。
脅しを逆手にとって(今後も続くであろう脅しに)カウンターを仕掛けるだけだ。
具体的には録音、録画の準備だけしておいてそういう場面になったら記録する、それを
公表する(新聞社、雑誌等の媒体で)とか有権者の前で晒すとかよくある話。
まあ相手も警戒してあからさまなことはやらないだろうけれども、と思っていた。
一応ヒロミにいつでも記録できる準備は命じておいた。
すると相手はおろかな行動をとってきた。
数日後ヒロミは赤シャツにゴミステーションで遭遇したという。赤シャツが段ボールを持ってそこに捨てようとしたところに車で通りかかったという。ここがらがヒロミの謎行動だが車を止め奴に挨拶したのだそうだ。そこで口論になったと。
車から降りて奴に近づくと奴は片手に三徳包丁を持っていたという(段ボールを切るために使うつもりだったようだ)で、口論ですよ、好戦的な奴がです。当然振り回しますわな包丁を、威嚇で。この話を聞いたとき私には勝利の二文字が浮かびました。
私、
「録画した?」、
ヒロミ、
「いや、写真だけ」、
写真を見ると確かに包丁を持っている、しかしこれでは状況証拠にしかならない。
一応断っておくが、ヒロミはただ単純に挨拶をしただけ、私は挑発するように命じたこともなかったし万が一何かあったらユカリさんに申し訳ない。我々はそこまで悪ではないです。
包丁を振り回して脅したことは事実なので私たちは所轄の警察に行くこととした、被害届を出すためだ。事実に少々のスパイスは振りかけた。
所轄にでは被害届を受理してくれた、三時間位かかったかな?事情聴取に。そこに私は同席していた。
これって犯罪ですよね?警察は捜査の義務が生じたわけですよね!
この後の警察の動き明らかにおかしい。
翌日、携帯が鳴る、時刻は午後六時を回っていたと思う
ヒロミからだ、
「赤シャツが自宅に来てこう言った」、
奴は車に乗っていたそうだ、
赤シャツが、
「おまえの家を見つけたからな、家族もいるんだな」、
数分後帰っていったそうだ、
私、
「一一0番したか?所轄に言われたよな」、
ヒロミ、
「したよ、後で自宅に来てくれるって」、
最初、制服警官一人来てそのあとに刑事が来たそうだ。都合三人
当然警察は動くと思うでしょ?普通そう思うでしょ?
一時間半後ヒロミから電話があり話を聞くと…、
捜査はしない、自宅の警備もしないと。アドバイスだけして帰ったという。防犯カメラつけろと。
おかしいでしょ。私は憤慨した。そして手持ちのもので防犯に使えそうなものを集めてヒロミ宅に向かってバイクを走らせた。
到着は午後十時を回っていたと思う
話を聞いて(ユカリさんは凄く怯えていた)一通りの防犯対策を済ませるとヒロミに言った、
「バットか何か武器になりそうな物無いか?」、
ヒロミ、
「木刀ならあるけど何に使うの?」、
私、
「自分の身は自分で守るんだよ、現職の所に案内しろ!」、
現職宅到着午後十一時時過ぎ
先ずはスマホで録音を始めた。
ヒロミには私の後ろに隠れるように言って、手出し無用、口も私の指示がある時だけするよう念押しした。
ゆっくりと正面玄関からアプローチする、立派な家だ。
大勢の人が集まっていないか?待ち伏せなどの気配はないか?慎重にゆっくりと行動する。相手は包丁を振り回すようなヤバイ奴がいると想定しておく、甘い判断をすると本当に暴力沙汰となりかねない、あくまでも抗議に来ただけだ。
大丈夫そうだ。呼び鈴を鳴らす、もう一度。
玄関の明かりがともる。この時木刀は地面に置いている、右足の甲に。
若いの男が戸を開けた、怪訝そうな顔をして用件を聞いてきた。
事情を話し主人(現職)を出すように要求した。
家中の明かりがともった。少なくとも住人全てが起きたようだ。
私はここで一つ見落としていたことがあった
折衝相手に全神経を向けていたためヒロミが冷静さを欠いていたことに気がついていなかった。ヒロミは恐怖に支配されていたのであった。

抑止力

皆さんは平和的交渉ごとに武器が必要だと思いますか?
喧嘩をしたことのないかたや、いじめにあったことのない人にはもしかしたらしみじみとこないかもしれません。では日本には何故防衛のための武器や自衛隊が存在するのでしょうか?中立国といわれているスイスにも何故?それは対等に話し合いをするための必要悪なのだと思います。非暴力主義を貫くには凡人に出来ることではないと思っています。

次に奥から出てきたのは女だった、年のころは七十に届くくらいだろうか?
どうやら現職に出てくるつもりはないようだ、仕方ないので少し刺激を与えることとした。
先ずは小さい声でぶつぶつと呟く、注意を引いたところで怒鳴り散らした。
最初はびっくりしたような顔をしていたが直ぐにポーカーフェイスへと戻った。
しょうがない、
おもむろに右足の甲に置いていた道具を右手につかむ、女は一歩下がる。
まだ気丈にふるまっていたが時間の問題であろう。まだ現職は隠れている。
当然聞こえているはずだし、在宅しているのは女が口を滑らしていたので知っていた。
らちが明かないので道具で地面をたたく【コンコンコン】、
女は現職を呼ぶから待ってくれと言った、奥に引っ込む。
五分くらいたっても動きが無かったので大声で呼びつけた、女の返事があった。
女の手には負えなくなったようだが現職は出てこない、最初に対応した若い男もだ。
何とも情けない。少し助け舟を出すこととした。
私、
「警察に電話したらどうだ?」、
私の目的はあくまでも赤シャツ(その他も含めて)がヒロミたち夫婦を脅すことをやめてもらうことだ。木刀はあくまでも抑止力である。
ここでヒロミが興奮していることに初めて気が付いた、それでも声を発することは許さなかったし一歩下がって控えさせていた。警察に連行されるとしてもそれは私でなければならない。ヒロミには村長になってもらわねばならぬ。この折衝ごとの最中にそう決めたのだ。
女の影に隠れた金の亡者(親類企業である土建屋と癒着して金をため込んだのだろう)子どもたちに夢を与えず村から去らせているねこ殺し。いつの間におかしな正義感が芽生えていた。『ヒロミ達にあてられたかな?』
女は二十分後、こちらに戻ってきて警察を呼んだと言った。それにしても長い時間だ、道具を持った男を待たせる警察も悠長なことで。
玄関先で待つのも迷惑なので家の前の道路で待つと伝えその場を立った、道具を車のラゲッジルームにしまうと(もう用は無いので物騒なものは仕舞う)少し興奮したヒロミと話をした。あくまでも抗議に来たこと、脅しをやめてもらう事が目的で喧嘩をしに来たのではない事。ヒロミは何もしていないし声も発していない事、逃げ隠れしていない事、飲酒もクスリ(処方薬含めて)を接種していない事。これ以外のことは喋らないように命じた。あくまでも私の独断でやったことにする必要があったからだ。
二十分位たっただろうかパトカーが一台停まり三人の制服警官が降りてきた。最初警官は私たちが通報された当人だとはわからない様子だった、我々はとても冷静だったし(少なくともそう見えたはず)手ぶらで静かに佇んでいたからだろう。
警官
「通報したのはあなた方でしょうか?」、
腰低く聞いてくる(それはそうだ被害者だと思っているのだから)
私、
「いや、違いますよ、この家の家人ではないでしょうか?」、指をさして言った。
警官、
「では、あなた方は何をしているのですか?」、
私、
「通報された当人なのでおまわりさんを待っていたんですよ」、
警官三人は怪訝そうな顔おしていた。二人の警官が私たちを見張り、一人が現職宅へたずねて行った。そして身分やヒロミと私の関係などを聞いた、とても穏やかに。
暫くするとパトカーが一台、また一台と増えてゆき、そこには私服の警官も混ざっていた、
『刑事だな』、私はすぐに察したが知らんふりしていた。都合一0人はいたはずだ。
それにしても、ヒロミ宅には三人、現職宅には一0人余りと差をつけたものだ。
後から来た刑事と警官は何やら話をしていて尋問はすぐに始まらなかった、既に日付は変わっていた。やがてヒロミと私は引き離させて各々尋問された。
要点をいくつか
木刀を持っての訪問の訳――抑止力
深夜に訪問の訳――夕方からの経緯を説明
ヒロミとの関係をしつこく---友人夫婦の為に骨を折ったと
警官同士で一時間超えの協議の結果、私を家まで並走させ、家で一筆書かせた
ヒロミも同じ処分だと思っていた、その時は。
事前に相談を二回していたためこれで済んだのだろう、ここまでは大体予定どおりと言ったところだろう。
これで選挙は勝ったと思った、首謀者の私が無罪放免ということは現職側の赤シャツに処分がわたるであろう、傷害未遂は無理でも脅迫罪となることだろう。
あとは淡々と進めればいい。

あっけない幕

久しぶりにアカマツ海岸を訪れたくなった。まだ日中は残暑が厳しいそんな九月。
朝方まだ涼しいのでその時間帯にバイクを走らせた、途中でコンビニに寄りカツサンドと
ミネラルウォーターを買う。
ユカリさんは優しい人だった、ヒロミも。一方の私は果たしてどうだったのだろうか?

私が家で待機しているとユカリさん連絡が入った、とても心配そうな声で、
「ヒロミが返ってこないのだけれどどこに行ったのか知らない?」、

「朝の四時ごろ警察が家まで送っていったのだと思っていた、まだついていないの?」、
私は電話を切るとヒロミに連絡を試みるも不通だった、しばらくしてユカリさんから
テキストメッセージで、
「警察にいるみたいです、これから行ってきます」、

『…』、
直ぐにバイクを走らせ所轄に向かった、到着後対応した刑事いわく、
「保護している、身内じゃないので面会は出来ない」、
保護は通常泥酔したりしていてこのまま一人で帰せないときに行う行為だ。
幾分興奮していたヒロミは警官に余計なことをしゃべったのだろう。
刑事の態度が明らかに今までと異なった、しばらく押し問答していると私の周りには警官でいっぱいで、言葉こそ発しないものの険しい顔でにらんでいた。
刑事、
「とにかくここで待たれても困る、敷地内から出て行ってくれ」、
取り付くしまもない、仕方ないので近くのファミリーレストランの駐車場で待つこととした(まだ、営業前だったため)三十分位たっただろうか警官が近寄ってきて言った、
「不審者がうろうろしていると通報があった、服装の特徴が似ている」、と、
そんなはずはない、明らかに嫌がらせだ。警官も強制的に立ち去れせることもできない為しばらくして戻った、しかし大人しくしている私ではない、警官が去ってから県警に電話をかけた。
事情を説明した。所轄にプレッシャーをかけるのが目的だ。県警で電話口の方はとても親身に、親切に対応してくれた、様子は聞けるけど具体的に何かをするということは出来ないと言っていたが十分である。それから一時間位たっただろうか、再び警官が近づいてきてヒロにはユカリさんと一緒に帰ったと言った。嘘ではないようだ、裏門から帰ったのだろうか?、程なくユカリさんからテキストメッセージが届き、一睡もしていないし疲れたので詳しい話は明日にしたいと送ってきた。もっともな話であり私も家に帰り休むこととした。
翌日の夕方だったと思う、ユカリさんからテキストメッセージが入った、
「もう疲れきってしまった、選挙のことは忘れて下さい」、
誤算だった。ここで私は二つのものを失っていた。
一つは言うまでもなく選挙戦である、ヒロミたちはこの戦いを降りたのである。
余りにも急速に接近した仲だったためなのか、抜け落ちているところがあったのだろう。
とにかく私たちの選挙戦は公示を前に終えた。
二つ目、こちらの方が実は痛手であった、それ以来ヒロミとユカリさんとの連絡が取れなくなってしまったからだ。友人二人を失ったのだ。

アカマツ海岸に着くとちょうど日の出の時間だった。
駐車場にバイクを止めるとゴミひとつ落ちていない、あの頃と同じだった。
違う所が二つだけあった、今日は曇天で朝日が見られなかったこと、そして
癖のある声の持ち主の姿もそこにはなかった。
アメスピを半分吸ったところでバイクのエンジンをかけ次の目的地へ向かうこととした。
行先は走りながら考えよう、それが私なのだから。

おわり

↓書評です


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