ネットショッピング

私がインターネットで
最初に購入したものは車だった。




当時乗っていた車の調子が悪くなり
車屋さんに修理を依頼したところ
いろいろガタもきているし
修理よりも買い替えを勧められ
私は急ぎで車を探すことになった。


しかし
いくつか車のディーラーに出向いたものの
現行の型はどれも好みではなく
魅力的な車を見つけられず焦っていた。






大半の人がそうだと思うが、
なにか欲しいものがある時
人はそこにアンテナを張るようになる。


車が欲しい私は
今まで気にも留めていなかった対向車を
自然と目で追うようになっていて

すれ違う車を見ては
自分の乗っている姿を思い浮かべて
なんか違う気がすると思い直し
却下してを
繰り返していた。

高い買い物は人を慎重にさせるらしい。






しかしある日、道ですれ違った車で
とても気になる車を見かける。


それは車種としてはよく見かけるような車だが
おそらく旧型のモデルで、
なによりその珍しいカラーに惹かれ

こんな色あったんだ
この色なら乗ってもいいかな

とようやく思えた車だった。




インターネットで検索を試みたが
車種名はわかるものの
具体的な年式やカラー名は
わかっていないので
すれ違った車と同じものを
見つけるのには少し苦戦した。


調べていくうちに
どうやら特別仕様車であることがわかり
その特別使用車の年式で調べていくと
おそらくこれであろうという車に行き着いた。


特別仕様車だけあって
よく見かける車種にも関わらず
中古車市場に出回っている台数自体
かなり少なく
インターネット上でも数件しかヒットしない。


難航を極めそうだ。



近隣の中古車店に電話で問い合わせたが
もちろん在庫はなく

そうなるとネットに頼るしかないとなるのだが、
数件しかヒットしなかった車の取り扱い店は
どこも我が家からは新幹線で行かなけらばならない程、遠いところばかりだった。





ただ、ここまで検索した段階で
私のはその車にかなり惹かれてしまっていた。

なんならもう、この段階で
その車以外の選択肢が
私にはなかった。


手に入れるため動かなくては。




とりあえず予算にあった価格の
比較的状態のいい
走行距離の少ない車を扱っている
関東の中古車屋さんに
問い合わせの電話をかけてみる。


電話に出た方は
とても親切だったので

私は急ぎで車が必要であること
実物を見てから購入を検討したいこと
そちらの店舗が自宅からはかなり遠いこと
そして、仕事の都合で
なかなかそちらまで見に行く時間が
設けれそうにないことを伝えた。




そちらに出向けるまで
少しの間取りおいていただけないかと
電話で相談したが、
本当に少しならいいが
1週間以上は難しいとの返事が返ってきた。


担当の方がおっしゃるには
(本当かどうかはわからないが)
すでに気に入って購入を検討されている他のお客様がおられる。
また、状態もいいので
店頭に置いている間にまた別のお客様が気に入って購入を希望されたら、こちらとしても早く売りたいので売ってしまうかもしれない。
なのでそんなに長い期間は待てない。

とのことだった。



正論だ。
私が営業でもそう答えると思う。


確かにその車は走行距離も少なく
状態もいいわりに
値段もそこまで高くなかったので
店側としても私に固執しなくても
売れるだろうという判断だったのだろう。


なんというか
例えるなら

野球少年が春に
ほとんど話したことない他のクラスの
そこそこかわいい彼氏募集中の女の子に
夏の大会が終わったら付き合って欲しいと告白した感じに似ている。


その子からしたら
今は彼氏もいないし待っててもいいけど
夏の大会が終わるまでの間に
もし、他のイケメンから告白されたら
あなたのこともよく知らないし
そっちと付き合いたいよってこと。


女の子がよっぽどブスで
彼氏ができる見込みがほぼゼロの場合
もしくは
彼女もあなたが好きな場合ならば話は別だが

正直よく知らないのに
他のチャンスを無下にはしたくない。

そうゆう事だろう。









私が迷っていると、その店員さんは
「見に来ていただくのが難しいようであれば
ご不明な点は何でも
私に問い合わせしてくれればいいです。

必要なら写真を撮ってお送りしますし
自分が見たままの状態をお伝えします。

私が○○様の
目となり耳となります。」

と完璧な営業文句を述べてきた。





そしてその言葉通り
私が電話で内装のこの部分が見たいとか
ボディにあるらしい細かい傷について
もっと詳しく見たいと連絡すると
その日中にメールで細かい写真を何枚も
送ってきてくれた。




もちろんその担当さんとは
一度もお会いしていないが
なんだかとてもいい人のように思えてきて

迷った末に、私は家族の反対を押し切って
一度も見たことのない中古車を
100万円以上出してネットで購入した。


それは私の初めての
インターネットショッピングである。







お金を振り込んでからはもう
後戻りはできないと開き直って
手続きに必要な書類などを送り
担当の方と細かいやり取りを少しして
あとは只々納車を待った。








迎えた納車当日
この日の事は今も鮮明に覚えている。

その日は、当時お付き合いしていた人と
ドライブデートをした。

私は当時の愛車をかなり気に入っていたのだが
新しい車が納品されると同時に
その車とはお別れの予定だったので
彼氏に最後のドライブをしようと提案し
デートを楽しんた。



本当は納車に立ち会うため、
早く切り上げて
帰宅しなければならなかったのだが
車との最後の記念撮影に夢中になっていたら
約束の時間ギリギリになってしまい
慌てて自宅へ向かっていた。





もうすぐ家だという所で
私が購入した車と
同じ車種の車を乗せたトラックを見かけた。



あれ。

もしかして。







まさかと思ったが
そのトラックは私とほぼ同時に
私の家の前で止まった。


それは私の新しい車のようだった。







やってしまったと思った。


トラックに積まれていた車は
私が道ですれ違って
欲しいと思って必死に探した車とは
異なる色をしていたのだ。



納車時の説明については
正直あまり覚えていない。

きっとかなり動揺していたんだと思う。





担当の人が悪いわけではない。
あの人は本当に丁寧に対応してくれた。


多分どこかで私が勝手に勘違いをした。

すれ違った車を
色が似ているからきっとこれだ。
この年式のこのカラーに違いないと
思い込んでいたものが
その時点で
もうすでに違っていたんだと思う。


実物を見て買わないと
こういうことになるのかと
思い知った瞬間だった。


ただ、納車された車の状態は本当によくて
数年前に発売された中古車とは思えないほど
傷もほとんどなく綺麗で
そこは幸いだった。





車を購入するには
いろいろな手続きを踏んでいるので

思っていた色と違ったので
やっぱり返品しますとは当然いかず
私の車はそいつになった。




実物を見ずに物を買うことの
難しさを思い知り、
ネットで物を買うのはやはり危険だと
再認識した私は、
これをきっかけに当面
インターネットショッピングから遠ざかるようになる。









インターネットショッピング

初戦は私の負け。










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