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法廷傍聴控え 警察官トカレフ所持事件2

 ところで、山田の供述によると、山田がトカレフなどを所持していることは、何人かの署員はしっていた。この裁判で、証人として出廷した青梅署員も、山田から見せられたと証言した。

 トカレフを見せられたとき、「このようなものを持っていたら、まずいですよ」と話したのだが、「大丈夫」と山田は答えたという。改造拳銃を見せられたときも、「処分したほうがいい」とアドバイスしたそうだ。
 その後、彼は上司に、山田の拳銃の話をしたが、上司は、「まさか警察官が本物を持っていないだろう」という感じだった。
 このような証言を聞くと、署内では、公然の秘密だったとも思える。山田に対して、どんな対応をとったのだろう。

 ──トカレフの件で、上司から注意を受けたことはありますか。
「まったくありません」
 ──署長、副署長からはどうですか。
「まったく、ありません」
 ──改造拳銃についてはどうですか。
「ありません」

 見て見ぬふりをしていたのだろうか。

 ──この件で、上司が懲戒免職などの処分を受けたことはありませんか。
「いっさいわかりません」

 新聞報道によれば、山田が東京地検に送検された3月5日、「監督が不十分だった」として、当時の青梅署長が警視総監訓戒、青梅署関係者ら5人が刑事部長訓戒の処分を受けた。
 さて、山田は、これらの隠匿していた拳銃類を、最終的にどう処理しようと思ったのだろう。

 ──暴力団に売って、利益を得るということは。
「まったく考えていません」
 ──ガンマニアに売ることは。
「ありません」
 ──あなたはガンマニアですか。
「いいえ、違います」

 事件そのものについての質問のポイントは、おおよそ以上のようであり、続いて、情状事項などに質問は移った。

 ──これまで、どういう気持ちで、警察の仕事をやってきましたか。
「呼び出しがあれば、いつでも応じ、被害者の立場に立ってやってきました」
 ──誇りをもってやってきたのですか。
「はい」
 ──腰痛があるそうですが。
「青梅署管内では、自殺者が多く、橋、山でハイカーの滑落事故もあります。現場に道路から歩いていかなければならないときは、かついだりして運びます。そのためです」
 ──多いときには、月に何体ぐらいですか。
「7体です」

 腰痛治療のため、医者にかかっていた。
 ──拘置所の中で十分な治療を受けていますか。
「いいえ」
 ──弁護人から上申書を書きましたが、その時点ではどうですか。
「コルセットは許可になりました」

 薬のほうは、それまで飲んでいたものとは違うので、あまり効かないそうだ。
 懲戒免職処分についても聞く。

 ──不服だと、取消の申立をしましたか。
「はい」
 ──その理由は何ですか。
「仕事で拳銃を持っていました。人に危害を加えたことはありません。自分の気持ちがしっくりしないので、やりました」

 この点は、「一生懸命仕事をしてきて、なんで、こんなことになるのかなと、不満というか残念」と妻も、懲戒免職処分については納得いかないと証言した。

 ──今の気持ちは。
「法の執行者の警察官であったにもかかわらず、軽率に法をおかし、社会の信頼にこたえず、警察の信用を失墜しました。大変申しわけありません。深く反省しています」
 ──最後にいいたいことは。
「二度とない人生です。地元に役立つボランティア活動をして、悔いのない人生をおくりたいと思います」
 ──今後、まじめにやっていくと誓えますか。
「はい」

 次は、検察官が意気込んで質問する。

 ──トカレフの件ですが、あなたのやったことは、最初から違法です。それを承知でやったのですか。
「はい」
 ──なぜ、拳銃を受け取った時点で、相沢を逮捕しなかったのですか。
「命が半年か1年ということで、私も病院にお見舞いに行きました。獄死させるわけにいかないと思いました」

 自首減免も考えたが、該当しないとなり、相沢が死んだら被疑者不詳で正式に押収することにした。

 ──改造拳銃は教材とするということでしたが、実際に教材にしましたか。
「後輩にみせ、教材にしました」
 ──そういうことは、認められていることですか。
「認められません」

 教材にする手続は、公安委員会の許可が必要である。

 ──なぜ、手続をしなかったのですか、立川署長はしっていましたか。 [しりません」
 ──上司に相談してしかるべきじゃないですか。そんな、あなたに教育する資格があるんですか。
「ありません」
 ──持っているところを見せたかっただけじゃありませんか。
「違います」
 ──改造拳銃は、三鷹署の担当者からもらったというが、間違いないですか。
「間違いありません」
 ──その担当者の状態はしっていますか。
「聞きました」
 ──どういうふうに。
「脳軟化症と、取り調べで聞きました」
 ──実弾3発ですが、退職する上司から処分をまかされたというが、事実ですか。
「はい。間違いありません」
 ──結局、こういう違法行為をしましたが、警察官としての感覚が麻痺していたと思いませんか。
「いいえ」

 懲戒免職処分についても質した。
 ──なぜ不服申立をしたのですか。
「自分の気持ちがしっくりしないからです」
 ──どうした点ですか。
「短期間で処分されたからです」

 自分の弁解の機会がなかったこともあった。
 ──処分事由に該当するのではないですか。
「……」
 ──銃の所持等は非常に重い刑罰です。不当と思っているのですか。
「……」
 ──あなたは、ほんとうは拳銃などをどう処理すべきだったのですか。
「改造拳銃は壊さなきゃなりません」
 ──トカレフは。
「相沢が提出した段階で逮捕です」
 ──相沢はいない。拳銃だけ残ったときは、どうするのですか。
「相沢のものかどうか確認された段階で、手配します。ただ、完全に首がつかないものは、首なし拳銃とします」

 首とは被疑者のことらしい。被疑者不詳で、拳銃だけ押収した場合、その拳銃を首なし拳銃という。

 ──拳銃の処理は本来どうすべきですか。
「署の責任者の決裁をへて、署の会計の金庫に保管しなければなりません」
 ──まじめに働いている警察官の立場を考えたことはありますか。
「あります」
 ──警察官に対する都民の信頼がなくなったら、どうなりますか。相沢から拳銃を預かる。それが発覚したとき、どういう影響が出ますか。
「その前に処置しようと思いました」
 ──もし、発覚したら、警察の信頼が地に落ちるではないですか。
「考えました」
 ──でも、やってしまったということですか。
「はい」

 山田は力なく答えた。3人の裁判官も、それぞれ質問する。裁判長は、こんなことも聞いた。

 ──拳銃や薬物などは、常識的に考えても、保管方法は厳重にすべきだと思います。自宅においている段階で、だれかが持っていっちゃうこともあり得ます。泥棒が入ってくるなど、どこでだれが使うかわからない。

 とんでもない事態になることも考えられます。自分以外の手に渡ることを予想しなかったのですか。
「いいえ、しました。自分のところに持ってきて、ここならわからないだろうと思いました」

 7月30日の第3回公判で、検察官は、「警察官としての自覚と規範意識が欠如し、拳銃所持を誇示するためのもの。容赦のない厳粛な態度が警察への信頼回復のためには必要だ。猛省を促す」などとして、懲役5年を求刑した。

 一方、弁護人は、「仕事熱心がこうじた事件であり、すでに5カ月間も自由を奪われ、懲戒処分も受けている。ぜひとも、社会の中で更生を」と、執行猶予つきの判決を求めた。

 山田は、「私は法の執行者の職にありながら、適法な手続をとらず、本件の犯行をおかしました。警察の信頼を傷つけました。個々の警官にも信用失墜という多大な損害を与えたことを、深く深く反省しています。家族に対しても……どうもすみませんでした」と、最後に述べた。

 約2カ月後の9月22日、裁判長が判決を読み上げた。山田は、水色の半袖シャツ、こい青のズボンで、証言席の前に立つ。裁判長が判決を読み上げる。

「現役警察官なのに、無造作に長期間保管した。しかも、危険な所持形態で拳銃を個人的に保管した。拳銃が研修目的ならば、きちんとした手続が必要で、それはしっていた。

 同僚に対し、拳銃を自慢げに見せている。多数のモデルガンも自宅で所持している。自己満足、自己顕示欲から所持した。警察官に対する信頼を失墜させた。まじめにやっている警察官の努力を踏みにじるもので、刑事責任は重大である。

 一方、暴力団から拳銃を出させていること、横流しの目的がないこと、反省していること、長年職務に従事し、警視総監賞を多数受賞していること、懲戒免職で社会的制裁も受けていること、家族も指導監督を誓っていることなどもあるが、

 本件の犯行の罪質などを考慮すると実刑は免れない」などと厳しく指摘し、主文は、懲役3年6月、未決算入150日であった。

 被告は聞きおえて一礼する。「あなた自身、職務を一生懸命やっていたのは認めます。なぜ、こんなことをしたのか。責任は重大です。それをしっかり踏まえて、それなりの責任をとった上で、新たな出発をしてください」。裁判長が最後に諭した。

 山田は控訴せず、確定した。(了)

(2021年12月2日まとめ・人名は仮名)

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