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法廷傍聴控え 警察官強姦事件3

 この日は午後6時ごろ、勤務が終わった。知人が入院していたので、自分の車でお見舞いに行く。午後8時ごろ、病院を出て、パチンコをした。午後10時過ぎ、パチンコ屋を出る。そこから、ラーメン屋にいき、さらに、入院していた知人の家に行った。

 ──知人宅では、何をしましたか。
「戸締りとか火の元の確認とか見てやろうと思って行きましたが、横になってテレビを見ているうち、寝てしまいました」

 目が覚めたのが、31日の午前2時だった。そこで、自宅に帰った。自宅まで、夜間だと、車で15分か20分の距離である。午前2時15分か20分には到着した。

 ──自宅に帰ったとき、家族と会いましたか。
「はい。妻は部屋にいました。孫を連れてきた娘もいました」

 このとおりだとすれば、吉田さんの家にいるはずがない。山本の自宅とは直線距離で約2.6キロ離れている。夜間、車で10分はかからない。アリバイとしてはぎりぎりの時間帯だが、アリバイには違いない。
 山本のいう知人とは、5、6年前にしりあった隣町に住む会社員の女性で、7歳の男の子と2人暮らしだが、山本の愛人であった。この日、病院に見舞いにきたことを間違いなさそうだ。しかし、入院したため、男の子は、実家に預けていたので、自宅は無人だった。山本のいうとおり、自宅に午前2時ごろまでいたのかははっきりしない。
 一方、山本の帰宅時間を証言したのが、家族である。山本は、妻(45)、2人の子供の4人暮らしで、ほかに結婚した長女がいる。長女は子どもを出産したばかりで、里帰りしていた。30日の夜は、両親の部屋に寝ることにしたが、部屋にいると、父親が31日午前2時20分ごろに帰宅して、部屋に入ってきた。
 時間を覚えているのは、そのとき、ビデオ内蔵の時計を見ると、2時30分だった。実は、その時計はいつも10分進ませていた。ほんとうは2時20分ごろとなる。山本の妻も長女の証言を裏付けた。「強姦のような大それたことはできるような人間ではない」とも述べた。
 3人とも期日外、つまり、非公開の法廷でこのような証言を行った。

 ──吉田方の強姦事件ですけれども、あなたは自宅に帰っていたので、事件は起こしていないわけですね。
「当然です」

 そのときの服装は、半袖の白か薄い水色のカッターシャツ、ネクタイをして、黒か紺か薄茶色のズボン、黒色の革製の短靴だったとも述べた。

 ──吉田さんがいったようなポロシャツを着ていたことはないのですか。
「ございません」

 明確に否定した。
 さらに、8月17日の住居進入事件に関して、その日の行動を見てみよう。

 山本は、8月14日からお盆で、県内の実家に行く。16日午後7時、妻と次女と一緒に自宅に帰る。山本は家には入らず、そのままパチンコ屋へ行く。午後8時30分ごろ、パチンコ屋を出て、愛人宅へ行く。午後9時前に着く。知人は留守だったので、合カギで入る。テレビを見ていると、愛人が帰ってきた。午前2時半ごろ、愛人宅を車で出た。

 ──そのまま、家に向かったわけですか。
「途中で、ちょっと寄り道しようと思いました」
 ──どういうところにですか。
「友人が家を建てることになっていて、新築祝いをしたいし、どうなっているか確認しようと思いました」

 友人の新築中の家を見たいと思った。愛人宅から自宅のある地域を通り抜けて約3キロ走る。新築主は、仲のいい警察官である。この家は、小林ら3人が張り込んでいた家から約50メートルほどのところにあった。

 ──新築中の家を確認して、どうしましたか。
「家ヘ帰ろうとして、直進したところ、人影を見つけました」

 午前2時54分か55分ごろ、ちょうど、センサーを設置していた家の近くの交差点だった。

 ──人影を見つけて、どうしましたか。
「様子を見ようと思って、車をとめました」

 人影のあった反対側にとめようと、交差点を左折して、少し行ったところで、停車させた。

 ──車をとめてから、どうしましたか。
「車にあった懐中電灯を取り出して、(上半身は下着のシャツだったので)ネズミ色のポロシャツを着ながら、車をおりました」

 様子を見て、場合によっては、職務質問しようかなという「軽い気持ち」でいた。車両をおりるとき、助手席の座布団などの下に、腕時計、カギ、財布など、身の回りの品物をおいてきた。人影の見えた交差点に向かった。
 といっても、迂回して近づいて、様子を見たいと、交差点を右折し、最初の路地を右折した。その路地の左側に8月11日事件の被害者宅がある。そこを通り抜け、橋を渡り、人影のあった交差点方面をのぞいたが、見えない。近くにトラックがとまっていたので、運転席を見たが、だれもいなかった。

 ──それで、どうしましたか。
「もう1回、人影を確認しようとしましたが、ちょうど人影のあったほうから、だれか歩いてくるのが見えました」
 ──それを見て、どうしましたか。
「人影は間違いなかったと、様子をうかがおうとしていましたら、別のところから、急に、泥棒、泥棒といわれました」

 そこで逃げ回ったわけだが、2件の住居侵入自体は間違いない。

 ──なぜ、侵入したのですか。
「いきなり、泥棒、泥棒といわれて、どのような目にあわされるかもわからないし、自分が逮捕されるとどうなるかもわかりません。それで、逃げるよりほかはないと判断して、逃げて、その途中で入ったということです」
 ──声をかけている人が、まともな人とは思えなかったのですか。
「はい」
 ──その人に捕まえられると、身の危険も感じたわけですか。
「そうです」
 ──小林さんは、警察だと述べたといっていますが。
「それは絶対にありません」

 証拠として、足跡が一致したという鑑定、血液型が一致し、DNA鑑定も同一型を示していることについても答えた。

 ──このことについて、あなたはどう考えますか。
「吉田方には侵入しておりません。したがって、足跡は合致するわけがありません。ただ、DNA型が同じだったので、強いて申し上げると、真犯人は、私と同じようなDNA型をしており、横線模様の靴をはいているのではないかとしかいえません」
 ──あなたは、警察官の仕事について、どう考えていましたか。
「仕事に誇りを持っていました。仕事に惚れ、誠心誠意尽力しました。そのような立場の者が犯罪をするはずがありません」

 検察官は、この8月17日の事件については、次のような質問を行った。

 ──人影を見たのは間違いないですか。
「間違いありません」
 ──それは、何人ですか。
「はっきりわかりませんが、私が目にしたのは、1人です」
 ──背丈はどのくらいですか。
「わかりません」
 ──服装はどうですか。
「服装もわかりません」
 ──男女、どちらですか。
「感じからすると男だと思います」

 山本が不審と思ったのは、深夜、町外れの交差点にぽつんと立っていたからだ。車をおりたとき、警察手帳は持っていなかった。

 ──警察手帳を持っていないのは、気にしていなかったんですか。
「まったく気にしていません。手帳を持っていないから、職務質問はだめということはありません。おかしいと思うならば、手帳とかを考えないままに、確認に行きました」
 ──泥棒といった人の姿を確認しましたか。
「していません」
 ──全然、見なかったのですか。
「ライトはついているのが見えましたが、人の姿は確認していません」
 ──そのとき、自分は警察官だということをいおうという気持ちはなかったのですか。
「ありません」
 ──なぜですか。
「いきなり泥棒といわれまして、別に泥棒をしていませんし、それなのに、泥棒というのは、まともな人だとは思いませんでした。それまでに、泥酔者の報告とか精神障害者の保護、覚せい剤中毒者の対応などをしたことがあります。その過程で、足を骨折したとか、殴られたこともあります。

 世の中には、常識の通じない人もいるわけです。それで、逃げなければいけないとなったわけです」
 ──あなたは、武道は一応習得されていますか。
「(警察官)全員がそういうことはやっています」
 ──柔道はやっていましたか。
「柔道も剣道も逮捕術もやっています」
 ──柔道は何段ですか。
「段はなく、柔道も剣道も1級で、逮捕術は中級です」
 ──仮に、まともじゃない人がそういうところにいることは、ほかの一般市民にとっても危険ではないですか。ですから、逃げるのではなく、保護するとかなどは、頭になかったのですか。
「制服を着ていれば、そういうことも考えたかもしれませんが、身分を証明するものもないし、その場を離れようと逃げたわけです」

(人名は仮名)




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