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法廷傍聴控え 覚せい剤男警察官射殺事件2

  「ガンマンスタイル」の鈴木がマンション前の道路に出たのは、29日午後11時30分ごろである。

 これから、覚せい剤中毒者の深夜の乱射劇がはじまる。

 まず、鈴木の前にあらわれたのが1台の自動車だった。

 その車がヘッドライトをパッシングさせたと感じ、この車に高橋やその仲間が乗車し、自分を殺しに来たと思い、両手で拳銃を握り、前に突き出すように構え、約6.9メートルの距離から、車に向かって、1発撃つ。

 車には大学生ら2人が乗っていたが、弾は運転席のドアに当たった。

 さらに、午後11時35分ごろ、また、自動車が走ってきた。鈴木に注意を促そうとヘッドライトをパッシングした。

 この点について、弁護人が聞く。

 ──で、相手の車はそれでどうしましたか。
「わしのほうに向かって来たから、わし、よけて。で、後ろから撃ったんです」
 ──あなたのほうに向かって来たということは、あなたは狙われたというふうに判断したんですか。
「はい」
 ──で、通りすぎた後、撃ったんですか。
「はい。こっち来たから、わし、よけたからね」
 ──それは車を狙ったんですか。特に運転手を狙って撃ったということになるんですか。
「結局、上に向けて撃ったと同じだから、車のナンバー、バックミラーに当たったといったから」
 ──運転手を目がけて撃ったというふうに警察ではいっていますけれども、そういう意識がありましたか。
「一応、そういう方面に向けているんだから、人間を狙うと思って撃ったわけじゃないんで、ただ、おれのところに来たから。敵の相手だと思って撃ったんです」
 ──特に運転手に狙いをつけて撃ったというわけではないんですか。
「はい」

 やはり、高橋やその仲間が乗っていて、自分を殺しにきたと妄想をいだき、自分の前を通りすぎた後、両手で拳銃を構え、後方約8メートルから、2発発射したのである。

 車の右側後部ドアに当たったが、車に乗っていた美容師見習いら3人にけがはなかった。

 その後、鈴木は、マンション裏の道路に回ったが、その前の民家2階に人の気配を感じる。自分を監視しているのではないかと、2階に向けて1発発射する。さらに、マンションの周辺を歩き回る。

 午後11時38分ごろ、今度は、徒歩で帰宅途中の会社員がやってくるのに出会う。この男性は、鈴木の手前数メートルのところまで近づいたとき、鈴木が右手で拳銃を持ち、腹のあたりで構えているのを見つけ、びっくりする。

 しかし、鈴木を刺激しないように、できるだけ平静を装い、鈴木の前を通りすぎて、遠ざかろうとしたのである。

 一方、鈴木は、この男性が横を通りすぎるとき、何か言葉を発したように感じた。かれも自分を殺しにきた者かもしれない。反撃のため、自分の前を通りすぎた男性に向け、右手で持った拳銃を、後方約17メートルの距離から1発発射した。

 その弾は、男性の頭部に命中する。男性は付近の民家に助けを求めた。家人が出てくると、「助けてくれ、ピストルで撃たれた」と叫ぶ。首のあたりは血だらけだ。

 すぐに、119番、110番をかける。この男性は頭部貫通銃創、左顔面神経麻痺などで約1カ月の重傷を負う。

 鈴木はなおも周辺を拳銃片手に徘徊する。ある民家の前を通りかかり、その家をのぞきこんでいたところ、襖のかげから、住人が顔を出し、「どなたさまですか」といった。

 鈴木は、拳銃を向けたが、発射せず、「なんで、こんな時間まで起きているんだ」などと怒鳴っただけで立ち去った。別の民家の庭に入り込み、同家の犬が吠えかけたため、この犬を射殺する。

 鈴木がこのような行動をとったことについて、弁護人が法廷で尋ねた。
 ──そうすると、あなたが歩いているというのは、あなたを殺しに来た高橋の手先というのを捜していたんですか。それとも、あなたが逃げていたんですか。
「だから、もうそういう神経のコントロールがどうなっていたのか、わからなくなっちゃっているから、自分は。ただ、何の気なしに、うろうろしていて、何が何だかわからなくなっちゃっている状況でしたから」

 午後11時45分ごろ、たまたま、通りかかったところの民家を見ると、ゲームセンターを経営している顔見知りの家だと気づく。

 高橋ともつきあいのある男で、自分には敵対的な態度を示している男の上、以前、ゲームセンターのポーカーゲームで大敗して多額の金を使ったことを思い出した。

 この経営者に対する敵意や恨みがこみ上げ、殺してやろうと決意し、「おい」と窓越しに声をかけ、ガラスに向けて1発を撃った。

 これに驚いた経営者は、殺されると思い、裸足で家を飛び出す。鈴木は、家に入り込もうとしたが、ドアに鍵がかかっていたので、ドアノブをねらって数発発射したが、ドアノブを壊すことができない。

 そのうち、経営者が逃げだした物音を聞き、追いかけた。

 経営者は近くの焼鳥屋に逃げ込み、同店の店長から靴を借りようと、事情を説明中、鈴木が追いついてきた。経営者は走って逃げ出す。

 鈴木は、逃走する経営者の後方約35メートルから1発発射したが、弾丸は命中しない。さらに、鈴木は経営者を追跡したが、途中で見失った。

 その後、学習塾からの帰宅途中の2人の女子高校生と出会う。周囲は、鈴木の乱射劇で、騒然としていた。

 鈴木は、どういうわけか、この2人が騒ぎに巻き込まれては危ないと思って、「危ないから、早く帰れ」と怒鳴り上げ、あるマンションのベランダ付近に入り込んだ。

 すると、ベランダで飼っていた犬が吠え、その家の主婦がベランダの窓のところに立ち、ガラス戸を約30センチぐらい開けて、室内から、「いけないよ」と犬に注意した。

 これを見た鈴木は、自分を殺そうとしていると思い、約2.1メートルの地点から、右手に持った拳銃で主婦に向けて1発発射した。その弾は、コンクリート壁に当たり、跳ね返った弾が主婦の腹部に当たる。

「酔っぱらいが爆竹を投げたのかと思ったが、妻がうずくまって、腹から血が出ていたので、びっくりした」と、夫が後に述べたが、主婦は約10日間の腹部挫創、右前腕挫創のけがだった。

 さて、埼玉県警本部自動車警ら隊川越方面隊勤務の小泉正巡査(28歳)は、相勤者と川越市内をパトカーでパトロール中、「拳銃発砲事件発生」というの指令を傍受した。

 拳銃発砲事件の犯人の検索、検挙するため現場に急行した。

 鈴木は、途中から上半身裸になりながら、拳銃を手放さず、依然として徘徊していた。警察のパトカーの音が聞こえ、警察官が自分を逮捕しようとしていることはわかったという。

 29日午後11時59分ごろ、現場に到着した小泉巡査らが、パトカーを停止させ、後部トランクから防弾チョッキ、防弾ヘルメットを装着しているのを見た。

 鈴木は、拳銃を両手で持ち、後方約18から20メートルの距離から、拳銃を3発発射した。

 そのうちの1発が小泉巡査の後頭部に命中する。小泉巡査は病院に運ばれたが、30日午前0時30分ごろ、盲管銃創による脳挫傷で死亡した。

「あと6センチ、弾がそれていてくれたら」と上司は語った。また、発射した3発のうち1発は、小泉巡査の乗っていたパトカーの左後輪に命中した。

 警察官を撃った後も、鈴木は付近を逃げ回り、30日午前0時5分ごろ、ある会社の社宅1階で、1軒だけ電気がついていたのを見つけ、ベランダ側ドアのガラスを割って、その部屋に逃げ込もうとした。

 ガラスが割れる音を聞いた家人が、いたずらだろうと思い、腹を立てながら、「馬鹿野郎」と怒鳴った。

 これを聞いた鈴木は、殺されると思い、約2.2メートルの距離から、家人に向かって拳銃を1発発射する。

 家人はうずくまり、その妻は、「助けて」と叫びながら、近所の家に逃げ込む。この家人は約3カ月の腹部銃創、左前腕骨粉砕骨折などの重傷だった。

(2021年12月3日まとめ・人名は仮名)


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