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法廷傍聴控え 会社社長射殺事件3

 木下の“鈴木真犯人供述”が出たため、鈴木証言は後回しにされ、以後、第12回公判(93年11月15日)まで、6回にわたり、検察官、弁護人、そして、裁判長が木下にさまざまな角度から質問を行った。
 以下、ポイントごとに木下の“鈴木真犯人供述”をまとめてみる。

 鈴木との関係──1986年、東京の進学塾でアルバイトしていたが、そこに鈴木が学生アルバイトでやってきて知り合った。それ以来のつき合いで、輸入雑貨などの会社を設立したとき、鈴木も役員になり、全国学友会の理事になったとき、鈴木も理事に就任した。鈴木には1200万円ぐらい貸していた。
 鈴木とは裏口入学の仲介工作もやった。鈴木が大学の裏口入学話を持ってきて、自分が学友会関係の生徒に持ちかける。鈴木から話のあった裏口入学で金が動いたのは、全部で4件あった。しかし、実際に入学できたのはゼロ。動いた金額は6000万円ぐらい。生徒の親などからは4件とも金を返せといわれた。話を持ちかけた責任もあるので、自分で返せる範囲で返してきた。
 会社を一緒にやっているといっても、鈴木とはあまり会わなかった。91年9月ごろから頻繁に会うようになる。ある私立大学への裏口入学の件が具体化してきたからだ。鈴木の持ってきた話で、400万円かかるという。一度、別の裏口入学に失敗した生徒に持ちかけ、工作を進めることになった。
 試験自体が論文と面接であり、事前に論文のテーマと模範文を学校関係者から入手できるということだった。11月27日、その模範文を手に入れた。規定の字数より多いし、ほんとうにこれで大丈夫なのか、模範文をまだ見ていない鈴木に確認したいと思った。
 試験日が近く、受験する生徒にその文章を暗記してもらう日数が必要で焦っていた。

 鈴木の殺し請負話──91年7月ごろから、英会話学校も経営したいと考えていた。そこで、いろいろな英会話学校のパンフレットを集めはじめた。9月ごろ、渋谷で英会話学校を経営している人がいて、その人はフェラーリに乗っているという話を、鈴木から聞いた。
 そこで、その学校の場所を探しあて、鈴木と一緒にパンフレットをもらいにいった。パンフレットには、上原社長の顔写真が掲載されていた。
 その後、鈴木がある人から殺し屋を探すように頼まれたという話をした。しばらくすると、どうせなら、お金に困っているから自分でやってその金をもらったほうがいいと、鈴木はいうようになった。鈴木は真顔でいってはいなかったので、冗談かなあと思った。
 再三、この話が出て、「あんにゃろう、やるしかない。よかったら手伝ってください」という話もあった。殺す相手は上原社長だった。依頼人はナガタとかいう人で、成功報酬として200万円のほかにパテントを持っているベルトコンベアの販売権もくれるとかいう話だった。

 拳銃入手──まず、上原の行動パターンを調べようと、2人で何回か会社やマンションの下見や見張りをした。マンションはオートロック式である。拳銃があれば脅して部屋に入れる。そして、お金を奪えば一石二鳥という話を鈴木がした。どうせ拳銃は買えないと思っていたし、「ああ、そう」と、あいづちを打った。
 鈴木は台湾マフィアに頼めば手に入るからという話をしていた。安いのは20万から30万、高いのは新品だと50万から60万という話だった。
 11月に入って、代々木の事務所近くに借りている駐車場で、夕方、見張りに出かける前、「見てくださいよ。きましたよ」と鈴木が紙の手提げ袋を見せた。袋の中を見ると、半透明の油紙を通して、拳銃が光って見えた。
 その後、別の機会に、「拳銃を見せてくれ」といって、手提げ袋の中に茶色の紙にくるまれて入っていた拳銃を取り出した。拳銃はオートマチックで、色はシルバー。すごく光ってた。鈴木が小さな箱を開けたので、ほお-っと思った。数えてみなかったが、弾が1ダース前後入っていたと思う。拳銃と弾を70万円で買ったという話を聞いた。
 拳銃を持ってみて一番の印象は、弾倉が持った途端にカシャーンと落ちたこと、落ちた中身が錆びていたこと、銃身がぐらぐらしていたこと。それでおもちゃだと思った。

 拳銃の話が出たとき、裁判長が尋ねた。

 ──いやに詳しいじゃないですか。
「モデルガンを2度くらい、こどものときにつくっていたことがあります。事件当時は持ってませんでしたが」
 ──錆びていたらおもちゃじゃなく、本物じゃないの。
「本物だったら、そんなことはありえないと思いました。色の先入観があって、銀色のおもちゃはあるが、ああいう光っているのは知らなかった。また、鈴木はだまされたんじゃないかというのが、頭にありました」
 ──当時、トカレフは日本に入ってきてたし、騒がれていた。トカレフ型とは思わなかったのですか。
「しりません」

 事件当日──夜7時過ぎ、鈴木のポケットベルにメッセージを入れた。裏口入学の論文の件で、どうしても連絡を取りたかった。連絡が取れ、9時ごろ新宿西口の銀行の前で、鈴木に会った。すぐに代々木の事務所近くのコンビニの前に移動した。
 車の中で論文を見せて、「これでいいのか」というと、「大丈夫ですよ」と安請け合いの感じ。「これから行きましょうよ」と鈴木がいう。見張りのことだ。まだ、論文の話の途中なので、上原を見張りながら話をしようと思った。
 9時半ごろ、上原のマンションの付近に車を止めた。10時半近くだったと思う。鈴木が、「来たっ」といって、車から飛び下りた。

 この点について、検察官が次のように尋ねる。

 ──鈴木が飛び出すとき、拳銃を持っているのを見ましたか。
「見ていません。感じでは、拳銃を持って飛び出したと思って、びっくりしました」
 ──被告はどうした。
「ぼくも、えーっということで、トレーの下にあった折り畳み式のナイフと座席の下にあった軍手を持って出ました」
 ──鈴木が飛び出したのにびっくりしたというが、そのあとを追うのに、ナイフと軍手を持って出るんですか。
「反射的に。冗談かと思ってましたけれども」
 ──うその話をしているから、理不尽なことになっちゃうんでしょう。
「ぼくがうそをつく理由があるでしょうか」
 ──そりゃあ、強盗殺人だからでしょ。
「はい?」
 ──それでは、なんでナイフを持っていったのですか。
「強盗殺人するためです」

 木下は急に大きな声で答えた。検察官が理詰めで追及してきた結果、この答えである。傍聴席で聞いていても、そう答えざるを得ないような問い詰め方であった。木下は初公判で見せたように、上を向いて、涙をこらえているようだ。
 しかし、こらえ切れない。ほんとうのことをいった涙なのか、それとも、ここまでいっても信じてもらえない悔し涙か。法廷は物音ひとつなく、数分の沈黙が続く。
 裁判長がその沈黙を破る。

 ──また、供述を変えるわけですか。

 裁判長の問いかけに対し、弁護人が、被告は興奮しているなどと弁明し、被告に落ち着くように促す発言をする。
 裁判長が続けて聞く。

 ──軍手も同じ理由で持っていたわけですね。
「そのときは、なんとなく、そういう行動になりました。先ほどは興奮してすみませんでした。強盗殺人のためというのを撤回します。申しわけございませんでした」

 検察官も追及する。

 ──上原さんの冥福を祈るために、ほんとうのことをいったらどうですか。
「真実は一つです。ここでうそをついて言い逃れしても、裁判長にはわかることです」

 侵入──マンションの入口のところで、先に車を飛び出した鈴木に追いついたが、2、3メートル後ろでようすをみた。「部屋に行って話そう」という鈴木の言葉が聞こえた。オートロックのドアがあき、上原、鈴木の順で入り、私も続いた。拳銃自体は見えなかったが、鈴木は右手に拳銃を持ち、上着の内側に隠しているような感じがした。そして、階段を上がっていった。

 検察官が問い詰める。

 ──鈴木がほんとうに押し入って殺そうとしたら、止めると考えていたというのに、なぜ、止めなかったのですか。
「たとえはおかしいですが、オートロックのドアが開いた瞬間から何か映画を見ているようで、自分がどうしていいかわかりませんでした。部屋のドアの前に行き、上原社長がポケットかカバンから鍵を出しているところから見ています。それまでは2人のようすを見ないように見ないようにしてました」
 ──鈴木は手に何か持っていましたか。
「持ってたと思います」
 ──何を。
「拳銃です」
 ──どちらの手に、どのように。
「右手で。持ち方はわからない。しっかり見てません」

 殺害──ドアが開いて、上原社長、鈴木、私の順で入る。鈴木が、「金庫はどこだ」といって、玄関の正面にある寝室に入っていった。私は絵を見るために、他の部屋に行ったが、呼ばれたような気がして寝室に行った。
 寝室では、上原がベッドにうつ伏せで寝かされて、金庫が開いていて、鈴木が右手に拳銃を握って立っていた。金庫の中に何も入っていない、カバンの中にも何もないといった。そして、鈴木からダイヤの裸石の入っている袋を見せられた。「これしかない。これがありました」と。それと、腕時計も渡された。
 そのとき、「軍手、軍手」とか「手袋、手袋」と鈴木がいったので、ポケットに入れていたナイフと軍手を取り出した。私は上原の姿を見ないように、ベッドの端に座っていたが、呼ばれたような気がして、後ろを振り向いた瞬間、銃声がした。
 鈴木は体を半身に構えて銃を持って立っていた。あっという間に、鈴木が寝室から出て行き、私もあとに続いた。鈴木がはだしで部屋の玄関を出ようとしたので、「靴、靴」と教えた。
 車に戻り、私が運転して代々木に戻った。鈴木からは拳銃と財布の処分を頼まれた。一緒に事務所に行き、鈴木はだれかに電話した。たぶん、遠山のところだと思う。

(2021年11月20日まとめ・人名は仮名)



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