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法廷傍聴控え 一橋大学教授轢死事件3

「わざとぶつけた」と、現場ではいっていたというのである。

 ──当時、警察を怒らせてはいけないと考えたのですか。
「100%思っています。私は反天皇制主義者でしたが、数年前、共産党員になりましたから、そう思っています」
 ──警察を怖いと思っていたのですか。
「もちろん、思っていました」
 ──なぜ、怖いのですか。
「私は共産党員。警察は天皇制右翼の反共集団。警察に引っ張っていっただけで、ひどいことになると思いました」

 山本は、その場で傷害容疑で逮捕され、パトカーで小金井警察署に連行された。夜10時から12時まで取り調べを受ける。山本は仕事の疲労と事故で精神朦朧状態だったという。

 ──その日は眠れましたか。当時、病気は。
「ナルコレプシーで、精神病とは違います」

 月に1回通院し、問診を受け、薬をもらっていた。薬は毎日定期的に2回飲み、車にも積んでいた。

 ──当時、病気の症状については話しましたか。
「全部すべて話しました」
 ──逮捕当日(4日)、薬は飲めましたか。
「飲めません」
 ──薬を飲まないとどうなりますか。
「ガクッときます、うつ状態で。とにかくひどくなります。翌日(5日)、夜5時から飲んでいいとなりました」

 弁護人は、少なくとも薬を服用させた後、取り調べをすべきであったとも主張した。なお、12月5日の取り調べは、朝8時半から夕方の4時か5時まで、昼休みはたった10分ぐらいだったとも、山本は述べた。

 ──12月5日の昼食は。
「出してもらえません」

 山本の母親(70歳)も証言した。山本は、当日、110番するとともに、母親にも「すぐ来てほしい」と電話をかけた。母親はタクシーで駆けつけた。
 現場では警察官が懐中電灯を持って動き回っていた。救急車は関教授を乗せて出た後だった。山本のそばに行くと、たった一言。「市議会議員の人に電話してくれ」と山本がいった。警察官に事情を聞きたいと思ったが、緊迫していて、そんな状況じゃなかった。
 市議に連絡してほしいといわれ、これは、弁護士をお願いしたいということだと思った。「被害者が心停止になっているから、今夜は警察に来てもらう」と警察官が山本にいっているのは聞こえた。
 自宅に戻ってから、近所のしりあいが来た。「いまから、警察にいって事情を聞きましょう」というので、一緒に小金井警察署に行った。しかし、時間がおそいし、山本は眠ってしまっているというので、山本には面会できなかった。被害者の方が亡くなったことを聞いた。
 また、警察に薬のことをお願いした。山本は、長い間、抗うつ剤など5種類の薬を飲んでいた。この薬はわずかの間飲まないでも精神的に不安になると聞いていたので、「これをすぐに飲ませてほしい」と頼んだ。ところが、「外の薬は、一切、入れられない。こちらの担当の医師から出ます」といわれた。
 翌日の夕方、会ったところ、山本は、「怖い、怖い」で、ただ、泣き伏しちゃっているというひどい状態だった。「こんな重大なことをしたのだから」と慰めた。

 ──12月5日の心配は。
「一番の心配は、共産党員の私に対して、不当な罪をなすりつけるのではと、傷害致死以上のことをと考えました」

 軽トラックには、共産党の機関紙などが置いてあった。

 ──そうすると。
「なるべく刑事のご機嫌をとるように努めました。それで、否定しませんでした」
──調書では、故意にぶつけたということですか。
「そうなっています」
 ──(警察官の調書では)「私が自転車に車をぶつけると、その男がけがをして、それ以上、私を攻撃しないだろう。110番で、警察がまもなく駆けつけると、私が事情を聞かれてもわかってもらえるだろう」と。
「そう話しました」
 ──どうして、事実と異なる調書に、署名、指印をしたのですか。
「私も半分あきらめていました。取り調べが早く終わってほしいと、嘘の話をつくり、その場で思いついてしゃべりました」
 ──検察官からの調べはどうですか。
「ありました。最初、検事が小金井署にやってきて、取調室で調べられました」
 ──「私はその自転車の男性の後ろ姿を見て、瞬間、また、会った。気づかれたらどうしよう。怖い。やられる前にやってやれ。車を後方からぶつけてやれ」という検察官の調書に、署名、指印しましたか。
「はい」
 ──あなたは、被害者を発見し、衝突音を聞くまでの間、そのようなことを考える余裕がありましたか。
「全然ありません」
 ──実際に、そういうことを考えましたか。
「いや、そんなゆとりはありません」
 ──どうして、あなたは事実と違う調書に署名、指印をしたのですか。
「警察と同じです。検事があまりにも強引で、とても真実を話せないのです」
 ──強引とは。
「こちらはあいさつするのですが、検事はいきなり椅子に座って、ヤクザが脅すようにやってきました。ほんとうのことをいっているのに、『嘘だ、嘘だ』といってきます。取調室で2時間やられました」
 ──「相手がどうなったって、しったことではない気持ちになった」ということは。
「全然ありません。大きな事故を起こしたら、社会的に損失することをしっています」
 ──「バーンという大きい音とともに、相手の姿が見えなくなった」という調書に署名しましたか。
「しました」
 ──時間的前後関係はこれでいいですか。
「(ぶつかるとき)私の視界に最初から入っていませんでした。検事にいいましたが、こういう調書をつくりました」
 ──被害者を轢いたと思いましたか。
「いや、全然思いません。車の横にぶつかったと思いました」
 ──事故の直前のトラブルについては。
「ドアを手でたたかれたといったら、『あなたのいっていることは、妄想か勘違いか嘘』といわれました」
 ──調書は読み聞かせてもらって、署名したのですか。
「それは悔しかったですが、仕方なく、しました」
 ──検事が「何か遺族に伝えることはないか」と聞きましたか。
「今回、不幸な事故が起こりましたが、故意ではないと答えました」
 ──それをいって、検事は調書に書きましたか。
「無視されました」
 ──あなたには極めて重要なことですが。
「大事です」
 ──抗議はしましたか。
「大体がいいかげんな検事です。それは問題外でした」
 弁護人からの最初の被告人質問は、おおよそこのようなものであった。

(2021年11月8日まとめ・人名は仮名)


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