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なぜ病院の経営企画室は安易に原価計算をして炎上するのか

病院の部門別原価計算で起こりがちなこと

過日、病院経営クラスタでふじいまさし(@fmasashi)さんを起点として、原価計算に関して面白いというか、切実というか、とても重要な問題提起があった。

病院がいわゆる経営企画室をつくると、なぜか部門別原価計算(特に診療科別原価計算)に取り組みがちな印象がある。多分に漏れず、私も経営企画室時代に部門別原価計算をしたことがある。

病院の経営企画室は、理事長・院長の鳴り物入りで立ち上がり、固有業務があまりない場合が多い(#一般論です)。「立ち上がったものの、何をしたらいいのかな・・・」と途方に暮れるメンバー的にも、確かに、部門別原価計算するとなんとなく経営してる雰囲気がでるので、体のいいテーマになっているのではないだろうか(#一般論です)。

確かに原価計算はやってみると様々な発見があるのでぜひチャレンジしてみてほしい。ただし、よくあるのは、トップダウンで”とりあえず原価計算”や”なんとなく原価計算”をし、何らかの結果がでると嬉しくなって病院の経営会議的なところに突然発表して各部門から顰蹙を買ってしまうという黄金パターンだ

部門別原価計算はなぜ炎上するのか

原価計算は共通経費の配賦基準の取り方によって、如何様にでも結果が変わるため、計算の結果赤字となった部門から「配賦基準がおかしい」「我々の仕事を正しく理解してない」「事務は現場を知らないから」等といった反発を招きかねない。経営会議のような様々な部門の責任者が集まる場でこのような反発が生まれると、次々伝播して部門別原価計算という行為そのものが【炎上】し、議論自体ができない状況に陥ってしまう可能性もある。

また、画像診断@病院経営(@h2niimi2)さんが指摘するように、医療機関の各部門は相互に複雑に関わり合いながら業務を行っているため、そういうシナジーを原価計算に落とし込むのは簡単なことではない。どこかで仮定を置いて割り切った計算が必要になるが、その「仮定」「割り切り」が医療機関のコアな部分を反映したものになっていないと反発は避けられない。感情的な反発が先行してしまうと、どんな分析をしても前向きな結論が出なくなるので注意が必要だ。

原価計算に一番必要なのは「思いやり」では

ただ、これらの反発は医療従事者にコスト意識がないことを意味するわけではない。今や様々な加算や管理料の算定を通じて医療従事者も強く収益性を意識せざるを得なくなっているし、医療の充実には経営の安定が必要不可欠、というのは衆目一致するところだ。個別の医療行為の収益性に興味を持っている医師や看護師等は少なくない。

要は、「個別の医療行為の収益性」には誰しも興味があるが、「部門単位の収益性」になると自分が値踏みされているような感覚になってしまうということだろう。しかも、原価計算上の利益の計算の正確性には限界があり、【実際の診療の苦労】と【原価計算上の利益】にはギャップが生まれがちだ。

部門別原価計算は自分たちの経営状況を理解するための強力なツールになるのは間違いないが、結果を平場に出す前に、【目の前のスタッフの働きぶりや業務繁忙の状況と計算結果が整合しているか?】を自問自答することをお勧めしたい。そこにギャップがある場合、自分の想定した前提条件に何か見落としがある可能性が高い。
配賦基準に考慮できていない重要な機能があるのではないか?見直しても結果が変わらないときは、業務を収益化するフローそのものにミスがあって算定漏れがあるのではないか?
いずれにせよ、部門別原価計算を実りあるものにするために一番必要とされるものは、医療従事者の仕事への「思いやり」なのかもしれない。

つい短絡的に「スタッフに開示して動機づけさせよう」とか「人事考課に反映しよう」とかという展開になりがちがだが、一番大事なことは目の前のスタッフのパフォーマンスを最大化することだということを忘れてはならない。部門別原価計算には、ある種の限界があり、精緻化と簡略化のバランスの間に存在しているものであるということを、作成する側はよく理解する必要がある。

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