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自分たちでゼロから結婚式を創った夫婦の話し。~Ep19.結婚式2日目~

Ep19.結婚式2日目

 翌朝は残念ながら雨だった。1日目の疲労が少しあったが、2日目は親族を迎えた結婚式だったので緊張感は1日目の比ではなかった。

 テントは絶望的だった。雨を凌ごうとして屋根を張れば水が溜まり骨組みが歪んだ。結果的には式中も少しずつ水を抜くということ以外に手立てがなかった。あいにく、大降りはしていなかったため人力でも何とかなった。

 そうこうしている内に親族が続々と車で到着した。「テツ、遠いよ。」と憎まれ口を叩かれながらも祝福してくれた。僕たちは着替えがあるため控室に行った。

 だが、いつまで待ってもヘアメイクの業者が到着しなかったのだ。担当者に確認を取ったところ環状線の合流部分を間違って、中央道に乗り池袋方面に行ってしまったのだ。ヘアメイク業者が到着したのは1時間遅れのことだった。急ピッチで準備をし、式の時間は30分後ろ倒しした。事前に間違えやすいことを伝えていなかった我々のミスだった。

 何とか30分以内に間に合わせ結婚式はスタートした。雨だったため当初予定していた長いバージンロードは作らず5mほどの道を作って代用した。地面が濡れていたため介添えの知念が白のドレスをずっと後ろで持ち上げてなければならず思ったように前に進まなかった。

 石原自作のプロフィールムービーを観たあと、みはるの友人のゴスペルメンバーが歌を披してくれた。最後は泣きじゃくっていたためほとんど歌は聞こえなかったが祝福の気持ちが伝わる良い時間だった。

 その後、数名にスピーチを頼んだ。ランダムで当てるという前代未聞のことをして周囲を驚かせたが、皆僕たち2人に向けて建前ではなく本音のエピソードを話してくれた。(おそらく当てられた人は相当焦ったと思う。)

 参列者が大事な人へ手紙を書く時間も作った。普段、恥ずかしくて感謝を伝えられない人に思い切って手紙を書いてみよう、という狙いだった。後々聞いたが、普段は奥さんに言わない感謝の言葉を書いてお互い絆が深まったそうだ。

 ケーキバイトを終え、最後に両親への感謝を伝える時間に移った。僕とみはるが贈った言葉だ。

 みはるは目に涙をいっぱいに溜めながらゆっくりと話し始めた。

「お父さんお母さん、これまで大事に育ててくれてありがとう。就職をして社会人になり、働くという事の大変さを知った時にお父さんの強さに気づきました。そして、一人暮らしを始めたときに仕事と生活を充実させることがなかなか出来なかった私は、お母さんが自分の時間を削って私たちを育てたことに逞しさを感じました。2人が大事に育ててくれたからこそ、今こうやってテツリにも出会い、素敵な友達も出来ました。これから大変なことがたくさん待っていると思うけど、大きな心で見守っていてください。」

 そのあと僕も両親に向かって手紙を読んだ。

「おやじへ。高校生の時、僕はあなたのことが嫌いでした。口うるさく、人のことを考えない人だと思いました。あの時はキツイ事を言ってごめんなさい。自分も未熟でした。これから自分も父親になると思うと少しだけおやじの気持ちが分かります。
おかんへ。どんなに辛くとも気丈にふるまい、いつでも笑顔を絶やさないあなたは僕のヒーローです。あなたは僕のよき母であり、友人であり、教育者でもあります。祖母が亡くなったとき、『おばあちゃんがみはるちゃんを連れてきてくれた』と涙していましたね。
僕たちもこれから楽な道だけを歩めるとは思いません。でも、おやじとおかんの姿を見ていた自分にはどんなことすらも乗り越える事が出来ます。孫も出来て、騒がしくなると思うけどよろしくね。」

 僕もみはるもあふれ出る涙を止めることなく感謝を両親に伝えた。結婚式にありがちな建前ではなく僕たちの本当の想いを。何よりも良かったことは、一緒に作っていたスタッフ全員が泣いていたことだ。あれだけ泣かないと豪語していた石原ですら涙を流した。参列者もスタッフの温かい空気感に触れ、ほとんどの人が涙していた。

 一般的には結婚式で人の死についてや本音の手紙は式場側が嫌がる。しかし、僕とみはるは何の制約もなく自分の言葉で自分の想いを率直に伝えた。それが、本心だったからだ。人は辛いことや悲しいことを乗り越えるから感謝が生まれる。壁にぶつかったことが無い人なんていないし、その本当の想いに蓋をした感謝の手紙など何の意味も持たない。

 こうして全てのプログラムが終わり、僕たちの「ゼロから結婚式を作る」という長い旅は終わりを迎える。決して簡単ではなかったこの旅は仲間と家族に支えられて達成することが出来た。言うなれば、いばらの道を裸足で進むような感覚だった。何度も倒れ、折れそうだった心はいつしか強く逞しい太い幹のような心に生まれ変わっていた。

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