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デイズ in ジャカルタPart1

ジャカルタのスカルノハッタ空港はとっぷりと宵闇に包まれていた。駐車場のむせかえる熱気はシンガポールのトランジットで少しは覚悟はしてたけど、日本の元旦の朝の寒さを知っている身には相当こたえる。迎えに来た運転手は英語も日本語も話せない。一夜漬けのインドネシア語で尋ねる「シアパ ナマ?(あなたのお名前は?)」「サヤ(私は)ルディオノ」。インドネシア人は太った金持ちと痩せた庶民に大別されるがルディオノは後者。良くも悪くもく典型的なインドネシア人だ。おしゃべり、陽気だが寂しがり屋、不便や不幸を簡単に受け入れて嫌なことはすぐに忘れる、計画性など持ち合わせ無いが結局何とかしてしまう器用さ、単純に見えて複雑かというとそうでもない、これがインドネシア気質。
市内のルワンサホテルにチェックインすると既に時差が2時間ある日本の午前2時。シャワーを浴びてノリの効いたベッドのシーツに横になると全身は泥のように溶けていった。

次の日ホテルの朝食を取った後ジャカルタの街を歩いてみる。通行人が歩道橋で挟み撃ちにされナイフで財布を脅し取られた事例は先輩達から嫌ほど聞かされてるが、命までは取られないさと開き直り歩き出す。しばらくすると巨大なモールが現れて、中に入る。かなり豪華で明るく洗練された店舗がぎっしり。エルメス、ディオール、エトロにプラダと並び、ランボルギーニの店には黄色のウラカンと薄緑のミウラが鎮座している。皆んな冷房が効いたモールに涼みに来ているだけかと思いきやしっかり買い物袋をぶら下げてる人多し。ちなみにロレックスのデイトナがいくらかなと覗くと12億ルピア、ゼロを二つ取って8掛けすればいいから960万円!こんなん売れるんかい、と冷やかしながら歩いているうちに腹も減ってきたので見慣れた豪州ステーキ のチェーン店Outbackに入る。インドネシア料理店は無論、中華料理店でもまずビールは置いていない。必ず日式を含めて外資系レストランを選ばないとお酒は飲めない。レストランに入ってしまえばそこはメトロポリタンのジャカルタ、英語はバリバリに通じる。ビンタンビールとテンダーロインをミディアムウェルダンで頼んで一息つく。周りを見渡すと、お客は小金持ちのインドネシア家族と外国人家族が半々くらい。落ち着いたたたずまいで日曜の午後を皆のんびりと過ごしている。レストランで勘定を済ませ、ここの生活は結構お金がかかるぞと自分に言い聞かせながらモールを後にする。

来た道とは違う近道であろう裏通りを通って帰路につく。細い路地はバイクと人が渾然と蠢きあいテントを張った小さな屋台がびっしり軒を重ねている。日に焼けた痩せたしわくちゃの顔、顔が紙皿に盛られた茶色の煮物と葉っぱの上の山盛りの米をプラスチックのスプーンでかきこんでいる。おっとうっかり水溜りの端の鼠の死骸を踏みそうになる。大都会の乾いた華やかな表舞台と湿って混沌とした裏通りの楽屋は、ほんの薄い壁で仕切られている。この街でしぶとく生きてやろうと呟きながら酸素の薄い甘酸っぱい空気を胸一杯吸い込まないように注意深く歩き続けた。

Part2に続く









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