赤坂の奇跡

赤坂にBbというジャズクラブがあります。元々は1990年代後半に原宿にKeynoteという名前でオープンして数年後に移転して今の名前になった場所です。初代のオーナーは杉谷宏幸氏。ジャズ好きで東京証券市場の場立ちをして資金を捻出して店を立ち上げたと伺った記憶があります。彼自身も趣味でサックスを吹く人でした。ここでは90年代の終わりから21世紀の最初くらいにFun Brothers' Workshopというビッグバンドでしばしば演奏していました(このバンドには今第一線で活躍してる人が大勢います)。このバンドでJanet Seidelの歌伴もやった記憶があります。私の師匠で毎年日本に来ていたエディ.ヘンダーソンが東京でも何かやれないかと思って杉谷さんに相談したところ、ギャラの面も含めて快諾してくれたのもありがたかったです。このカルテットは鈴木さんにも引き継がれ足掛け10年ほど続きました。が、私に当時ビザ関係の知識が一切なく、入管から指摘を受けて終了となりました。杉谷氏が急逝した後は共同経営者(で言い方あってるかな?)である鈴木耀氏が店を一気に切り盛りするようになりました。都心エリアでビッグバンドの演奏ができるジャズクラブとして、プロアマ学生問わず多くのジャズファン、ビッグバンドファンに親しまれるお店ですし、私自身もトム.ハレル氏(これは本当に奇跡的だった)を筆頭に何人かの海外の演奏家と共演する機会を作ってくれました。


ジャズってジャンルの名前はそこそこ知られていますがシェア的には微々たるもので、ビッグバンドのできるジャズクラブというのは減りこそすれ増えることはありません。地方の中核都市ではもはやそのような場所はないという現実も多々あります。そんな中でも鈴木さんは店を支え、食道癌を克服し、コロナ禍を凌ぎ、クラウドファンディングを成功させ、店を守ることに奮闘する最中に不慮の交通事故で意思半ばにして無念の死を遂げてしまいました。この店の立ち上げをした二人が亡くなってしまったことで、この場所は無くなるであろうことをほとんどの人が覚悟したと思います。が、残されたスタッフさんの奮闘が結実し、銀座の老舗楽器店である山野楽器が事業継承することを発表しました。山野楽器は楽器店でもありますが、70年近くにわたり学生ビッグバンドコンテストを主催してきた会社でもあります。ここが東京でビッグバンドが演奏できる場を確保するために動いたというのは素晴らしいことと感じました。推測ですが、やはり学生時代にサークルでビッグバンドをやっていた取締役であるO氏の判断が大きいとの話があり、ジャズ、特にビッグバンドを愛する人たちによってこの場所が守られた、と言って良いかと思います。ホワイトナイトが出現してお店が守られたというのは奇跡的なことではないかと思います。


音楽に限らず、文化というものはポップで大きな市場を持つものではないので、それを守り継続させるコストが必須です。この状況であれば楽器屋さんだって安泰ではないかもしれません。そんな中でこの決断をした山野楽器さんの文化に対する意識と矜持には大きな拍手を送りたいですし、長年お世話になってる自分としては「アコースティックな生の音楽の魅力」を微力ながらも続けていけたら、と思うのでした。


昔のことを調べていたら、店の20年の歴史を書いてるページがありました。こちらもなかなかに面白いので是非。


https://ozsons.jp/Bflat.htm

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