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アラフィフ育児 ケース8「なかなか『いただきます』できない」 〜躾のブーメランが自分に刺さりまくって、説得力のある大人になれない話〜

説得力って、小さな行動の積み重ねですよね。

先日の夕食どきの話。
その日は、珍しく私が料理をした。
メニューは、手羽先と新玉ねぎの梅酢煮。

厨房に立った私は、ドラマ『深夜食堂』に出演させていただいた際、フードコーディネーターとして現場にいらっしゃった飯島奈美さんからお土産としていただいたレシピ本を手に、料理を始めた。

老眼の目を細めに細めて眺め、「ううーむ字が小さくて読めない」とフリーズし、「ああいかん」と鍋の火を止めたりつけたりして、「ああ! ここ! 読み飛ばしてた!」と先に入れないといけない調味料をあとから入れたりして(致命的)もう、飯島さんが見ていたら「料理を台無しにしないでちょうだい!」と怒り出しそうな(注1)へなちょこ錬金術的調理なのだけど、結果は、飯島さんのレシピのおかげでとっても美味しいのだ。

飯島さん、神! 

(注1)飯島さんは絶対にそんなことでは怒らないと思う。


「うん、美味しい……」
味見をして皿に盛って、食卓に持って行く。だが、そこで唖然とする。

狭い我が家のテーブルは、ダイニングテーブル兼、皆の憩いの場兼、リカちゃんが踊る舞踏会場兼、シルバニアファミリーの家が立つ閑静な住宅地兼、メルちゃんたち着せ替え人形のランウェイ兼、私が脚本を読んだりする場所も兼ねていて、つまり料理ができたそのときには、机の上に料理が乗る隙間なんてない。

「片付けてー」と妻が、ムスメに号令をかけるのだが、百鬼夜行かと見まごうばかりの、異形の者(キャラ)で溢れたテーブルを片付けるのはなかなかに重労働で、結果九割を私達夫婦が片付ける。

なんとかテーブルをきれいにして、料理を並べてさあ、
「いただきます」と手を合わせたあとに、

「おみず」と上のムスメが言う。
「お水が? なに?」妻が訊く。
「おみずが、ない」

またやった。
そう、マルチなタスクが多すぎてしょっちゅう呆然とする私なのだ。用意し忘れなんて日常茶飯事だ。(こちら↓参照の事)


「お水がないときは、なんて言うの?」
「おみず、ください」(と渋々)
「もっと可愛く言って」と私。
「おみず、くださ〜い」
「よし」

水を出し忘れたのは私の責任なのだが、テーブルを片付けるのに五分かかっている。料理はどんどん冷める。「早く食べたい!」と焦った結果、忘れてしまったのだ。ああ、早く食べたい。手羽先、冷めたら、超残念! にこごりは二日目の楽しみに取っておきたい!

ムスメ達に水は出した、さあ、
「いただきます!」
「おてふき!」
「あ……」

まだまだ箸が上手く使えない彼女たちにとって、お手拭きは必須アイテム。しかも今日は手羽先だからさ、マスト必須アイテム!

「お手拭きが?」と妻。
「おてふきがない」
「お手拭きがないときは、なんて言うの?」
「おてふきください」(と渋々)
「可愛く!」
「おてふきくださ〜い!」「ふぁ〜い!」と下のムスメが合わせる。

なぜ「可愛く!」としつこく言うのかだが、これは「いいかいムスメ達よ。世の中、愛嬌が大事なのだよ。同じお願いをするのでも、可愛くお願いすれば、かなり無茶な事でも通るのだ。そのテクニックが、お前達の人生を、イージーモードにしてくれるはずだ」という、ライフハックをムスメ達に教え込んでいるのであって、つまり「あーあ、俺にも愛嬌があればなあ」という復讐的、親父の小言なのである。

急いでおしぼりをふたつ用意して、席に着いてさあ、
「いただきます!」
「まって、おとうばんのごうれいする」

上のムスメが椅子から降りて、部屋の隅に行き、ピッと背筋を伸ばす。
どうやら幼稚園でやっているお弁当のお当番をやりたいらしく、息を大きく吸って、常軌を逸した声量で「それではみなさんおせきについてください! 」と叫ぶ。
当然、下のムスメもそれに習う。それを皆が待つ。
ふたりが声を揃えて「いただきます!」と叫ぶ。

私達夫婦はそれを聞いて「いただきます」と手を合わすのだが、「ではー!」と上のムスメが続けるのでまだ食べられない。

「とけいのながいはりが12にいくまでにたべおわってください」
「……」

今、6時55分なんですけど。あと5分でなんて食べ終わらないんですけど。(そう、お恥ずかしながら、ムスメはまだ時計が読めない)

「ムリ。長い時計が10まで」
「じゃあ50まで!」
一時間弱食べる気か! しかもなんで親の言葉に従わない!
「長い! 30まで!」
「じゃあ、それで」
いや、値引き交渉か!

そんな押し問答が続いてやっと、「いただきます!」 
と箸を手にする。

さあ、そこからが大変だ。

ムスメたちはひとくち食べては立ち上がってウロウロする。
口にご飯を詰め込むだけ詰め込んで、椅子から降りて、ぬいぐるみの配置を直したり、ソファで飛んだり、寝転んだり……。

これはいかん!
当然怒る。今までだって「あり得ない」って何度も怒ってきた。
しつこくしつこく説得もしたし、いかに下品な行動かも、丁寧に説明してきた。

だけどほら、説得力がないのよ。

水も、おしぼりも、醤油皿も、ビールも、
いただきますって手を合わせてから取りに行く私なのだもの。

「いただきますしたら立ち歩かない!」 
と言った先から賞味期限間近な納豆を「たべとかなきゃ!」と冷蔵庫に取りに行く私なのだもの。

「いただきますしたら立ち歩かない!」 
と言ったすぐ後に、宅配便の方がいらしてインターホン越しに「置き配でお願いします」と言いにいかなくてはならない間の悪い私なのだもの。

親の背を見て子は育つ

そんな私を見て育ったムスメたちだもの、そりゃ、立ち歩くよね。

「いただきますしたら立ち歩かない!」 
自分で発した言葉が、跳ね返ってくる。

そんな私の背中は、ステゴサウルスなみに、言葉のブーメランが刺さりまくっているのである。



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