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調和(ハルモニア)|ピタゴラス【君のための哲学#28】

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☆ちょっと長い前書き
将来的に『君のための哲学(仮題)』という本を書く予定です。
数ある哲学の中から「生きるためのヒントになるような要素」だけを思い切って抜き出し、万人にわかるような形で情報をまとめたような内容を想定しています。本シリーズではその本の草稿的な内容を公開します。これによって、継続的な執筆モチベーションが生まれるのと、皆様からの生のご意見をいただけることを期待しています。見切り発車なので、穏やかな目で見守りつつ、何かご意見があればコメントなどでご遠慮なく連絡ください!
*選定する哲学者の時代は順不同です。
*普段の発信よりも意識していろんな部分を端折ります。あらかじめご了承ください。



万物は数である


一般に「最初の哲学者」とされるのはタレスである。しかし、実際に自分のことを「哲学者である」と初めて表明したのはピタゴラス(BC582-BC496)だとされている。古代ギリシアでは様々な哲学者たちが活躍したが、ピタゴラスは他のどの哲学者とも違う個性を持っていた。
彼は若い頃に故郷であるサモス島を離れ、新しい知を求めて古代オリエント世界を旅した。エジプトでは幾何学や宗教の秘技について学び、フェニキア(今のパレスチナとシリアあたりにあった都市)では算術と比率を、カルデアに住む人々からは天文学を学んだ。一説にはインドやイギリスにも渡ったとされている。ギリシアに帰ってきた彼は、彼の思想に対して熱狂する人々を集め、ピタゴラス教団を作る。
この教団では「数」が神聖視された。例えば弦を爪弾いたときに鳴る音。この音は、弦の長さと密接に関係している。普通、弦の長さを半分にすると音は1オクターブ高くなる。この音を元の音と一緒に鳴らすと調和する。そのほかにも弦の長さの比率によって、調和する音とそうでない音がある。ピタゴラスは、世界の全ては弦と音の関係のように、比率に支配されていると考えた。そういう意味で、宇宙は天体が奏でる音楽である。
このことからピタゴラスは「万物は数である」と考えた。
数への盲信は相当なもので、あるとき教団員が無理数を発見した際、無理数という存在を認める代わりにその教団員を死刑にしてしまった。あなたが発見したピタゴラスの定理によって無理数を導けるのですが、これいかに。



君のための「調和(ハルモニア)」


「万物は数である」というときの"数"とは、単位としての"数"を指すのではない。ピタゴラスは『マトリックス』で表現されるような、デジタルとしての"数"が世界を作っていると言いたかったわけではない。
"数"とは"比"のことであり、"比"とは"関係"のことである。彼はつまり「世界は何かの事物ではなくて、事物と事物の関係によってできている」と言いたかったのだ。ここが、他の哲学者と大きく違う部分である。

古代ギリシアの哲学者の多くは「万物の始原(アルケー)」をなんらかのマテリアルに求めた。ときにそれは"火"であったり"水"であったりするのだが、そのどれもが物質としての実在に依拠した主張である。
しかしピタゴラスは違うという。私たちの世界はある法則(ロゴス)によって支配されていて、完全に調和(ハルモニア)している。そして、調和をもたらすのはあらかじめ決められた比例関係であり、比例関係を表現するこそが万物の根源であると考えられるのだ。だから、数を研究し尽くせば宇宙の全てを理解することができる。ピタゴラスはそう考えた。

世界の真の姿は実在ではなく関係である。
この解釈は、私たちの人生にとっても有用である。
私たちには世界を極めて物質的に眺める傾向がある。それはしょうがない気がする。目の前にあるのは紛れもなく物質たちであるし、自分の身体だってなんらかのマテリアルで構築されているからだ。
ただ、よく考えてみるとそこには多少の誤謬が混じっていることに気づく。例えば自分の身体一つとっても"身体"という絶対的な物質が存在するわけではなく、厳密には様々な細胞や細菌などの総合体なのだ。そこには無数の"関係"があり、奇跡的な方法で調和(ハルモニア)が成り立っている。
自分の身体が確固たる一つの存在なのではなく、無数の細かい実在の関係によって作られている。そう考えると少しふわっとした気持ちにならないだろうか。そして、これは世界についても全く同じである。
徹底的な物質的世界の見方に対して、ピタゴラス的な"関係"の解釈を導入してみる。すると「自分以外」だと思っていたものが「自分を含めた巨大な関係の一部」であることに気づくだろう。
私たちの世界は、自分を含めた巨大な関係の連続として奇跡的に調和(ハルモニア)している。そう考えると、少し世界に対して愛着が湧いてくるのは私だけだろうか。


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