えこひいきとあからさまなマッチメイク - ファイターと従業員が明かすONE Championshipについての深刻な疑惑

本稿はBloody Elbowが2021年1月6日に掲載した、『Blatant mismatches and favoritism — Fighters and employees throw serious allegations at ONE Championship』の翻訳であり、『脅迫、かん口令 - ファイターと従業員が明かすONE Championshipについての深刻な疑惑』の続編である。

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米『Business Insider』のインタビューで、ONEのCEOであり創設者でもあるチャトリ・シットヨートンは、ONEとUFCの違いについて次のように語っている。

「われわれは、誠実さ、謙虚さ、名誉、尊敬、勇気、規律、そして思いやりの価値観を称えている。われわれは国を鼓舞し団結させるようなヒーローを生み出し、ありえない逆境を乗り越えて不可能と思われた勝利をあげる選手たちの物語を語っている」

規律や名誉を称えるという言葉は、ONEのセールスポイントである。では、同社は自ら、同じ高い基準を守っているといえるのであろうか。

前編では何人かのONE Championshipのファイターと従業員によるONEに関する懸念を紹介したが、今回はその続編として、さらなる課題をあげていく。重ねて、報復に対する懸念から、取材は名前を明かさない条件で行われている。

マッチメイクとカネの問題

ONEはすばらしいファイターを国内外から獲得している。しかし、ある選手とマネージャーは、ONEが事業拡大を目論む国の出身選手を偏重していると主張している。

エジプトやインドのような国のファイターは、ほとんど経験や準備がない状態で連れてこられ、プロテクトされていると見られる実力者に当てられている。

経験の浅いファイターを起用した例として広く知られているのは、カイロのナスルシティにあるエジプトトップチームの面々である。そのチームからは何人もの選手がONEに出場したが、結果的にONEでの戦績はチームトータルで現在1勝22敗である。ONEは現在もこのチームの選手を常にブッキングしているが、勝利を収めたのは2014年のヒシャム・ヒバ(ONE戦績1勝1敗)だけ。シェリフ・モハメドは戦績0勝4敗と、このチームで最多黒星を記録している。

エジプトトップチームのファイターを倒して戦績を改善している選手の中には、王者アンジェラ・リー(2回)やアウン・ラ・ンサンといったONEのスター選手、UFCのベテラン秋山成勲、元タイトル挑戦者のアギラン・ターニー(2回)などがいる。

ある選手はMMAのトレーニングすらしたことがない状態でブッキングされている。その選手は母国でキックボクサーとして有名だが、残念ながらMMAの知識は全くなかった。

この選手のコーチは、試合がグラウンドになってピンチになったら、とにかくタップしなさいと教えただけだった。その選手のファイトマネーは750ドルで、セコンドは一人だけしか認められなかった。

こうした経験不足の選手とも、ONEは簡単には抜け出せない長期契約を結んでいる。この記事を書いている時点で、その選手は自分が署名した独占契約がいまでも有効なのかどうか、はっきりわからないという。しかし、ONEは選手に生涯のコミットメントを求める。ある情報筋は、「彼らはこういう選手が他のプロモーションと契約できないまま、ONEで死んでいくことを望んでいる」と語っている。

選手が負ければ負けるほど、そのチームから多くのチームメイトが招聘されていく。あるONE社内の情報筋は、こうしたファイターは母国でのONE人気を高めるのに役立つと同時に、ONEが売り出そうとしている経験豊富なタレントを上げるための当て馬としても使えるとみなされているという。この関係者は、「インドとエジプト2カ国の選手が、囚人のようにリングに立たされているのは悲しいことだ」と語っている。

アジア以外の国の選手も、金とマッチメークの面では、貧乏くじをひく立場に置かれているかもしれない。2つの情報筋が、これらの選手は勝ち星や人気、カードでのポジションに関係なく、ギャラ交渉が非常に困難であることが多いと明かしている。

対照的に、経営陣にひいきされていると思われる選手は、ファイトマネー以外に、さまざまな金額の月給が支払われているとされる。ある情報筋によると、月給支給組には元2階級王者マーティン・グエンとアウン・ラ・ンサン、そして元UFCファイターのブランドン・ヴェラらが含まれているのだという。

BloodyElbowでは各選手に連絡を取り、ンサンが実際にONEから「ファイトマネー以外の月給」をもらっていることを確認した。グエンはコメントを拒否し、ヴェラはこの記事の執筆時点で回答がない。

Evolveとの関係

情報筋によると、Evolve所属選手には有利なマッチメークが与えられているという。

ONEとEvolveは共にチャトリ・シットヨートンが設立し、シットヨートンが現在会長を務めている。このことには利益相反の可能性があるのではないかと疑われている。

ONEとEvolveの両方に所属していたことがあるUFCファイターのハーバート・バーンズは、かつて両社への不満を公言していた。彼は二つの組織が同じ人物によって所有され、運営されていることは問題だと考えているが、ONEが地元メディアを "コントロール "しているため、この問題は十分に取り上げられていないと主張している。

「彼らは(アジアでは)現地メディアをうまくコントロールしているので、(ONEとEvolveの)話をするのは難しいというのが本当のところだ」とバーンズは語っている。

ONEのインサイダーは、もしUFCが同じような枠組みを持っていたとしたら、これは大きな問題になるだろうと指摘している。「デイナ・ホワイトが自分のMMAジムを持っていて、その所属選手に弱い相手を当てて、その選手を『世界王者』として宣伝するようなものだからね」

Evolveはアジアで最もすぐれたジムの一つであり、世界トップクラスのインストラクターや人材を揃えている。このジムでは、若くてエネルギッシュな従業員を募集するために、まるでアムウェイの広告のような採用動画を公開しており、”世界的なビジネスマン”で”たたきあげの起業家”と一緒に働く機会があることを売り文句にしている。別の動画では、モルディブやプーケットでの休暇の模様など、スタッフが楽しい時間を過ごす様子が紹介されている。ジムでの採用については、「家族の一員になる」「日常の煩わしさから解放される」「人生の中で恵まれていない人たちの可能性を引き出す」というお得意の専門用語が使われている。

社内のあるスタッフは、こうしたEvolveの動画を「ねずみ講のプロモ」である表現し、Evolve関係者は「洗脳された集団であり、金儲けのスキームだ」と述べている。「まるでカルト教団のようだ。ほぼ全員がそんなふうなんだ」

「そこで練習している会員のほとんどは、会社の役員や大物経営者など、大金を稼ぐ社会人である。だって料金が安くないからね。そして、これがチャトリがこうした人々と接触する方法なんだ。チャトリは金を持っていて、このジムを『シンガポールで唯一、世界チャンピオンからトレーニングを受けられるMMAジム』に仕立て上げた。たいしたギミックのマーケティングだよ」

このスタッフはまた、次のようにも語っている。「ONEはEvolveであり、EvolveはONEなんだ。チャトリはEvolve関係者ほとんど全員を利用している。トレイナーだけではなく、会員も含めてだ」

「チャトリにとって唯一、儲かっているビジネスは Evolveだろう。それでも、こういう事業では超金持ちになれるわけではない。それなりに利益は出るが 大金持ちにはなれない。だからシンガポールでは、多くのジムが閉鎖されているんだ」

選手の戦績を底上げするためのえこひいきなマッチメークの疑惑があるとはいえ、Evolveに素晴らしいアスリートがいて、ONEや他団体でチャンピオンを排出していることは確かである。

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BloodyElbowはこうした疑惑について、ONEに何度も連絡を取ったが、公式な回答は得られなかった。「規律」と「名誉」の本拠地であると自画自賛するアジア最高峰の組織ONE Championshipにとって似つかわしくないこうした疑惑を、自らきちんと説明できるのかどうか、注視していきたい。


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