脅迫、かん口令 - ファイターと従業員が明かすONE Championshipについての深刻な疑惑
本稿はBloody Elbowが2020年12月9日に掲載した、『Threats, gag orders and more — Fighters and employees throw serious allegations at ONE Championship』の翻訳である。
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アジアMMAの大物選手や新進気鋭のファイターがこぞって目指す団体として2011年に設立されたONE Championship。
それから約10年、ONEは10億世帯で視聴可能であると主張するまでに成長してきた。中国本土に進出し、海外他団体と提携し、MMAだけでなく、ムエタイ、キックボクシング、さらにはE-Sportsも手掛けている。
ONEは、優れたフリーエージェントの獲得にも成功している。元UFCチャンピオンのミーシャ・テイトをバイスプレジデントに迎えたほか、ヴィトー・ベウフォート、デミトリアス・ジョンソン、エディ・アルバレスといったUFCレジェンドや元王者を獲得してきたのだ。
しかし、ONEの主張の多くには疑問が残っている。BloodyElbowはこれまでも、ONEの財務状況の様々な側面を報じることで、根拠がないように見える力強すぎる主張や報道を検証してきた。投資家から巨額の資金調達を自慢げに発表し、"軍資金 "が豊富であると主張しながらも、巨額の損失を出し、最近ではスタッフの大量解雇を行っている。
世界的パンデミックの状況下での人員削減は、それほどの異常事態であるとは言えないが、長年にわたり会社の財務状況の健全性に疑惑が持たれてきたことに加えて、このタイミングでのレイオフには好奇の目が向けられた。
ONEに関しては、これまで長年にわたり、ファイターや元社員から深刻な苦情を多数耳にしてきた。そこでBloodyElbowでは、選手や元社員など4名から、ONE Championshipの経営陣が不公正な行為をさまざまに行っていること、ファイターの安全性を無視していること、えこひいきの横行、あからさまなミスマッチ、そして驚くほどの賃金の安さについて話を聞いた。また、契約延長に関する問題や、内部事情をリークした者に対する懲罰についても明かされた。
なお報復が懸念されることから、取材は名前を明かさない条件で行われている。
いっさいの批判を許さない経営方針
一部の元社員や選手は、ONEへの不満を表明したくても、それに対して法的措置があるのではないかと恐れている。ONEが本社をおいているシンガポールでは、裁判費用が非常に高額で、財力の少ない方が結局は負けることが多いことからである。
ある元社員は、契約中の選手が不満をぶちまけようとしないのには理由があると述べている。
「ONEはしばらく前に、一部の認められたマネージャーとしかビジネスをしないことを発表した。あれ以来、新たに契約する選手は、公の場で会社のことを悪く言ってはいけないという契約書にサインしなければならなくなっている」
あるファイターは契約のオファーを受けたが、次のような理由で断った。
「金額がクソだったから。しかも独占契約だという。ちゃんと試合を組んでくれるという保証もない」
プロモーター側に試合を組む義務もないまま、独占契約になっているため、個人事業主である選手は契約に閉じ込められるばかりで、その間に他の方法で稼ぐことができず、しかもそのことを話すこともできないのだ。
BloodyElbowでは、ONEがある選手に送った文書を入手した。その選手のSNSへの投稿に対して、法的措置を匂わせる内容だった。ONEは、さまざまな媒体にプレスリリースを送付し先制攻撃をすると脅している。さらに、その選手が格闘技以外で就いている仕事の勤務先にまで、悪い情報を流すことを匂わせてもいる。その上で、ONEに対する公開謝罪を要求している。
「知名度の低い選手の中には、会社と揉めている者もいる」とある社員は明かしている。「チャトリは自分についての悪い記事を一つでも読むと、駄々っ子のような反応を見せるんだ」
契約で揉めている選手の中には、ごくわずかな増額で契約延長を迫られることへの不満を抱いている者もいる。ファイターに対して、ONEは契約を凍結することができるため、契約を拒否すると無期限に飼い殺しにされてしまうのだ。
自ら飼い殺しにされていることを公言している選手に、かつてONEとEvolve MMAの両方に所属していた現UFCファイター、ハーバート・バーンズがいる。バーンズはONE在籍時、Evolve MMAを離れて別のチームでトレーニングをしようとしたところ、契約を2年間凍結されたと主張している。
バーンズはMMA Fightingに次のように語っている。「私が(チームを)去る時に、Evolveの創設者(チャトリ)とも話をした。こちらとしては円満離脱ができたと思っていたし、これからベルトを目指して戦い続けるつもりだった。そこから2年間、彼らは『今月か来月には試合を組む』と言い続けていたが、結局試合のオファーは来なかった。私はずっと試合を待っているばかりで、金銭的に干上がってしまったんだ」
薬物検査疑惑
2019年、元UFCのウィル・チョープが、ONEの薬物検査に対するアプローチを批判した。ONEは先に、WADA基準の薬物検査を実施すると発表していたが、WADAはONEが加盟団体ではないことから、ONEのために検査を行うことはないと説明していた。
ある選手は、5年以上ONEで戦ってきたが、薬物検査を一度も受けていないと語っている。ONE歴の長い別の選手も同じような経験を明かしており、これまでの試合で薬物検査は一切行われていなかったと語っている。
今日に至るまで、ONEはWADA基準の薬物検査実施について、それ以上の説明を一切行っていない。
チケット販売の謎
ONEのチケット売上についてはこれまでも疑惑が持たれていた。SNS上では、文字通り無料チケットの束を持ったファンの写真が流れたこともあった。社内の情報筋は、公表入場者数には無料チケット分が含まれているはずだと明かしている。
「ソールドアウトなどという発表はまるでデタラメ。一人のスタッフが毎回いったい何枚のチケットを配っているか想像できますか? 最大50枚ですよ」
ある幹部もまた、チケットの束は常時配布されていると認めている。
「ええ、会場に関係なく、私の知る限りでは社員1人につきチケット50枚までです。国によってはもっと多いかもしれません」
インスタグラムの投稿でも、様々なイベントで招待券が束で、もしくは一枚づつ配られていることを示す写真が多数掲載されている。
BloodyElbowがかつて報じたとおり、ONEの収益にとってチケットの売り上げは必ずしも重要な部分を占めていない。過去3年間、ONEのイベント数はほぼ倍増しているというのに、ONEのチケット収入は減少を続けているのだ。
市場シェアについての誇大広告
ONEが誇大発表していることは、チケット販売だけではない。ONEはまた、団体の規模やアジア市場でのシェアについてもたびたび過大な主張をしてきた。
最初の数年間は、同社はすべてのプレスリリースで「アジアで90%以上の市場シェア」を持っていると主張していた。ここ数年のリリースでは「アジア史上最大のグローバルスポーツメディア」「世界最大の格闘技団体」と謳っている。
かつてこうした発表を担当していたのが、元ONEのPR責任者であるローレン・マックである。ONEはあらゆる分野で、UFCのことも他のMMA団体のことも、打ち負かしてきたと公言してきた人物である。
「我々のブランドはアジアでは実際にUFCに勝っている。それはPRではなく、真実なんだ」とマックはONE在籍中に語っていた。「どの指標を見ても、アジアではUFCに勝っている」。
そんなマックは最近、ONEを離れてPFLの仕事に就いているが、言うことが変わってきている。
「ここ数年のUFCは、アジアで98パーセントのシェアを持っていたと私は見ている」とマックは7月にMMA Fightingに語っている。「それは、最初にアジアに進出したのがUFCだったからで、しかも中国人のチャンピオンがいるから中国市場にも進出することができたわけだ。彼らは素晴らしい仕事をしてきた。その後に続くのは、多くの『後追い』団体だということになろう」
疑惑の視聴者数・視聴率
ONEは、アジアの10億世帯以上で視聴できるのだということが常に主張されてきた。大変な数である。しかし、留保すべき点がいろいろある。つまり、これほど多くの視聴者が視聴可能だからといって、ブランド認知が高いとか、実際に視聴する消費者がいるとは限らない、ということだ。
ONEはまた、「歴史上最も多くの人に視聴された格闘技イベント」といった主張をするなど、各大会で2500万から8500万という視聴者数を得ているという大胆な発表をたび重ねてきた。ONEはニールセンのデータを引用しているが、ニールセンは方針上、こうした数字を承認も否定もしていない。
余談ではあるが、2人の情報源が、懐疑的になる理由を明かしてくれた。「シンガポール人にONEをテレビで見るかどうか聞けば、たぶんノーと答えるでしょう」と、業務に精通している幹部は述べている。シンガポールでONEは地上波ではなくケーブルテレビで放送しているのだ。「インドネシアの人はまだ、ONEのことを聞いたこともないでしょう」
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