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トゲモミジガイからツムギハゼへ

三保半島におけるトゲモミジガイにおけるTTXの謎が解明できないまま、研究は同じくTTX保有生物であるツムギハゼに対象を移してゆきました。正確に言えば、もともとこの研究室では、古くからツムギハゼを対象としたTTXの研究をしていましたので、私自身が参画したのがトゲモミジガイからだったので、表題のような変遷であるとの表現に至っております。ただし、私が携わることで、この研究はこれまでに、考えられ無かった領域へ突入してゆきます。

それまでのツムギハゼのサンプリングは、主に西表島の河川の浅瀬に生息する個体を網によって採捕するものでした。ここでサンプリングできる個体の大半は、海から川に遡ってきた若齢個体が多く、比較的毒量の高い個体は少なかった(時期にもよりますが)と記録されております。当然、年差や成熟度の違いは必然的にでますので、一概に毒量が少ないとは言い難いのですが、その後サンプリングされる川から下降した個体に比して、相対的に少ないと表現した方が良いかもしれません。

では、何故下降して海にいる個体の毒量が高いのでしょうか。それは、繁殖に向けて毒量の増大が示唆されるからなのです。毒性生物に無毒期(毒量が極端に低い時期)があることは、生物学的に知られる事実だと認識をしております。繁殖の際に、卵に毒を移行させて、卵が食べられないようにするためと言われております。なので、繁殖期になると生殖腺における毒量が高くなります。

研究の過程で、全ての個体が下降して海で産卵するわけではない事も分かっています。ただし何故、降海型と残留型があるのかは不明です。思い付きを書き留めておくならば、サケ・マスのような法則ではないのだと考察しております。かなり曖昧な思考ですが、どっちでも良い、あるいは川でも海でも産卵できるのだと考えます。
では、何を基準に降りるか留まるかを判断しているのか、という疑問に突き当たります。しかし、それも証明する方法は現在持ち合わせていませんが、予測としてはTTXの産生細菌を取り込み易い場所、あるいはTTX関連物質の多く存在する場所を選択しているはずです。TTXの産生細菌は、数種類が知られておりますが、ツムギハゼはV.alginolyticus(斜体にならないので、研究者の方々はご容赦ください)を体内に保有することでTTXを産生しています。また、産生や産卵に適した水温も考慮すると、外気温の影響を受けやすい河川における産卵は、北上するに従って、残留する個体数が減少する原因となることが示唆されます。続きは、次回に。

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