この街には呪縛霊が多すぎる件

この街の中には
思い出の風貌をした呪縛霊が
たくさん住み着いている。
どこもかしこも、何をしていようとも、
それは確かにそこにいる。
留まってて、成仏なんて言葉とは
無縁であるというような表情で
私を見つめている。
私もそれを嫌いになれない。
夜中にソワソワしながら
駆け抜けたコンビニ、
新しくホテルが建ったせいで
お月様の片鱗すら
見えなくなった公園のブランコ、
あの人と2人で歩いた通学路、
いつも大人しく眠っている
ももちゃんという犬、
神社の境内を潜り、
開かれたお祭りの匂いや、
汗ばんだ手、
一緒に見るはずだった花火、
逸れてしまったけれど。
どこまで行っても、
私を見てる、
「〇〇らしくないね、」と
私を俯瞰して見てる。
夜道をたまにお散歩するのだけれど、
音楽と照らし合わせて
歩いてしまうともうダメである。
思い出が今の私をじっと見つめていて、
悪いことをしているような気分になる。
たまに触れてあげないと、
拗ねてしまうような
情けなく幼い思い出という名の呪縛霊。
成仏してくれないと困る理由が
できたにも関わらず、
いつまでもこの街の中で大きく息を吸い、
吐き出す。
知っている空気を肺いっぱいに詰めて
確信するかのように吐き出す。
安堵する。全てここにあると。
私はどこまでも馬鹿であるから、
温度も、匂いも、風も、空も、
微睡も、すべての蟠りも、
ここにあることを知っているから
また、今日もアルバムを捲るように
この街を練り歩いている。
呪縛霊に「こんばんわ、」と声をかけて
くだらない夜を過ごしているのだ。

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