『絵文字短歌』から考える抽象から具体への再解釈

これは私が去年の美学の授業の課題で『本講義での内容にもとづき、具体的な作品を取り上げ、その作品における「詩的なもの」に ついて論じなさい』という課題が出たところから始まる。如何せん好きなものは沢山あるが自分が論じることができるかと言われると微妙に自信がない。しかし絵文字短歌となれば多少は語れるかもしれないと思った。ついでに教授にこんパンを布教したい。というわけでこんにちパンクールの『絵文字短歌』シリーズを取り上げて書いた。本当は絵文字全体について取り上げようと思ってたのだが、どうも時間が無いせいで絵文字短歌をひたすら熱弁することとなった。
実際の文をほぼそのまま転載し、推敲も行っていないのでガバや短歌界隈の人から見た時がこれはどないやねんと思うこともあるかもしれないがご了承いただきたい。
文字数の関係で取り上げたのは田野さんの短歌だけですが、全員の句が好きです。ジョンともさんの『アメリカに行ったあいつのお土産は俺の想像超えるチョコかも』が特に好きです。

1、はじめに

このレポートでは、『絵文字』を用いた作品から考えられる、抽象的なものを具体的なものとして解釈し直すことについて論じていく。今回取り上げる、新進気鋭の大喜利YouTubeチャンネルこんにちパンクールの『絵文字短歌』シリーズにある、絵文字という静的かつアイコニックなものを活かすことから読み取れる『詩的なもの』を考えていく。


2、こんにちパンクールの『絵文字短歌』とそこから読み取れる「詩的なもの」

絵文字とは、政府広報オンラインを参照すると、株式会社NTTドコモのiモードの開発がきっかけで誕生した文字の種類である。最初は携帯の容量などの問題で12ドット×12ドットというシンプルな176種類からはじまり、現在では3000近くまで追加されながらUnicodeという世界共通の文字規格に採用されている。絵文字の利点として言語情報に感情のニュアンスを付け足す形でコミュニケーションの手助けをしてくれることがあげられ、文字だけでは伝えきれなかったことに由来するディスコミュニケーションを防いだ。2016年からニューヨーク現代美術館に初代の絵文字が収容されている。など世界的にも絵文字は普遍的な文字表現として使われている。

その絵文字をただの文字表現のひとつではなく芸術の材料として利用する方法は多くみられる。そのなかでも、今回は『絵文字短歌』について触れることにした。

まず取り上げる『絵文字短歌』は、2021年に発足し現在1万人ほどのチャンネル登録者数であるYouTubeチャンネルであるこんにちパンクール【大喜利】であげられている動画のシリーズのひとつである。絵文字短歌は、最初に短歌に沿うように並べられた絵文字を他のメンバーが自由に解釈して詠み、その後絵文字を配置したメンバーが実際に想定していた句を発表するというものが基本的な流れである。チャンネル名にもあるようにメインコンテンツは大喜利であり、グループメンバーのほとんどが短歌を作成した経験がない(1人のみが雑誌に寄稿経験あり)。それにも関わらず大喜利で培われたと思われる自由な短歌の発想は目を離しがたい。

一例としてとりあげると、

「🐉📞 📞🤷‍♂️🈸❓」

という六種類の絵文字をとりあげる。これを他のメンバーは自由に解釈し、その結果

「ドラゴンが思い立って問い合わせ『わたしは減税対象か?』」
「『えー、竜です 簡単な竜一文字です』『そう申されてもまず竜がですね』」
「TELドラゴン チケットぴあで予約だぞ『ヴォウオゥヴォーオ』『ヴォウオゥヴォーオ?』」
「TELドラゴン もしもし、君は『もしもし』を分かるドラゴン?わからぬドラゴン?」
「(プルルガチャッ)『もしもし誰だ?』『ドラゴンだ』ドラゴンの用わからなすぎる」
「ご予約を『りゅう』で承りました どちらの『りゅう』の漢字でしょうか?」

とそれぞれ詠んだ。この絵文字に想定されている句としては

「ドラゴンに電話で聞いた伝説は聞き返したい漢字が多い」

というものであり、同じ絵文字の配置・内容でも句の読み取り方が変わってくることがわかる。絵文字の数は上記の例のように六個ほどの場合もあれば十個を超える場合もある。もちろん一行に収まらない場合もあるため、表現できるパターンは想像の数だけ存在するといっても差し支えないだろう。

では、ここから読み取れる「詩的なもの」とは一体何か。私は絵文字という固定され変わることのない文字の配列から多くの具体的なパターンに再解釈していくことだと考えた。用意している絵文字はバージョンやソフトごとに多少は異なるものの構成内容は同じである。句と絵文字のどちらを先に作るかは作者ごとに異なるが、他のメンバーは絵文字を見てから初めて句を考えることになる。即詠と呼ばれるこの技術で詠まれる句らは、同じ「竜と受話器と人」の絵文字から「名前の漢字確認」「チケットの申込」「減税対象かの問い合わせ」「伝説の電話インタビュー」など様々なパターンに詠みとることができる。多くの人に伝えるために普遍化した絵文字はただ無機質に並べられているはずだが、抽象的な配置である絵文字を具体的な内容の含む短歌というレトリックを多分に活用した17音に納める詩のかたちを持つ芸術作品として解凍していく様子が伺える。これこそ日本語、あるいは言語そのものの持ちうるコンテクストに由来する「詩的なもの」でないのかと考えた。

3、おわりに

今回は短歌を絵文字で抽象化し、それを新しい短歌として読み上げる『絵文字短歌』について取り上げた。絵文字が使われる芸術表現は他にもあり、例えばTwitterで好評となった結果電子書籍での発売が決定したキョウソちゃん氏の『EMOJI MANGA』シリーズなどが挙げられる。日本発祥の絵文字であるが、多数ある文字の種類のひとつで収まらず芸術の材料として人々の表現を広げる一助となることが期待される。

また、これは余談であるが今回紹介したこんにちパンクールは先述の通り大喜利がメインコンテンツであり、大会で優勝した経験もあるアマチュアの大喜利プレイヤーが多角的な視点から大喜利をしていく様子が魅力的である。お題がない状態で大喜利をしてみたりメンバーの年表を穴埋め形式にしてそこで大喜利を行ってみたりといった、大喜利に貪欲な姿勢は一見の価値があるというところでこのレポートを締めたいと思う。

参考文献

“📱👱‍♂️奥深い絵文字短歌をやってみた詠んで詠まれて不思議な気持ち.” YouTube, こんにちパンクール【大喜利】, 2022-10-26, https://www.youtube.com/watch?v=ffbwYC8blNk (閲覧日:2023-1-15)

“📱👱‍♂️引き続き絵文字短歌を詠むことで各自の個性が出でるものかな.” YouTube, こんにちパンクール【大喜利】, 2022-11-09, https://youtu.be/zADgScmiZys?si=cHN8sWYd-QEzFu7b (閲覧日:2023-1-15)

“📱👱‍♂️久々の絵文字短歌に待望の鈴木ジェロニモさんが登場.” YouTube, こんにちパンクール【大喜利】, 2023-11-01, https://youtu.be/GEcUcf4wDqk?si=r_aHBF4-w0FlkHNZ (閲覧日:2023-1-17)

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