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「公共工事の品質確保の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」についての調査(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い)


 今回は国土交通委員長である長坂康正衆議院議員(自民)が提出した公共工事の品質確保の促進に関する法律等の一部を改正する法律案についてです。この提出法案は「公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下公共工事品確法)」・「公共工事の入札及び契約の適正化に関する法律(以下入契法)」・「測量法」の3法案まとめて提出されたものになります。
 建設産業に関する法改正は今国会でも当該法改正案以外にも提出されています。建設業に限ったことではありませんが、「2024年問題」と呼ばれる人不足問題は以前から指摘されていますが、本年(令和6年)4月から適用される「働き方改革関連法」に対応しなければなりません。

 建設業が抱えている課題の解消に取り組むための法改正というのが今回の目的になります。今回の法改正は法律名にもあるように、主に公共工事に関する内容です。

今法案 概要より抜粋

 今回の法改正は、今国会で提出された「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」に関連する内容が多分にあるため、そちらの関連法案も参照していただければ、政府及び今回の提出者がどんな施策を目指しているのかが見えてくると思われます。今回の法改正案を含めた、既に政府が提出している建設業法と入契法の一括改正案と合わせて「第3次担い手3法」と報道されているものです。

 今改正案の内容は大きく分けて4つに分かれます。概要を確認するだけでも前述した「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」に関連する内容になっている事はお分かりいただけるでしょう。重複しているのは公共工事に関する分野に適用するための法改正であります。

今法改正案 概要より抜粋

 今回の法改正の概要に記載されているのは大半が「公共工事品確法」になります。今回は多岐に渡る改正案の中から、特に問題と考えられる点に焦点を当てていきたいと思います。


①労働環境の改善(改定)で起こる事

 概要に示されている通り、この項目では国・地方公共団体・受注者の義務規定が拡大されます。

今改正案 概要より抜粋

 公共工事品確法の改正では第4章「公共工事の品質確保のための基盤の整備等」が新設されます。同章の各条項を国と自治体の努力義務として規定され、国には労務費や賃金、休日の実態調査とその結果を踏まえた施策の実行公共工事に関する技術の安定的な研究開発の推進と民間事業者間の連携促進を求める事が条文化されます。担い手の確保のための環境整備に関しても、職業訓練法人への支援や高校と業界の連携、多様な人材の確保を促進する努力義務が条文化されます。

 この点は現在の建設業が抱える問題に対応するために作られたものでしょう。現在の建設業の課題として指摘される点は主に2点です。
 1点目は人手不足です。少子高齢化は社会全体の問題であり、建設業に限った事ではありませんが、建設業界はとくに職人の高齢化がすすみ、人手不足は深刻だと言われています。

国土交通省「建設業の現状と課題」より抜粋

 国交省が発表している「建設業の現状と課題」をみると、建設業で働く労働者の約34%が55歳以上であり、29歳以下の労働者は全体の約11%と将来への大きな課題であることは間違いありません。

 2点目は労働環境です。建設業は他の業種よりも労働時間が長い傾向があるとの課題があります。厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和5年分結果確報」によると、令和5年の建設業の月間実労働時間は、164.3時間に及びます。全産業を示す調査産業計の136.3時間と比べると、建設業で働く労働者の就業時間は長いことがわかります。

 建設業では労働時間を減らすと工期が遅れ、売り上げの減少につながりやすいというリスクがあります。多少無理をしても納期を守ろうという意識から、週休2日制がなかなか進んでいないことも課題のひとつです。このような背景から、労働環境の改善を目的とした建設業に関する法改正が今国会でなされています。

 前述した通り、今回の法改正にて、国には労務費や賃金、休日の実態調査とその結果を踏まえた施策の実行が明記されます。これによって起こりえることは工期が延びていく事です。国土交通省が発表した「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」という資料に労働環境の改善に関する資料があります。

国土交通省「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」より抜粋
国土交通省「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」より抜粋
国土交通省「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」より抜粋

 令和4年以降、労働環境の改善を図った結果、施工時間は大幅に減少しました。また業務時間外の業務に関しては連絡や打ち合わせも含めて行わないことなど、現場環境の改善に向けた取組を国土交通省が定めた実施要領には盛り込まれており、逆に言えば労働してはいけないという規制が強化されています。これは全て工費に跳ね返ってきます。一方、受注業者の書類作成の業務負担は大幅に軽減されるのは非常に良い点ではあります。国土交通省の発表している「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」に諸経費の改定価格が記載されています。詳細について知りたい方はこちらをご参照ください。

 公共工事に費やされる費用は、国や地方公共団体が保有する財源であり、基本的に国民の税金であり、その税金を使って工事を行うこととなります。つまり、税負担の増加につながります。また、工期の延長は経済全体にも大きな影響を及ぼします。例えば道路工事です。工期が延びれば交通渋滞などの原因になります。公共工事だけでなく道路利用者の負担もその分増える結果となるわけです。建設業に携わる従事者の労働環境に配慮は必要ですが、これは労働法制を基本として守ればよいのであって、新たな法整備によって工費の増加や工期の延長につながる法改正が与える影響は決して小さいものではありません。公共工事に係る個別法でこのような規制をつくることで社会全体にどれほど影響を及ぼすのか考慮した上で作られたものでない事が分かります。

 品質の確保という観点はいくら公共工事だからといっても無視するわけにはいきません。この点について、今回の法改正によって適切な価格転嫁対策として労務費にしわ寄せが及ばないようにすることが盛り込まれています。労務費とは、人件費のうち製品を生産するためにかかった部分の費用を指します。

労務費のイメージ
「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」の概要より抜粋

 現場で働く従業員の待遇確保はもちろん大切ですが、政府が規制する事でしょうか。簡単に言えば人件費の確保ですが、これはそのまま価格転嫁するという事です。人件費の引き上げは企業にとっては非常に厳しい課題です。しかし、公共工事の財源は税金であり、受注者からすれば確実に得られる利益であり、必然的に公共工事を受注したい企業は増加します。
 ここからは筆者の憶測(妄想の域)ですが、このような規制が拡大すれば、受注業者は確実に利益を確保できる公共工事を希望するようになり、本来民間で建設される施設や建造物等までもが公共事業の工事として拡大していき、財源確保のために更なる税負担が国民にのしかかってくる未来を考えてしまします。
 都市部はまだしも、現在の日本において地方の産業は衰退の一途であり、公共事業が一番の産業である場合も少なくはありません。このような現状のまま、一見聞こえの良い働き方改革や処遇改善は税負担を増大させる愚策でしかありません。

②無駄になる人材育成

 公共工事を発注するのは国や地方公共団体です。公共工事で発注するものは決して安いものではありませんし、税金で発注する訳ですから厳しい目をもっていなければなりません。例えるなら、物件や車など高価な買い物をする時には慎重になると思いますが、その際判断となる情報を集めた上で自身が納得して購入するでしょう。公共工事となれば尚の事、情報を持って判断しなければなりません。今回の法改正では「公共工事の発注体制の強化」があります。

今改正案 概要より抜粋

 今回の改正案で新しく設けられる第22条5項及び第23条関係に「発注関係事務に関する支援等」について明文化されます。この新しく設けられる条文は概要欄にある「発注職員の育成支援」にあたる箇所になります。発注業務に関わる職員が確かな知識・情報を獲得する事は非常に重要です。しかし、この新設される法改正は恐らく大きな期待は持てないでしょう。その理由は公務員の人事異動です。地方公共団体の職員は定期的に異動する慣行があります。

 上記のブログをご覧になっていただければ公務員の人事異動のサイクルが分かりやすいかと思います。このブログでも書かれているように、概ね3年~6年程度で次の部署へ異動するケースや様々な部署を経験することで幅広い知識を身につけることを期待するため人事異動をおこなうケースが多くあるようです。幅広い知識を身につけることは確かに大切ですが、発注業務に携わる職員を折角育成しても異動してしまったら、教育にかけるコストは無駄になってしまいます。もちろん引き継ぎ業務はあるのでしょうが、引継ぎでこなせるほどのものなのでしょうか。であれば育成など必要ありません。育成が必要なほど、知識・情報が求められる業務であるため、研修会に参加が促進され、講習会が催されるのです。もしこのような状態が法改正で常態化するのであれば税金の無駄遣いになります。この法律案の新設により意味のある税金の使い方がなされるのか厳しい目で監視しなくてはなりません。

③今改正案について思うこと

 今回扱った「公共工事の品質確保の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」ですが、衆議院での議案受理は令和6年5月22日、衆議院審議終了日は令和6年5月23日となっており、全会一致で可決しました。衆議院での委員会付託はなく審議省略となっています。ここまで問題点を指摘してきましたが、審議省略のまま全会一致で衆議院を通過したこの改正案ですが、本当に審議せず可決させていいものでしょうか。税金でおこなわれる公共工事に関して、これだけ社会に影響を与える法律案を全会一致で通した衆議院の国会議員の方々はどのような根拠で賛成したのでしょうか。審議省略で通過した法案が施行され、意味のある税金の使い方がされないとしたら有権者として憤りを感じるのは自然ではないでしょうか。法案の中身とは別ですが、このような審議が慣行となっているのであれば、国会議員の皆さま方にはもっと真摯な姿勢を求めたいと思います。

④質問したい事

・今回の改正案では受注者における労働環境(処遇)の改善が明記されますが、今年度4月から適用される「働き方改革関連法」に基づきおこなわれるものと理解してよいのか。また、国土交通省「令和6年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」をみると、既に公共工事等の現場では実作業時間は減少しているが、実作業時間が減少するという事は工期が延び、例えば道路工事など、インフラに係る部分でいえば交通渋滞の原因やその他移動を伴う利用者の経費にも影響を及ぼすことになる。そのような観点から、労働環境に関する規制が社会に全体に与える影響は決して小さなものではない。今回の法改正に伴い、社会に与える影響をどのような観点から、どのように検証し、法改正に踏み切ったのか、見解を伺いたい。
 
・公共工事の発注に携わる発注職員の育成支援をおこない、発注者として適切な能力を育成する事は必要な事である。しかし、地方公共団体を中心に公務員は定期的な人事異動があり、育成した人材が他部署に異動してしまえば、育成にかけたコストは無駄になってしまう。もちろん引き継ぎ等おこなえるものもあるが、人材の育成はどの分野でも容易ではなく、また一から育成しなくてはならない手間が発生するのではないかとの懸念をもつ。今回の法改正と現在の公務員の人事サイクル等の慣行を鑑みた際、法の目指す目的の達成が期待できないと考える。法律の目的と公務員の人事異動に関連性について見解を伺いたい。
 
最後までご拝読いただきありがとうございました。

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