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特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律の一部改正についての調査(政治家女子48党浜田聡参議院議員のお手伝い)

文部科学省から今国会に提出された特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律の一部を改正する法律案について、調べた限りから所感を述べていきたいと思います。
 
今回の改正案の目的は以下の通りになります。
①国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構が設置する放射光の研究施設(NanoTerasu ナノテラス)を追加するものとする
②国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構に放射光の研究施設(NanoTerasu ナノテラス)の一部建設と維持・管理をおこなわせるものとする
③放射光の研究施設(NanoTerasu ナノテラス)の利用者選定及び支援を登録施設利用促進機関がおこなえるようにするものとする

 量子技術研究に関する施設を大学や独立法人、企業が利用できるような環境づくりのための法改正という主旨になります。量子技術研究は我々の生活を変えていく新たなイノベーションの可能性を秘めており、我が国としても世界各国に後れをとることなく、研究・開発が進むことでその分野においてけん引できる存在になることを期待したいものです。

①NanoTerasuと量子技術

 量子技術という言葉は日常生活ではあまり馴染みがないと思います。量子技術とは量子力学で記述される原子、電子、光子などの物理現象について、これまで人類が利用困難であった量子特有の性質(重ね合わせ、量子もつれなど)の操作・制御、利活用する技術のことです。量子技術は、将来のコンピューティング性能の飛躍的な向上をもたらす量子コンピュータ、従来よりも格段に高感度な量子計測・センシング、高セキュアな量子セキュリティ・ネットワークなどにより、創薬・医療、材料、金融、エネルギー、生活サービス、交通、物流、工場、安全・安心などの多様な分野において、経済・社会等を飛躍的に発展させる鍵となる革新技術とされています。

 文科省が令和4年4月22日 統合イノベーション戦略推進会議決定で発表した「量子未来社会ビジョン概要」に量子技術がどのように社会で活用されるか具体的に書かれているので詳細は省略しますが、今回の改正案は量子技術の研究基盤強化を図るための拠点として作られたNanoTerasuを「特定先端大型研究施設」に追加することが盛込まれています。次世代放射光施設であるNanoTerasuは官民地域パートナーシップのもと、国の主体である国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構と、一般財団法人光科学イノベーションセンターを代表とする地域パートナー5者が仙台市の東北大学青葉山新キャンパス内に整備を進めている施設で、稼働開始は2024年度を予定しています。建設費は約380億円となっており、このうち約200億円を国、約180億円を光科学イノベーションセンター、宮城県、仙台市、東北大、東北経済連合会(東経連)の5者が地域パートナーとして負担することになっております。企業は一口5000万円で10年間にわたり年間200時間の施設利用権を持つコアリションメンバーとして加わり、学術メンバーから放射光を使った実験やデータ分析などの支援を受けられる仕組みになっており、約120社が参加を表明し、最終的には210社を目指しているとの報道があります。

 我が国の量子技術は激化する国際競争の中で、アメリカ(googleなど)と比較してもかなり遅れをとっています。前述した通りあらゆる分野において、この量子技術は利便性を高めるものであり、経済安全保障の観点からも量子技術の発展は急務であることは論に違えないものであります。

②「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」は必要か

 そもそもこの法律ができた経緯を文科省は次のように説明しています。
 
「国は、国や関係する研究機関が設置する研究施設のうち、重複して設置することが多額の経費を要するため適当でないと認められる大規模なもので、かつ先端的な科学技術の分野において比類のない性能を有し、科学技術の広範な分野における多様な研究等に活用されることにより、その価値が最大限に発揮されるものについて、広く研究者等の利用に供するため」
 
この法律が成立したのは平成6(1994)年になり、当初はSPring-8(兵庫県佐用郡の施設)の共用を促進するものとして制定されたものになります。
 
さて、この法律案は施設利用の観点から広く利用者との連携を図るという見方でいえば賛同できるものに思えますが、そもそもなぜ国が研究施設を規制しているのかという疑問がうかんできます。「重複して設置することが多額の経費を要するため適当でないと認められる大規模なもの」という説明にある通り国がグリップを握り、民間の研究機会を制限しているように感じます。量子技術研究の特性上、多額の費用や広大な敷地を要することは承知の上で、民間企業などが積極的に研究施設を作れる環境づくりこそ基盤強化につながると考えます。1994年から共用法は施行されており、30年近く経つなかで、
日本の国土は決して広くないとはいえ非常に絞られた数の研究施設しか存在していない現状が発展の速度を鈍化させている原因ではないでしょうか。施設設置者も今回の改正案で「量子科学技術研究開発機構」が追加されたものの国立研究開発法人であり、民間団体が自由に施設を作ることができない状況を撤廃していくことで活発な研究開発が進むのではと考えます。。アメリカは量子コンピュータ企業がいくつもあるのに対し、日本では国産初の量子コンピューターが本格稼働したとの報道が出たのはつい先月の事です。この遅れを取り戻すためにも、民間企業の研究機会が増える環境づくりを望むところです。

③登録施設利用促進機関という第三者委員会 

 今回の改正案にNanoTerasuを「特定先端大型研究施設」に追加すること前述した通りですが、この施設の利用者の選定・支援について第三者委員会である登録施設利用促進機関がおこなうものとあります。公正を期するためというものですが、現在、登録施設利用促進機関は3団体です。そして登録要件は「共用法」第11条に明記されている通りになります。

3団体の一つである「公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)」のHPには選定業務の状況が分かりやすく載っているのでそちらを見ていただくと応募状況等の現状を分かるかと思います。

 Spring-8の利用者数をみるとコロナ禍で落ちはしたものの、年々増加傾向にあったことは見ることができます。採択率も60%台後半から70%台後半の推移となりますが、この数値が適正なものなのかは判断しかねるので所感は控えたいと思います。

JASRI ホームページより
JASRI ホームページより

 選定は各分科会に分けて段階的に行われており、雑多な印象は見受けられないので、より精緻な選定による発展を望むところであります。

④最後に

 今回の改正案に関連する量子技術研究の予算について触れたいと思います。

66Pに今回の改正案に関連する予算額とそのポイントについて記載があります。約483億円と昨年度予算よりは微増ではあるものの大きく変わりはありません。そのなかで今回「特定先端大型研究施設」
に加わるNanoTerasuの予算額は約30億円になります。(令和4年度補正予算がありますが、今回は省略…)この額は国家の意志として注力する額として適当なのか、判断は難しいとことですが、前述したように、30年間でこの分野の発展速度は決して速かったわけではありません。ようやく動き出したといっても過言ではない状況のなか、中途半端に予算だけつけるのなら、規制をなくし、民間企業が研究施設を建設し、研究できる環境を整えるが政府には求められるのではと感じます。世界各国はこの分野に注力し、世界の覇権を握ろうとしています。日本は遅れを取とらないために、スピード感が求められます。そのための施策、税金の使い方を検討してももらいたいです。
 一見研究機会の門戸が広がったかに見えますが、まだまだ規制の中での話なので発展の速度を加速するという点からはさらなる研究環境の整備を政府には求めたいと感じました。

ご拝読ありがとうございました。

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