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情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための社債、株式等の振替に関する法律等の一部を改正する法律案について(政治家女子48党浜田聡参議院議員のお手伝い)

 今回は情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための社債、株式等の振替に関する法律等の一部を改正する法律案についてです。2021年に発足したデジタル庁に見えるように行政もデジタル化が進んでいますが、行政のデジタル化はまだまだ遅れていると言わざるを得ない状況です。今はスマホ一つでもいつでも金融商品が取引できる環境にあります。しかし一部規制があり、不備が生じているのも事実であります。金融庁は今回の法改正案の理由に「情報通信技術の進展及び投資者の多様化をはじめとする資本市場を取り巻く環境の変化に対応し、資本市場の効率化及び活性化を図るため」と述べているように市場活性化のための方策として提出されたものになります。
今回提出されたの法改正の主な内容は4点になります。
 
1.日銀出資証券のデジタル化
2.投資法人、特定目的会社、有限責任監査法人登録簿等のインターネット公表
3.財務書類の虚偽証明等を行った公認会計士等に対する課徴金納付命令に係る審判手続のデジタル化
4.スタートアップ企業の上場日程の期間短縮

これらは金融庁デジタル臨時行政調査会作業部会が発表している「金融界要望の主な方針案について」という資料に基づき作成された法律案になります。(第16回 令和4年11月30日)

①日銀の出資証券の電子化について

 こちらは社債、「株式等の振替に関する法律」の改正にあたります。日本銀行の資本金は1億円となっており、出資証券の内訳は55%を政府から、45%が民間からの出資になっています。そして記名式の出資証券を発行しています。日本銀行には一般の株式会社の株主総会にあたる機関はありません。上場会社の株券は2009年1月に電子化されていますが、日本銀行の出資証券は法律上、電子化の対象となっていませんでした。上場会社の株券電子化された後も、日銀の出資証券は現物有効となっており、譲渡される場合などの諸手続きは、従来どおり現物証券による取扱いとなります。

日本銀行法では以下のように定められています。

第八条 日本銀行の資本金は、政府及び政府以外の者からの出資による一億
    円とする。
  2 前項の日本銀行の資本金のうち政府からの出資の額は、五千五百万
    円を下回ってはならない。

第九条 日本銀行は、前条第一項の出資に対し、出資証券を発行する。
  2 前項の出資証券その他出資に関し必要な事項は、政令で定める。

「日本銀行法」より

株式の取引等がより安全かつ迅速に行われることを目的として2004年6月に「株券電子化」(株券ペーパーレス化)に関する法律が公布されました。
この制度によって、2009年1月5日から、紙に印刷された、全国の各証券取引所に上場している株式会社の株券は無効とされ、株主の権利(株主総会での議決権行使、配当金の受け取り等)は、証券保管振替機構と証券会社などの金融機関の口座で電子的に管理されています。
この株券電子化には次のようなメリットがあります。また、従来、株主が上場株式を担保として金融機関から融資を受けるときには、金融機関(質権者)に対し、質権設定者として所有する株券を引き渡す略式質が主流でしたが、株券電子化実施後は、次のとおり、証券会社等金融機関の口座間の振り替えによって質権設定する方式に変わりました。
電子化される事は多くのメリットがあります。何点か挙げておくと以下の点になるかと思います。

  • 1.管理面:株券を手元に保管することによる盗難・紛失の懸念の解消

  • 2.取引面:偽装証券を取得する懸念の解消、人件費などのコストカット

  • 3.手続き面:証券の受け渡しや取得の都度の名義の書換が不要になる

このような面から、出資証券の電子化にはメリットがあることは明白ですが、日本出資証券はデジタル化するメリットがあるかどうか考察していきたいと思います。

②日銀出資証券を持つとどうなるか

日銀は日本銀行法で設立された認可法人です。そのため株式会社と異なり、1口2口と数えます。出資証券は東京証券取引所に上場されており、100口を1単元で買うことができます。出資証券を持つと、配当金を受けることができます。また、日本銀行が解散した際には残余財産を受け取る権利があります。配当金についても日本銀行法で以下のように定められています。

第53条4項 日本銀行は、財務大臣の認可を受けて、その出資者に対し、各事業年度の損益計算上の
剰余金の配当をすることができる。ただし、払込出資金額に対する当該剰余金の配当の
率は、年百分の五の割合を超えてはならない

「日本銀行法」より

つまり日銀の払込出資金額(=資本金)は1億円なので500万円を超えてはならないという事になります。そして前述したように一般の株式会社とは異なり認可法人のため、議決権は出資者にありません。配当も少なく、議決権もないため、日銀出資証券は持つメリットは多くはないでしょう。世界における日本の経済力を測る指標になるので、覗いておくと経済動向をある程度見ることはできます。今回電子化されるという事ではありますが、日本銀行の出資証券に関して否定も賛同も特になく、手続きの利便性が向上するならば否定する必要はないと思います。

日本銀行の株価(10年チャート)

あえて骨董品として株券で保有しておくという手もありますが(笑)

③スタートアップ企業の上場日程の期間短縮について

 続いて「スタートアップ企業の上場日程の期間短縮」、いわゆる振替法の改正についてです。スタートアップ企業とは、会社の規模や設立年とは関係なく、世の中にない革新的な技術・サービスを提供することで、社会にイノベーションを起こし、短期間にその新しいビジネスモデルを世間に浸透させることを目的とします。また、急成長を果たした後の株式上場や事業売却を行うといった出口戦略を目的としている場合も多いようです。日本のスタートアップ企業として成功した事例としては、フリマアプリの事業やスマホ決済サービスメルペイを運営している「メルカリ」などが挙げられます。
 今回の法改正の目的について「株主保護を図りつつ、実務の改善による短縮を可能とする」とあります。上場承認日から上場日までの間の価格変動リスクから、公開価格がより低く設定されているとの指摘から行われるようです。
新規上場企業は、取引所の上場承認などの手続とともに、株式を証券保管振替機構の取扱対象とする必要があり、振替法上、そのための手続として、既存株主に振替株式の交付先の口座情報を求める通知を上場の「1か月」前までに行うことが規定されています。

スタートアップ創出調整連絡会(2023年2月)

 ここで上場までの流れを確認しておきます。以下の図のように、株式上場を果たすためには、証券取引所の上場審査に合格しなくてはなりません。この審査には、申請の直前期(申請の1年前)と直前々期(申請の2年前)の2期分の監査証明の提出が必要になります。この期間は、審査に耐えうる実績を残す必要があります。つまりおおよそ3年ほどの期間を要することになります。


新規上場基本情報「上場スケジュール」 日本取引所グループ

 しかし、スタートアップが上場する企業の数は極めて低いのが現状であります。東京商工リサーチの調査によると、1年間に登記される会社数は、14万4622社と記載されています。また年間で上場する会社の数は、JPY(日本取引所グループ)による発表では2021年度は136社の新規上場が発表されています。あえて、日本における企業数を分母とすれば0.094%の確率となります。もちろん上場や事業売却などのキャピタルゲインを目指さない起業も含まれますので、数字を鵜吞みにすることはしませんが、年間に起業される会社と同じ年に上場した会社を比較すると上記のような数字となります。以上のことから、上場確率は0.094%以下と極めて低い確率であることが分かります。2021年度に資金調達を実施したスタートアップは1919社です。この数値で計算すると、年間に資金調達を実施したスタートアップが上場する確率は7%ですが、厳密には上場した136社のうちスタートアップとして上場を果たした会社数は限られるため、スタートアップに限れば7%を下回ってくると思われます。
 
 このような状況からスタートアップ企業が、円滑に資金調達を可能にする今回の法改正については規制の緩和と考えてよいのではないか判断いたします。
 
最後までご拝読ありがとうございました。

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