【殺した人が、殺された人を演技する】映画「アクト・オブ・キリング」

最近観て、面白いなーと思った映画をなるべく初見の人にネタバレしすぎないようにメモ。

アクト・オブ・キリング

1965年頃インドネシアで実際に起きた100万人以上が大量虐殺された歴史に迫るドキュメンタリー。虐殺を行ったのは政府や軍ではなく、プレマンと呼ばれる民兵たち。彼らは現在、国民的な英雄として生活している。殺害を実行した彼らが、殺された被害者を演じて映画を撮影する様子を、淡々と記録していく。日本では2014年に公開。監督はアメリカ人のジョシュア・オッペンハイマー。

画像が出なかったけど、Amazon primeでも。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07V2K2BPW

殺した人が、殺された人を演じる映画

インドネシアでは1965年に軍のトップ6名が殺害された事件をきっかけに、黒幕とされた共産党の徹底的な弾圧が始まったそうです。その時、中国系の人たちや共産党、共産主義に関係する人たちは徹底的に殺された。このとき殺害を実行した人達が、今回の映画の主人公です。メインで登場するアンワルという人は、1000人以上殺したことで国民的な英雄になりました。

彼らは殺す側、殺される側の両方を演じて映画にすることで武勇伝として記録に残そうとします。アクト・オブ・キリングはタイトルの通り、彼らの殺しの演技を通して、歴史や人、行為を見つめていくドキュメンタリー映画になっています。


少し背景を知ってから観るのがおすすめ

恥ずかしながらインドネシア=バリ島くらいの認識しかありませんでした。事前に歴史や背景を知っていると、この映画のいろんな意味でのすごさが分かります。私のような人は、少し調べてから観るのがおすすめです。

私は映画評論家、町山智浩さんの解説を先に聞きました。
※公式のものかよく分からなかったので、こちらにはリンクをのせてません。「町山智浩 アクトオブキリング」で検索すると解説しているYoutubeなどがでてきます。

この記事も参考になりました
https://synodos.jp/international/15069

設定に頭が追い付かない

なぜこんなトンデモ設定がおこりうるのか。監督のジョシュアさんは元々被害者にも取材を申し出ていましたが、それがなかなか難しく、加害者を取材することにしたそうです。彼らは英雄なので、国内で自分たちを悪く言う人は存在しない。そして彼ら自身も正義を行ったと思っている。そこで映画の話を持ちかけたところ、自分たちの当時の雄姿を記録するために、ノリノリで撮影がスタートしました。


どんな気持ちで見ていいのか、分からない

あるシーンでは、ガタイのいい青年団リーダーがドラッグクイーンのような衣装、化粧をして真面目に女性役を演じる様子に、笑いそうになる。しかも、若干演技上手だし。

あるシーンでは、豊かな自然の中で女性たちが踊る美しい映像が映る。綺麗な国だなー、行ってみたいなーと思う。

あるシーンでは、針金で首を絞めたり、死んでいく様子演じて見せたり、誇らしげに語る様子がでてくる。

とにかく、いろんな違和感が演出抜きでリアルに存在していて、どういう気持ちで見ていいか分からなくなるときがあります。


隣人の話がつらすぎる、、、

特に撮影所に見学に来たアンワルの隣人が登場する場面は強烈でした。アンワル達が休憩しているとき、作品のために情報提供だと言っておもむろに隣人が、全然笑えない話をまるで世間話をするように語り始めます。 そして、その話はシーンに加えられ、自分で演じることになる。この時の演技が、本当にみていてつらい。

もう少し詳細に説明する予定でしたが、内容がつらすぎてカット。とにかく、観て頂くとこの国の異常な状況がよく分かります。


演じることで被害者を疑似体験していく

アンワルは映画の中で、殺した沢山の人達の殺し方、死に方を自ら演じて再現していきます。すると、段々と心にも変化が起こってくる。やるしかなかった、とこれまでは正当化できていたことが、演技を重ねていくうちに少しずつ揺らいでくる。被害者を演じた拷問シーンは、本当に一瞬殺された気がしたと憔悴し、身体にも変化が起きてくる。

最初と最後に同じ場所で当時を語るシーンが出てきますが、最後は明らかに様子が違う。被害者を1人演じるごとに報いを受けていくような、そんな風にも見えてきます。


おまえは地獄でも、おれは天国

この国で起きた悲惨な状況を「おまえにとっては地獄だが、おれにとっては天国だ」という言葉で表現した青年団の人にはぞっとしました。どんな映画や小説よりも、現実で起こっていること、人が一番怖い。しかも、それが昔ではなく今の話で、日本も無関係じゃないところが、よりリアルさを感じさせる。


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