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たこ焼きが食べたくなった話

どうしてもたこ焼きが食べたくなった。
どうしても。どーーーーしても。

最近行っている稽古場の最寄駅に、たこ焼き屋さんが出来ていた。
行きに通り過ぎるときは大体急いでいるので目に止まらないのですが、帰り道、みんなで一緒にお喋りしながら通りかかると、すっごく目に入る。
お腹が空いているので余計に目に入る。

「たこ焼き屋さん、出来てますね」
「たこ焼き屋さん、出来てるなあ」

ドラマ「カルテット」のかの有名なシーン、「レモン、ありますね」を彷彿とさせるやりとり。

我々も「唐揚げにレモンかけるかかけないか」を議論するかの如く、「ふわふわたこ焼きが好きか、カリカリたこ焼きがいいか」を議論。
私個人としてはカリトロたこ焼きの方が好きだ。家でたこ焼きを作る時も、出来るだけ外側はパリッとするように焼く。

その日、帰り道が途中まで一緒だった子はスーパーのたこ焼き(ふわふわ)が好きらしく、山芋が入っててふわふわ極めてるんですよなどと語ってくる。
美味しそうだ。
明石焼きもふわふわだもんね、ふわふわもいいよね、でもカリトロも好き、どっちも好き、などと話していると、どんどん2人ともたこ焼きが食べたくなってきた。

「今日、晩御飯、そのスーパーのたこ焼きにします」

その子は拳を握りしめて言った。
今週一週間、とても孤独で辛い思いをしたから(一体何があったんだろうか)今日は稽古終わって帰ったら絶対飲む、と決めていたらしい。
その子がお酒を飲んでいるのをあまり見たことがないので、よっぽどなんだろうなと思う。

「ほな私も晩御飯、たこ焼きにする」

私もすっかりたこ焼きの口になっていたので思わずそう言った。
絶対食べる。たこ焼きを。必ず!!!!2人でそう誓い合った。桃園の誓いだ。(1人足りないし桃園でもないし)

そして私はその子と別れて、現在地から一番近いたこ焼き屋さんに向かった。私の地元の駅にはたこ焼き屋さんは無いし、あったもしても地元に戻る頃には夜が遅過ぎて何も開いていない。なので大阪市内で買って食べるつもりだった。

しばらく歩くとカリトロたこ焼きの代表、銀だこの看板が見えて来る。定番のソースもいいな。ポン酢であっさりもいいな。でも他のもいいな。たまには照り焼きとか食べようかな。いや照り焼きっていつでもあるメニューなのかな?

もう口の中は涎まみれだ。たこ焼きを欲している。たっこやき!たっこやき!!!

銀だこに近付いている途中、LINEでメッセージが入った。先程別れたあの子だ。お互いに用事が無ければLINEをしないタイプなので、年に2.3回やり取りがあればいい方だ。何かあったのだろうか。
私は素早くスマホを開く。
すると悲しそうなスタンプと共に、更に悲しそうなメッセージが表示された。

「たこ焼き売り切れてました…」

えっ…

えっ………!!??

嘘だ…私なんかよりたこ焼きを欲しているであろう彼女がたこ焼きを手に入れられないだなんて…!!
今週の辛さを回復させるための晩酌の肴が…!!
私もうっかり相当なショックを受けてしまいその場で立ち止まった。途方に暮れて銀だこを見やる。そして気がついた。それなりにいい時間なのだが銀だこは長蛇の列だった。えっ。めちゃ並んでるやん。お祭りぐらい並んでるやん。なんでみんなこんなたこ焼き食べたいのん?人のこと言えへんけど。

私はその列を見ながらしばらくその場で考えた。
この列に並んだらたこ焼きが手に入るのは30分ぐらいはかかるんじゃないだろうか。
並べば手に入る。しかし、私よりたこ焼きを必要としている彼女がたこ焼きを食べられないのに、私がたこ焼きを食べてもいいのだろうか。なんならここでたこ焼きを買って届けてあげたいぐらいだ。電車の時間もあるのでそれはむりなんだけど。

しかし桃園の誓いをした2人だ、我々は生死を共にする義兄弟なのだ。つまり、彼女がたこ焼きを食べないのなら、私も食べない。これが!!!!仁義!!!!!!!(ドンッ!!!)

私は(さっむいのに並ぶのもやだなという気持ちも半分)「銀だこめちゃくちゃ並んでるから私も今日はやめとく」と打ち込んだ。
願わくば彼女に、たこ焼きに変わる素晴らしい肴が見つかりますように…とまで返信し、スマホを閉じた。

さあ。じゃあ今日の晩御飯はどうしよう。
帰れば何かあるけど、何か出来合いのものを食べたかった。もうなんかそういう口になっている。どうしたものか。

今年の目標のひとつ(他にも色々あってぜんぶで24個ある)「コンビニでコーヒーとおやつを買わない」を実践しているおかげで、とんとコンビニに立ち寄らなくなったのだが、コンビニが憎いわけではない。
久しぶりにコンビニ飯でも食べようかな、とコンビニ向かって歩いていると、彼女から返信が来た。

「私、たこ焼き諦めきれなくて…冷凍のたこ焼き買っちゃいました!」

な、
なんだとおおおおお!!!!
その手があったか!!!!!!!
天才か!!!!!!!!!!

コンビニに駆け込んだ。
彼女がたこ焼きを食べるのなら!私も!食べる!!それが!!!仁義!!!!!!(2度目)

案外たこ焼きがおいてなくて、彼女に「無い!無い!」とLINEをしつつ、3件目でようやく手に入れた。店員さんにチンしてもらってほこほこだ。
パックの上の方が汗をかいて輝いている。私はとてつもない達成感を感じた。

「私もたこ焼き手に入れた!では、素敵なたこ焼きナイトを!」
と返信すると、彼女から「カンパイ!」のスタンプが送られてきた。
私は満足して胸ポケットにスマホをしまう。

その日食べたたこ焼きは、ここ最近で一番美味しかった。


◆編集後記◆
好きな食べ物はたくさんあるんですが、いつでも食べたいのはたこ焼きです。
あ、ラーメンも同じぐらい好き。

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