対抗せよ! 発信者開示請求の簡易化による表現の萎縮
本記事に至る経緯とその趣旨(手嶋海嶺)
ゆっくりしていってね!!
昨今、発信者開示請求の手続きが大幅に簡易化し、名誉毀損や侮辱、脅迫の被害者救済が積極的に図られているわ。
それ自体は良いことだけれど、「批判」と「誹謗中傷」の境界線も曖昧なまま、「リツイート罪」どころか「いいね罪」まで生み出されている現状を鑑みると、スラップ訴訟に悪用されて、表現の萎縮が起きることが懸念されるわね(既にこの萎縮は起きているとも思うけど)。
そんな中、銀星レンさんが同様の問題意識に基づき、次のnote記事を公開したわ。
匿名性の高いTorブラウザを用いてTwitterアカウントを開設し、もし発信者開示請求がかかっても、容易には自分にたどり着けないようにする技術が紹介されているわ。
あくまでも「容易には……」だから、本気を出されたらバレるんだけど、特定に至るまでの金銭的・時間的負担が爆増するから、その分は安全になるという感じね。
なお、記事で紹介されている技術は、Twitter社によるアカウント凍結を防げるものではないし、銀星レンさんとしても、これを誹謗中傷に悪用することを勧めている訳ではないわ。
私としては優れた対策だと思い、ツイートにて紹介させて頂いたところ、マスナリジュンさんから次のコメントを頂いたわ。
さて。私がお答えしても良かったのだけれど(真っ向否定という訳ではないにせよ、思うことはいくつかある)、銀星レンさんの記事についてのコメントだし、銀星レンさんに答えて頂いた方が良いでしょう。
というわけで、銀星レンさんに執筆依頼をかけて、マジで書いてもらうことにしたわ!
ではでは、よろしくするのだわ!
リスク管理の考え方(銀星レン)
ご紹介頂きました銀星レンです。
ここからは私の文章ですので、ご注意ください(手嶋様にも、文章添削や具体例で助けては頂きましたが)。
マスナリジュン様からのコメントには、「リスク管理の考え方が私と違う」というのが率直な感想です。
どういったリスクに対し、どこまで対策するか?
これは個人のリスク認識の仕方、考え方による所であり、議論によって見解を一致させたり、妥協点を探ったりする必要は別にありません。
従いまして、私がどういう点でリスクだと考えているかを説明するに留めます。
1.訴訟される確率は低いけれど
インターネットにおける誹謗中傷(名誉毀損・侮辱)について言えば、検察に立件されるのは年間約400件(2021年犯罪白書)に過ぎません。毎日投稿されている誹謗中傷の数を思えば、自分に当たる確率は「非常に低い」でしょう。
しかし、私が警戒を呼び掛けた「表現の自由界隈」に関していえば、特に「誹謗中傷の被害に遭った」と主張してはすぐ訴訟を起こすことで知られる左派言論人・フェミニストを頻繁に批判しています。
こうした局所的リスクは、全体でならしたリスクとは一致しません。また、そうした批判を行う人は、発言数も多く、対象も誰か一人に絞ってはいない(複数を批判している)事が多いです。
「海で溺死するリスク」は海に行かなければ0%です。しかし、海にいけば少なくとも0%より大きいでしょう。さらに、職業が漁師である等の事情で継続的に海に行くなら、1回1回では小さなリスクでも「そのうち当たる」可能性は決して軽視できません。
夏休みに2~3回、レジャー目的のビーチで遊ぶくらいなら、確かにいちいち「救命胴衣をつけろ」というのも不自然です。しかし、「年100回は漁船で沖に出る」なら、救命胴衣の装着は必須です。
表現の自由・アンチフェミ・フェミ・左派言論界隈は、毎日誰かしらが炎上しているような「とてつもなく荒れた海」です。監視員が置かれ、防護網が張られたレジャービーチではありません。
2.確率は変化する
実際、界隈の某アルファアカウントは現在進行形で訴訟を受けていますし、過去にはあるフェミニストのアカウントに「おっぱい大きいですね」という旨のリプライを送った人が訴えられたりしています。自分の発言ではなく、リツイートやいいねであっても訴訟が起きていることは周知の通りです。
「どこまでがセーフでどこからがアウトか?」といった基準や、ネット誹謗中傷にまつわる訴訟を取り巻く状況がきわめて流動的である事を考慮に入れるべきです。
もし過去のデータに基づいて「リスクは低い」と計算できたとしても、それをそのまま今日や明日に適用していいかは分かりません。
発信者開示請求に関しては、先月に手続きの大幅な簡易化・迅速化があったばかりです。
最大の変化は、発信者開示請求に「非訟事件手続法」が適用されるようになった事ですが、これはあまり認知されていません。
詳しい解説は法律系の人にお任せしますが、裁判所が開示命令を出す際に負う責任が大幅に減って、驚くほどハードルが下がったとご理解ください。
従来は数段階を踏むノロノロした裁判手続きをやっている最中に、アクセスログの保管期間が終了してしまい、「開示請求命令は受け容れられたけど、開示させる情報がない!」といった状況も頻発していました。
しかし、これも「最終的に開示命令を出せるかどうかはともかく、対象となったアクセスログはいったん保存しておけ命令」がサーバー運営者側に出せるように変化しました。
「Twitter社が開示する情報は限定的です」というのも、いつまで続くのか、「限定的であること」が正当な批判の安全性をどこまで担保するものなのか不透明です。今後も限定的なままだとも言えません。
簡単にまとめます。
局所的なリスクと、全体でならしたリスクは異なる。「表現の自由界隈」のリスクは他にくらべて高いと思われる。
その局所的なリスクに「繰り返し」「複数を対象に」挑むことにより、「そのうち訴訟される可能性」はさらに高くなる。
発信者開示請求に関する制度まわりは、大幅に「開示請求をする側」に有利な内容へと変化した。これまでの知見に基づくリスク計算は通用しない。
ここまでは「リスクがそう低いとは言えない」ことの説明でした。
3.リスクが現実化した時のダメージ
リスク管理を確率だけで考えることも不適切です。そのリスクが現実化したときのダメージの大きさも重要です。
私は公開したnoteで「貧乏人の表現の自由」と題した通り、特にお金がなく、雇われの身の人にとっては、「訴訟を起こされること」そのものが大きなダメージとなることを説明しました。
勝つか負けるかだけが問題ではありません。
勝ったとしても、経済的・時間的損失はある種の人々にとっては非常に重く、会社から解雇や左遷されることもあり得ます(左遷の場合は、「裁判沙汰になるようなヤバイ奴だから」と馬鹿正直に伝えてはくれないでしょう。「彼の持っている知識や技術が〇〇の部署に向いている」と雑に言われると思います)。
「法律には違反していなかったが、弊社が設定しているコンプライアンスや社内規定に違反していた」と言われる可能性も検討するべきでしょう。
マスナリジュン様は、「不当に訴訟されて経済的余裕がない場合には、法テラスで相談すると良いです」と仰いますが、これは疑問です。
マスナリジュン様の話は「事故った後」の対応であり、予防を考える私の問題意識とは少々異なるのです。
私は経済的余裕がないため、不当な訴訟を起こされた場合は――正当な訴訟であっても――法テラスに頼るでしょうが、「そもそも事故りたくない」「事故る確率を下げるにはどうしたらいいか」というのが根本にあります。
Tor版Twitterは確かに面倒です。救命胴衣の着用と同じくらい面倒でしょう。
「実際に海に落ちてしまったけど、救命胴衣のおかげで助かった!」という体験をすることも現実的には稀です。よく車を運転する人でも、「シートベルトをつけててよかったなあ」と思うことが少ないのと同じです。
「心配し過ぎ」だったらそれでもいいのです。救命胴衣が活躍する場面が人生で一度もこないなら、良いことです。
なお「海に行かない」も選択肢のうちですが、それはコメントの通り「表現の萎縮」そのもので、そうなるくらいなら……と考えたのがTor版Twitterの使用です。
4.杞憂に終わるならそれでいい。救命胴衣をつけよう。
私としましては、以上の理由によって、政治的に争いのある言論の場にTwitterで立つなら、Tor版Twitterの利用を強く推奨します。
「自分ではそんなに発言するつもりはないけど……」という人であっても、リツイートやいいねをするなら、法的リスクはあまり変わらないと見ておいた方が安全でしょう。
そして、
「法テラスがあるから大丈夫」
「不当な訴訟なら、きっと裁判所が正しく判断してくれて、自分を勝たせてくれる」
「自分が裁判に勝てば、会社での地位や今後は危うくならない」
このような仮定は、必ずしも成立しないので、私の目からは非常に危なっかしく見えます。
「言論の萎縮を避けるためにも、救命胴衣(Tor)を着用しませんか?」が私からの提案です。
「いや、別にいいよ」とお考えになるならそれも良いでしょう。初めに申し上げた通り、リスク管理については個々の考え方があり、無理に認識をすり合わせる必要はないからです。
ここまで、「私はこう考えて、こうしています」という説明でした。
長々とした語りをしてしまい、失礼しました。ありがとうございました。
おわりに(手嶋海嶺)
ゆっくりありがとう~! お疲れ様だったのだわ!
私はぶっちゃけTor版Twitterにしちゃたいんだけど、もうかなり手遅れだから出来ないのだわ。一応、誹謗中傷の言葉を使ったり、人身攻撃(という論法)をしたり、あるいは軽率に犯罪名と人を結び付けたりはしていないつもりだけど……「訴訟を起こされるかどうか」は相手次第だから分からないわね。
もし今のアカウントからは何らかの事情で発信できなくなって、新規アカウントを作成するときは、銀星レンさんのアイデアを頂いて匿名性を高めた運用をするでしょう(その時は「どうも~、故・手嶋海嶺です!」とは教えてあげられないけど)。
表現の自由を守るために、自己防衛が大切になってきた。そんな時機だと思ってはいるわ。
開示請求の制度変更もそうだけど、Twitterもイーロン・マスクさんにトップが変わったし、それらも含めて色々と「過去の知見が通用しない未知のリスク」が発生していると見るわ。
皆さんもご自身のSNS運用を一度考えてみてね!
今回は以上! 銀星レンさん、ありがとうございました!
最後はお礼メッセージと、ちょっとした私からのオマケ文章(銀星レンさんと通話して感じたことなどについて)が表示されるだけの有料エリアよ。冒頭で述べた通り、本記事のサポートは時間をかけて記事を書いてくださった銀星レンさんにお渡しするわ。
記事のスキ&シェア、そして銀星レンさんのフォローをお願いするわ!
ここから先は
¥ 500
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?