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TUBA -大企業によるベンチャー活用のひとつのモデル

フランスリヨンにTUBAというオーガナイゼーションがあります。リヨン市が音頭を取り、ヴェオリア・ウォーターなどのリヨンに拠点を置く大企業が出資することで作られた組織です。リヨンという都市の未来像をデザインすることをミッションとしています。

TUBAは、市の中心部でシェアオフィスを運営しています。このインキュベーション施設が特徴的なのは、TUBAの母体となっている大企業が自身の保有する膨大なデータをここで働くベンチャーに開放していることです。たとえば世界有数の水メジャーであるヴェオリア・ウォーターは、世界各国で運用している上下水道に関する情報を無償で提供しています。ベンチャーはそれらのデータを活用し、事業を企画・開発することができます。また、開発したソリューションを加盟企業でテスト運用する枠組みも用意されています。ベンチャーの立場で見ると、大企業のデータというリソースを活用し、大企業を実験台にテストマーケティングできるという意味で、まったくのゼロベースで起業するよりも圧倒的に有利な環境がそこにあります。TUBAで働くスタートアップたちが、あたかも大企業の開発部門のように動いているのです。

大企業にとってもメリットがあります。データとテスト基盤の提供という「餌」をまくことで、有能な人材を集めることができるからです。スタートアップの起業家は、より成功確率の高いビジネス領域を探し求めています。TUBAには、野心的で優秀な人材が集まるようになっているのです。しかも、そこにかかる人件費はゼロ。大企業は、ベンチャーが開発したソリューションの実装化の蓋然性が高まった時点で、投資や提携を検討すれば良いのです。

日本企業は、総額18兆円もの研究開発投資を行っています。世界第3位の規模です。しかしながら、そのほとんどが大企業による社内投資に向けられているのが実情です。日本の大企業のベンチャー投資は、欧米や中国に比べて圧倒的に小さい規模にとどまっています。多額の採用コストをかけ、育成に莫大なエネルギーをかけた忠誠心の高い虎の子の人材を活用したくなる気持ちはよく分かります。けれども、すべてを社内で行おうとすること自体に、大企業によるイノベーションの限界があるようにも思えるのです。

イノベーションには、組織の常識や枠組みに捕らわれないことが必要です。山っ気が強くやんちゃだけれど、組織の枠に縛られていない優秀人材。与えられたことを仕事としてこなすのではなく、自ら進んで開発に没頭してくれる彼らを活用しない手はありません。TUBAの例は、そのひとつのモデルを示しているように思えます。


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