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墨田区東向島・山口産業株式会社"なめし皮"

 東京都のものづくりの街である墨田区。今回はその墨田区の中で有名な"なめし皮"という産業を掘り下げてみた。

1、"なめし皮"とは?

 "なめし"とはもともと皮膚であったものが「革(かわ)」へと変化したものである。そしてこの鞣し(なめし)が盛んな理由として挙げられるのは川が要因である。通常、なめしを作るのには大量の水が必要である。墨田区は江戸時代に墨田川や運河の水利を生かして瓦・染色・材木・鋳物などの地場産業が発達した。それと同時になめし皮も発達したのではないかと筆者は考える。

 下の画像はなめし皮を作る際に必要とされるタンナーというものである。この画像からも大量の水が必要であることがわかる。

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2、東向島のなめし皮産業『山口産業株式会社』

 『山口産業株式会社』の他とは違う特徴は「人にも自然にも優しい、素肌のような皮を作る」ということである。これを聞くと「素肌のような皮?」と疑問にもつ人が多いだろう。ここでいう"素肌のような皮"というのは、「軽やかで優しい肌触りと温かみのある皮革素材である」、「赤ちゃんが手で触れても安全」、「土に還すことができる」、「一切の六価クロム(毒)が検出されない」ということだそうだ。

 またこの「素肌のような皮」を作る取り組みのひとつとしては2つある。それは「ピッグスキン」と「ラセッテー」というものである。ひとつずつ紹介していく。

①ピッグスキン

 このピッグスキンというのは天然の革である。ピッグスキンは主に東京都墨田区で生産され、国内生産量の9割を担っている。この国内のピッグスキンはとても貴重なものであり平成28年度現在、月産約3万枚前後の素材である。この国産豚皮の素材としての魅力は肌がきれいで大きいことが挙げられる。これは海外でも有名で日本の豚皮が多く使用されている。

②ラセッテー

ラセッテーなめし皮は、クロムなめし剤など金属系なめし剤を一切使わずに、計画的植林によるミモザアカシアの樹皮を主成分に使用しているものである。

3、優しい革の約束

 なぜここまでして山口産業は環境に貢献しているのか。それは「優しい革の約束」を守っているからである。靴やバックを作るときに使用される本革はほとんどがクロムなど重金属系の工業製品が使われている。そしてそれには毒性の高い"六価クロム"が検出されることもある。

(クロムとは動物皮を使用した皮革素材である。石油などから作られる合成皮革や人口皮革は含まれない。)

 そこで作られたものが先ほど述べた「ラセッテー」というものだ。自然と共存しながら明るい未来につなげる。それが「優しい革の約束」である。

4、ファッションブランドに愛される製品を

 山口産業は数多くのファッションブランドから愛されている。その例として、銀座和公社のバッグ、百貨店三越のオリジナル靴、SEIKO社の時計など誰もが一度は聞いたことのあるブランドを手掛けている。またそれ以外に国内外有数のメゾン、ファッション・インテリアブランドに愛され続けている製造業会社である。世界にも進出しているというから驚きである。

5、Google street viewで見る


 周りを見ると墨田区の特徴である住宅街に工場が存在しているという条件に山口産業も当てはまっていることがわかった。

次に航空写真から見てみた。

この写真から見てわかるのは鞣し革を作るときの特徴である、「川の近くにある」ということである。このことから革を作る際に荒川を使用していたということがわかった。 

 なぜ川の近くにあるのかということについては前述で述べたように、鞣しを作る際にたくさんの水を必要としているからである。

6、今後の展開

 山口産業の今後の展開としてMATAGIプロジェクトというものを進めていることがわかった。このプロジェクトは今まで害獣だったもの(シカやイノシシ)を処理した後の獣革をなめしてから還すというものである。今まで駆除された害獣の肉や革は利用することなく捨てられていった。これを活用しよう、害獣とされてきたものと共生しよう、という取り組みがMATAGIプロジェクトである。

 現在全国160の団体・個人と連携して、地域の活性化を目指している。

 ちなみに山口産業はこのプロジェクトの実行委員会となっている。このプロジェクトは今はコロナで活動が休止となってしまっているが随時説明会を開き、工場見学も行っているらしい。

 実はこのプロジェクトは一般からでも簡単に参加することができるので気になる方はFacebookをご確認していただきたい。

MATAGIプロジェクト Facebook 

 次々に新しい方面へと向かう山口産業に今後も様々な人や企業が手を貸し、事業の規模が大きくなっていく。

 少しの時間に大きな変化を見せる山口産業の10年後は一体どうなっているのか想像もつかないが、今より多くの人が山口産業に協力しているということは確実である。

 これからの墨田区・東向島「山口産業株式会社」の活動に期待を膨らませる。

 


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