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梅山 いつき『アングラ演劇論――叛乱する言葉、偽りの肉体、運動する躰』(作品社、2012年)を読みました。

アングラ演劇を研究する著者の博士論文をまとめたものです。唐十郎、鈴木忠志、別役実、演劇センター68/71(黒テント)を取り上げて詳細に論じています。それぞれのプレイヤーを網羅的に論じるのではなく、例えば唐十郎であればジョン・シルバーシリーズを取り上げるなど焦点を絞って制度のの高い分析をしています。扇田昭彦など評論家によるものだけでなく学者の書物を読めるのはファンにとっては贅沢ですね。別役実はまだ余り知りませんが本書を読んで興味を持ちました。
本書より…
銭湯の主人から役者へと転身するまでの間、物語で貫かれている中心線といえるものはシルバーの海への思い、すなわち自らの起源を取り戻そうという強い意志である。銭湯の主人から役者への転身は、「見る側」から「見られる側」への変転といいかえられるが、「見る側」という立場は、番台から脱衣所を見おろすことのみを意味するのではなく、海という生命の起源回帰しようとする自己の内側に向けられたシルバーの意識を指してもいる。ゆえに、銭湯を飛び出すという小説冒頭の出立から博物館を後にするまでのシルバーにとって、旅は新たな世界を目指す冒険にはならず、彼の行為は円環状に閉じられる。

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