がんをめぐる冒険(10)手術へ向け、パラレル診療と冒険

 CTの結果で、脳などの転移は見当たらず、教授の先生は一言、
「うーん、悩ましい。卵管と卵巣を取ってみないとわからないので、検査手術をしましょう」
 と、手術(検査手術)の方針に決まりました。
 方針は決まりつつ、今度は胃カメラと腸のカメラ。実際にカメラで見て、CTの結果に確証を得て、手術です。さらに、腫瘍科の受診も決まりました。
 検査手術の方針決定→胃大腸カメラ→(仮)手術日
          →腫瘍科受診→遺伝子検査の予約
                       という流れです。
 こういうスピーディーな対応をしてくれるのは非常にありがたかったです。というのも、半年前に亡くした父が入院していたS大学病院は、工程を1ステップずつコマを進めるタイプで、順序を曲げることはなく、面倒な手術はしない方向に捻じ曲げられ(あとで訪問医の先生に聞いてわかった)、その間に院内感染でコロナにかかり、忸怩たる思いでした。それだけに、物事が並行して進むこの状況がすごくありがたく感じるとともに、K大学病院のクレバーさを感じました。この病院、先生のもとなら、セレブ患者でもない私のような一般市民でもスピーディーに進めてもらえる。信頼できる環境だと確信しました。
 父の担当医は自分の頭では何も考えないタイプだったのか、考えられなかったのか、とにかく並行して仕事ができないことは確かで、こう言い切るまでには長い年月の医師とのやり取りがあって、自分の体験のもと言い切っています。実家に近い大学病院で、救急でも受け付けていてお世話になっている病院でしたが、いつの間にか院内の様子がおかしくなっていて、診察の現場には若手の先生しかいない。指導医も30代くらいで、中堅の先生がいませんでした。一般企業と同じで、これではマニュアルから脱することはできず、パラレル思考は望めません。
 芸能界でもマネジメント側にパラレル思考がないためにグループアイドルを腐らせてしまうことが問題になった時期がありました。メンバー人気のある子に仕事が集中し、それ以外のメンバーと人気格差が進むという悪循環です。AKB48全盛の頃、大人数のアイドルグループが乱立しましたが、人数が多すぎてマネジメント側がスケジュール調整できずに、結果的に人気の子がテレビ番組出演が決まるとその他のメンバーはヒマになることが起きていたのです。やっぱり、並行して物事を進行させるマネジメント能力は医療の場面でも必要ですね。
 腫瘍外科に行くことになったのは、右足の付け根の転移がんのためが大きいようでした。右足の転移がんが卵巣周辺からたどってきた道には転移がないから、卵巣が原発(もと)なのか、遺伝性のものなのか、多面的に診察することが目的。たかが子宮まわりのがんとはいえ、いろんな分野の診察を受ける必要がありました。私は、これをひとつの冒険ととらえ、自分は「がんをめぐる冒険」に出たと考えることにしました。

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